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雨夜と猫


このところ、雨が多い。

高校生の頃、雨が大嫌いだった。
傘は邪魔になるし、せっかくセットした髪はすぐに崩れるし、服は濡れるし、気分も落ち込む。

雨なんて降らなければ良いのに、と心から思っていた。

気持ちが変わってきたのは、まだ最近の事。
相変わらず傘は邪魔だし、髪もボサボサ、服も濡れるけど、少しだけ雨が好きになった。

夜の雨が好きだ。
しとしとと、アスファルトに打ち付ける雨音。
街頭にも雨が降り注いで、ぼんやりと灯りが滲んで見える様子。
土と混ざったような、匂い。

普段から割とぼーっとしている方だけど、雨の夜は、よりぼんやりと雨音に耳を澄ます。
何だか、そういう時間が心地よくて、愛おしく思うようになったのだ。

そんな雨の夜は、猫も窓から外を眺めている。
猫の視力はそんなに良くないと聞くけれど、雨が降っている様子は目に見えているのだろうか?
それとも、耳で感じているのだろうか。

照明を落として、小さな灯りだけを付けた部屋は温かく感じる。
窓辺でぼんやりしている猫の頭を、なでなで。
嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らすので、お背中もなでなで。

雨の日の猫の毛は湿気を含んでいるのか、ちょっぴり重たい気がする。
気のせいかもしれないけど、いつもよりしっとりしている背中を撫でで、顔を埋める。

ちょっと嫌そうな顔してるけど、気のせいだと思いたい。

夜、雨が降ると、ある情景を思い出す。

子供の頃、家族で車で少し遠出をした時。
日が暮れたサービスエリアで、雨が降ってきたのだ。
パラパラと降る雨が、車のライトに反射して眩しく光る。

それがいつだったのか、どこへ行った帰りなのかは思い出せない。
ただ、その情景だけが焼き付いている。

雨の夜は、周りがとても静かな分、自分の中に空白の部分が産まれる。  
その空白に、ふと昔の記憶が現れる時がある。
隙間から想い出が溢れ出てくるような、そんな感覚になるのだ。

そういった感覚を知ってしまったから、雨が好きになったのかもしれない。

傍に居てくれる、猫の温かさが手のひらから伝わる。
こんな夜の日の記憶も、またいつかふと思い出す時が来るのだろうか。
そしたら、より雨が好きになるだろうなあ。

これを書いている今日は、冷んやりと雨模様。
どんな日でも愛おしく思えたら、それほど幸せな事は無いだろう。
なかなか難しいけれど、素朴で温かい記憶をさらに温めて、美しいものにしていきたい。

これから梅雨がやってくる。
猫のちょっぴりしっとりした身体を撫でで、また雨と、夜と、猫を愛おしく思うだろう。

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