「こだわり」の意味と使い方
しばらく前に見たテレビ番組で、あるレポーターが農家を取材していた。その農家では、非常に丁寧に野菜を育ており、一つ一つの工程を考え抜いて実行していた。レポーターはその様子を見て「とてもこだわっていらっしゃる」と表現した。これに対して、農家は「こだわりではない、必要不可欠なことだからやっている」と返した。レポーターは「とてもこだわっていることが分かりました」と再び同じ表現を使って会話を締めくくった。農家は「こだわっている」と言われたことに違和感があったようだが、なぜか?
まず、辞書で「こだわり・こだわる」の意味を確認してみたい。
レポーターは、農家の妥協なく取り組む様子に感心し、②を意味して「こだわっている」と表したのだろう。だが、果たしてそのように伝わっていたか、農家の様子から少々疑問が残る。すぐに反論したところを見ると、①の意味として受け取ったのかもしれない。では、②として伝わっていたなら違和感を持たなかったか?農家にしてみれば、出荷に値する品質を確保するために「当たり前」に取り組んでいることであって、「価値の追求」ではない。やはりレポーターに正しく理解されたとは思えなかっただろう。
「こだわる・こだわり」にはプラスとマイナスの両方の意味があり、なかなか使いこなしが難しい言葉だ。また、たとえプラスの意味で用いても、正しい説明につながらなければ、行き違いの元になる。どの言葉もそうだろう。レポートの風景から、そんなことに気付かされた。
シニアコンサルタント 花井 紀子