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【読書感想19】ムーミン谷の夏まつり/トーベ・ヤンソン

これまでのムーミンのイメージを覆された、かなりの冒険作と言っていいかもしれない。まず、舞台がムーミン谷ではない。ムーミン谷は物語の冒頭で洪水に沈んでしまって、そこに流れてきた劇場に乗り込んでムーミン一家+αは旅に出る。旅の過程で、ムーミンとそのガールフレンド(「スノークのおじょうさん」。アニメ版で言うフローレン。)は牢屋に入れられ、ムーミンパパは芝居の脚本を書く。ムーミンたちと関係のないところでではあるがスナフキンは自由のために暴れた結果(?)、24人の子供を育てることになってしまう。ここはかなり衝撃だった笑。想像できるだろうか?唯一無二の親友であるムーミンとすら一年中は一緒にいないさすらいの旅人が、一時的にせよ子供の面倒を見るのだ。それも24人も!
全員が少し変なんだけど全員が大真面目であるというところがムーミンの世界の醍醐味で、今作でもそれは遺憾なく発揮されている。個性的なキャラクター達の中でも特に悲観的/皮肉屋/偏屈な女性キャラはかなり多く、それも一つの注目すべき特色ではあるのだが、その中で1人だけ常識人であるムーミンママはやはり異彩を放っていると言えよう。「常識人」と言っても我々の世界にいる常識人と同じ意味と言うよりは、着眼点が極めて家庭的であるということかもしれない。悲劇においては家族はいがみ合うものだというエンマ(演劇のプロ)に対して、「どうして同じ家族なのにいがみ合うの?」と聞くとか、「はい虫はレタスを少し残しておくこと」という立て札を庭に立てることを提案する、などなど、いわゆる「お母さん」的な発想から出てきてるんだけど、着地点が少しおかしいというか。個人的に好きだったのはムーミン一家が劇をやる時、たっぷり溜めてからセリフを言いたいプリマドンナのミーサに対して、ミーサがセリフを忘れてしまったのだと思って舞台袖からムーミンママが小声でささやき、ミーサに怒られるシーン。これもムーミンママらしい家庭的な気の回し方と言えるだろう(他方普通のお母さんはこういうことしないと思うので、その意味でやはり「家庭的でありながら個性的」なのである)。
今作のキーパーソンである劇場の主エンマがどういう人かということについて、読んでいる間自分は、対人関係において偏屈だけど自分のプロフェッショナルの領域になると突然輝き出すタイプの人をモデルにした登場人物かと思っていたが、舞台監督として尊敬していた夫をなくしたことが彼女の性格に影響を与えているのだろうという読み方が解説に書いてあり、なるほどと思った。

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