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3回の訪問で営業を成功させる

私が人の能力開発に携わった時に最初に作ったのは営業向けの研修でした。もう20年も前の話ですが。
自社の製品やサービスを顧客に買ってもらうために、如何にして準備して訪問時のトークを展開し受注を得るかまでのプロセスを知り、そこで使われる基本的なセールス・スキルを一つ一つ教えてゆくというものです。

私自身10年の営業経験があることもあり、それなりの思い入れを持って研修をデザインをするのですが、初めてやった時はもちろんベースとなる物がありました。
私の場合は外資ゆえに、もともとのコンテンツはアメリカで作られた英語で作られたものでした。そのコンテンツが意図しているものを理解し、日本に合うように言葉や表現を整えつつ、分かりやすい事例を盛り込んで作り込んでいきます。

時の流れと共に、営業のやり方やスタイルも少しずつ変わってゆくので、営業の研修も一回作ったら終わりということはなく、アップデートしたり新しい手法を取り入れたりして進化させ続けることとなり、結果的にいくつかの営業研修を作ってきました。
昨今は、リモートで商談をするような場面も多くなってきていますので、これからさらに変化してゆく分野ではないかなと思っています。

営業のパフォーマンスを考えるにあたって真っ先に考えられるのは「売上」となりますよね。そして、売上は顧客の数 × 一顧客あたり売上に分解されることになります。
一件の顧客に値段の高いものをたくさん買ってもらえるように、言葉を変えればこちらの提供価値を理解してもらい喜んでお金を差し出してもらえるように持ってゆくのがセールス・スキル、つまり売り込むスキルですよね。

しかし、そのためにどれだけ時間をかけても良いということでも最近は無くなってきているのかもしれません。やはり、数をとってゆくということは重要です。それは上記の売上の計算式からの意味だけではなくマーケティング的な意味においても。
また、変化のスピードがますます速くなっていっている現代では、顧客のニーズが変化する前に商談を完結させる必要も出てきているようです。
つまり短いサイクルタイム、より少ない訪問回数や短い商談時間、で営業活動を完了させる必要性が上がってきているように私はみています。

シックスシグマで業務改善活動をやっていた頃、営業のプロセスを分析するためにかなりの数のヒアリングを行いました。その中で、どんな業界の営業であっても普遍的に共通する営業活動の流れがあり、優秀な営業マンほどその流れを短く上手に進めていることを見出すことができました。
そこから発見したことは、実は三回顧客を訪問できれば、商談は完結させることができるはずだということでした。順に見てゆきましょう。

一回目

商談の1回目のゴールを一言で言うと、「次に話を聞いてもらえる関係性を作る」になります。
相手が製品やサービスが欲しいからすぐに話を聞きたいという場合でもない限り、1回目から売り込みをかけると言うことはしないほうが良いと考えています。

アポイントが取れたからには、相手にはこちらに対する興味があるか、相手の中に解決したい何かがある、あるいはその両方のはずです。しかしいきなり、その話をするのではなくまずはお互いを理解し合うと言うことが必要です。
これは、人間同士が話をする上での基本ではないでしょうか。

相手を理解するためには「とにかく話を聞く」になりますが、その前に相手がこの人に話しても良いと思えるように警戒心を解かせることが最初の一歩です。
すなわち、自分が何者であり、何のために今ここにいるのか(つまりは訪問の目的)について相手に伝えて理解をしてもらうところになります。

この時に「相手の役に立ちたい」などと言うのは実は烏滸がましく、スタンスとしては役に立てるかどうかわからないけれど、相手のこと相手の置かれた状態について知りたい、と言うのが目的になります。
もちろん、相手にしてみれば、どこの誰だか分からない人や企業に自分のことや自分の組織のことを話すわけにも行かないでしょうから何をしている企業から来ていて、これまでやってきたことや企業としての姿勢については伝える必要があると思います。まぁ「決して怪しいものではありません」と言うことですね。

相手が警戒心を少しずつ解いて話し始めてくれたら、相手の話に興味を持ちつつ、相手の話すペースに合わせながら、相手の話の内容をより深く知り理解するための質問をしてゆくことになります。「好奇心をもって話を聞く」と言うことになりますけれど、聞き手側としての自分が受け取ったインパクトをちゃんと相手に伝える言い方をしてゆく必要があります。
具体的には、「お話を伺っていてすごいなと思ったので、もう少し聞かせてもらって良いですか?」とか「かなり厄介な状況になっていらっしゃるのだなと感じました。疑問に感じたこともあるので、さらに伺ってもよろしいですか?」とかです。

1回目の訪問で重要なのは、このような相手の置かれた状況を聞くことよりも、相手を全人的に理解することです。これができるかどうかが成功の鍵と言えると思います。
それは、モノの考え方、よく使う言葉や表現、大切にしているであろう価値観などまでを含みます。目の前にいる人はどんな人で、どのような思いを持って自分の置かれた状況と向き合い、何を求めているのか、を聞き切ることが必要です。
これができた時、相手は自分が理解されたと思い、この人にもっと話を聞いてもらいたいと感じられる状態になっています。

十分に話を聞けたら、相手が話してくれたことへの感謝を伝え、自分が理解したことを要約して伝えます。そして、相手がその理解が正しいと伝えてきてくれたら、次回のアポイントになります。次回はこちらが話をこちし、相手が聞く形になるのですけれど、具体的な伝え方としては、以下のような感じになります。
「お話をありがとうございました。本日伺ったことを私の方で一度整理して考えてみたいと思います。その上でもう一度お話を伺いたいのですが、いつがご都合よろしいでしょうか」
あくまでも「相手のことを知りたい」で1回目は通すと言うことです。

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二回目

2回目の訪問のゴールは、こちらの考えに対してフィードバックをもらう、です。
1回目の訪問で、相手の状況は理解できているので、今回は事前の準備が必要です。いくつかの仮説を考えると同時に、同じような状況に他の顧客はどのように対応しているのかなどの情報を調べます。

2回目の訪問の最初は、前回自分がキャッチしたことをあらためて整理しつつ、そこからアップデートがあるかどうかを確認するところから始まります。自分の理解と現在の相手の状況にギャップがないことが確認できたら、次のステップです。

今回は、さらに相手に語らせるためのネタとしてこちらの考えてきたことや仮説をぶつけて見ることになります。
良い提案をしようとか相手を納得させようとする必要は全くありません。むしろ、両極端とも取れる提案をして相手の求めているものをよりくっきりと鮮明に浮き上がらせてゆくことになります。
なので、こちらの言ったことを否定されたり批判されたりしても落ち込むことは全くありません。むしろ、よりはっきりと明確により良いアイディアが出てくるチャンスであると考えたほうが良いでしょう。
これにより、相手の考えにさらに一歩踏み込む突破口を得ているのです。
「あ、なるほど。違うんですね。ということはどういうことになりますかね?」
のように問いかけてゆくことになります。

このアプローチは、相手に対して、こちらの情報量、考え方、考える力という意味での力量を知らせることにもなります。提示する情報は必ずしも自社製品に留まらず、他社製品、他の顧客の状況、開発動向、世の中の動き…も含まれてくるでしょう。
あくまでも考えや製品サービスの押し付けはなく、相手を尊重しながら思考を整理してゆく極めて高いスキルが求められる状況になりますので、上手にできれば相手は「この営業は頼りになるな」と思ってくれるでしょう。

2回目のクロージングは、こんなセリフになるかと思います。
「お話を伺って、そんなに簡単ではないんだなってことが改めてわかりました。一度持ち帰ってさらに考えてみたいと思います。何か他に欲しい情報などございますか?」
こちらの力量について相手が一目をおいてくれるところまで行っていれば、アポイントを取るのは容易なはずです。

三回目

3回目、これを最終回にするためには、何らかのアウトプットが必要になります。それは合意であったり受注であったりするかもしれません。しかし、そこに至るまでには解決策を共創するための対話があります。
もう、一方の話を聞くと言うののではなく、お互いがそれぞれの考えを出しながら理想的なアウトプットを作ってゆくのです。

そのためには、練り上げすぎた提案を用意しないということが実はコツだと私は考えています。こちらの提案を相手が飲んだという形ではなく、顧客が自分で提案を作ってだからこそそれに決めたという状況を目指します。
具体的には、生煮えの提案を敢えて用意します。言うなればツッコミどころのある提案です。そこから、お互いにアイディアを出し合って完成形にもってゆくのです。
「そうですよね…私もここはちょっとどうかなと思っているところでして…ここのところがどうなっているとさらによくなるとお考えでしょうか?」
と、相手の力を借りて用意した提案が完璧になってゆくようにします。

3回目の訪問で話し合う内容は、製品やサービス、価格や納期というところだけでなく、顧客の組織内稟議をいかにして通すかといった点まで含むことになります。
そのために今一度状況を整理し直し、何が課題となっていて、なぜそれを解決する必要があり、解決のために必要な要素が何であるかを明確に特定し、その要素に応えるための方法としてなぜこれが良いのかを一緒に考えてゆくことになります。

つまり、最終回の訪問のアウトプットは、顧客の成功のシナリオができることであり、モノやサービスが売れることではないということになります。

営業の基本とは何か

社会人としては営業からスタートした私は、最初「物売り」的な考え方に抵抗感があり、何か要らないものを押し付けて買わせるために顧客を誑かしているような印象をもっていました。
なので、セールスというよりはコンサルティング的に営業というものを最初から見ていたと思います。
それは、モノやサービスを買ってもらうよりも、自分という人間を買ってもらい自分が所属する組織と付き合うことに喜びを感じてもらう、ということでもあります。

最後に私の具体的な経験をエピソードとしてシェアしますね。

初めて受注した時の経験は今でも鮮明に覚えています。私の最初の顧客となってくれたのは電子部品メーカーの研究所で主任研究員をしている人でした。
新入社員だった私は、鞄にいっぱいの資料とサンプルを持ち、覚えたての製品知識を頼りに研究所を訪問しました。しかし1回目は売り込みどころか鞄を開けることすら全くなく、相手がどんな仕事をしているのかをひたすら聞いて終わってしまいました。
相手は主任研究員ですから、それなりに実績もある研究者です。話してくれたことにお礼を伝えつつ、また来て良いかの確認をしていました。
「貴重な時間とお話ありがとうございました。すごく勉強になりました。お時間になったので今日はここで失礼いたしますが、またお話を伺いに来て良いですか」
相手は快く笑顔で引き受けてくれ、次のアポイントをその場で取ることができました。研究所から出た後、自分は何をしに来たんだろう?とちょっと落ち込みましたが、これで終わりじゃないからと自身を慰めて帰社したのを覚えています。

2回目、3回目と相手の話を聞くのが続きました。2回目以降は相手の話を聞いて「ここはどうなんだろう」とか「こんなこともあるんじゃないだろうか」とこちら側の考えを言ったり、質問をしたりしていました。
相手がこちらの考え方に賛同してくれる時もあれば、間違っている点を訂正してくれる時もありました。そうやって、徐々に相手を深く理解してゆくことになりました。
やがて「よく来てくれるのでありがたい。こちらの考え方の整理ができる」と言われ、相手の迷惑になってないようでよかったとホッとしていました。

4回目。相手から教わったことをもとにさらに文献などで調べたことを伝えたりしながら顧客の目指している状態について語り合ってそれが明らかな形になりました。ふと気づくと全く自社製品の話をしてませんでしたので、ここには売れなかったなぁ、なんて考えていたら…
「ところでどんな製品なんでしたっけ?最小単位でよければ買いますよ」
と驚くコメントが飛び出しました。
とはいうものの、相手にとって要らない使わないものを買ってもらうわけにもいかないので、そこで初めて私は鞄を開けてカタログを取り出し商品説明をしました。そして、相手から聞いていた話からこの製品であれば研究の役に立つかもしれないというものを紹介したところ、その場で受注が得られたのでした。
それが初のゲット・オーダーでした。

この経験は私がお伝えしてきた考え方のベースにあるかもしれません。私は顧客に恵まれていたというのはもちろんあると思います。皆ビジネスパーソンとして忙しいので、現実にはこんなありがたい顧客ばかりではないでしょうし、そんなに簡単にはいかないかもしれません。

しかし、考え方の根底は揺るがないのかなと思っています。
すなわち「売りつける」ではなく「共に作ってゆく」というところです。そのために相手のニーズをきき、こちらのサービスを紹介する。そこはWIN-WINという考え方ですらなく、パートナーとなってゆくことではないかなと私は考えています。

そしてこれは、
人と人とが協力して生きてゆくための基本でもあるのではないでしょうか。

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