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チームを機能させるもの

21世紀はチームの時代と言われています。複雑化し変化のスピードの速い現代において中央集権的に意思決定をしてそれを実行部隊に下すのではなく、専門知識や多様な経験を持ったメンバーが刻々と変化する現実に向き合いその場でベストの選択を行いながらゴールを達成する自律的なチームです。
そして、組織の対象単位であるチームが、他のチームと有機的なネットワークを築きあるときは連携し、ある時は別働して物事が進んでゆきます。このような考え方はTeam of Teamsと呼ばれることもあります。

そこで語られるチームは今までとは全く異なる意味でのチームでありTeamingが求められています。一人一人の意識と能力が高く、目的やビジョンに向かってそれぞれがバラバラに動いているかのように見えながらも、効果的な連携が自発的に起きます。リーダーというオーソリティ(権威)を持った人がチームを引っ張るのではなく、それぞれがリーダーであり、メンバーでもあるのです。

一方で、チームと似て非なるものはなんでしょう?
人の集まりという意味では「グループ」や「コミュニティ」がそれに相当するのではないでしょうか。
チームがそれらと明らかに違うものになるためには、チームがチームとして機能するためには、決定的に必要なものがあります。それは何でしょうか?

チームを動かすと言われてきたもの

20世紀的古典的なチーム論では、チームが機能するための要素としてGRPIモデルが出てきます。GRPIを学ぶためのグループワークも別記事で紹介させていただきましたけれど、Goal(目標)、Role(役割)、Process(手順)、Interpersonal Relationship(人間関係=メンバー間の関係性)の頭文字をとってGRPIモデルでしたね。

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Goalはしばしば、VisionやMissionと置くこともできるかもしれません。目指すものが一つ明確であればそれに向かって一致団結ができるというわけです。
しかし、現代ではゴール自体が不明確であったり途中で変わったりということがよくあります。

Roleは役割の分担であり、これが明確であれば人は動きやすいですし、組織に必要な人材や能力の特定が容易になります。
その一方で、役割定義にはまってしまってそれ以外の人をしなくなる、つまり組織の中にサイロ・メンタリティを産み出す事になりかねません。自分の役割ではない事については知らないよ、という事になるのです。

Processは明確であるに越したことはないですし、手順を動かす上でのコミュニケーションや意思決定の手順はルール化されていると混乱は少ないです。
ですが、これもあまり固めすぎると柔軟性を欠いてしまい人の動きを拘束してしまうのです。

そして、Interpersonal Relationship。実はこれが鍵になってきます。
古典的なチーム論ではこれはメンバー間の関係性であり、多様性の尊重によるクリエイティビティの発現やチームの中長期的な成功、エンゲージメントに影響があると言われてきました。
私はTeamのRelationshipを別の視点を入れる事で、現代のチームに求めれる有機的な連携や柔軟でスピード感ある活動が可能になると考えています。

その視点とは、ポジションです。

ポジションの二つの意味

ポジション。つまり「立ち位置」ですが、二通りの意味があり得ます。

一つ目の意味は、タスクやチームに対する自分の立場であり、ポジショニングです。そのような期待や意図を持ってチームに参加するのか、タスクをやろうとしているのかがそれになります。
WHYに相当するもので、「なぜあなたはここに居るのですか?」の答えになるものです。無論「えーと、上司に呼ばれたからです」ではありません。英語ではよく”Why we’re here?“とプロジェクトのキックオフやワークショップの冒頭で問いかけたりするものです。

二つ目の意味は、活動する、プレイするときにどのような動きをするのかを決める守備範囲です。それは「役割」とはちょっと違うニュアンスであり、どちらかというと「出番」に近いです。任せられた分野や得意分野であり、それが必要とされたときや自分がそれで役立てると思えたときに一歩前に出させるものです。

ポジションについて考えるにはスポーツを例に挙げて考えてみるとわかりやすいです。おそらく誰にとってもわかりやすいのは野球ではないでしょうか。

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草野球を考えてみてください。あるいは、子供たちが何人かで「野球やろうぜ!」と集まっているところを想像してみてください。
「野球やろうやー」
「やろーやろー」
「俺ピッチャーやりたい!」
「じゃ、俺キャッチャーやるわ」
「人数少ないし、みんな交代でバッターやろうな」
…みたいな感じで、9人揃わなくても三角ベースや外野を置かないで済むようなスペースを使うなどの工夫をして少人数で遊んでいたものです。

この時、誰かが特定のポジションをやることが決まると(ピッチャー取り合いとかあるかもしれませんけれど)ゲームを成立させるために、他のポジションに人が入る事になります。そしてポジションは、目的を達成させる(この場合はみんなで野球を楽しむ)ために柔軟に調整がされますね。具体的にはポジションの「守備範囲」が調整されますし、それらの守備範囲は少しずつオーバーラップしているようになるはずです。ここが「役割」との違いです。
ピッチャーがボールを弾けば、守備の誰かがそれをカバーする。「ポジション」という考え方の中では「役割」は流動的にその場で決定され、一度決まったら固定するというものではなく、状況に応じてリアルタイムで変化してゆきます。

もっとわかりやすい例はラグビーかもしれません。

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私は社会人になって六年ほど、草ラグビーのチームに入って試合も月一回ぐらいのペースでやっていました。ラグビーにもポジションがあり、私は六年の間にいくつかのポジションを経験しています。

ラグビーには「トライをする役割」というのはありません。15人のメンバーの誰もがトライをすることができますし、そのために全員が助け合ってパスを回したり密集からボールを出すためにラックやモールを組みます。まさにOne for All、All for Oneの言葉通りの世界です。
昨年のラグビーのワールドカップで、ベスト8進出のかかったスコットランド戦でフォワードの稲垣選手(笑わない事で有名な)が逆転のトライをしたのを覚えている方もいるのではないでしょうか。

私もプレイヤーやってた時はフォワードだったので、これは泣けました(T_T)。

…もとい、このように「ポジション」は「役割」とは違うものです。目的のために自分の守備範囲として意識しているものですが、ときにそれを超えて人のポジションをカバーすることもやりますし、あらかじめバックアップポジションとして設定されている場合もあります。ゲームが始まった時点でどこに立っている事になっているのかがポジションなのかもしれません。

組織におけるポジション

人事の世界でも「ポジション」という言葉があります。
こちらは組織図を想定したときに人が入るための箱となります。一つのポジションに対して一人の人しかいれることはできず、幾つのポジションが組織の中にあっても人員の数が足りない場合は「オープン・ポジション(空席)」となって採用活動を行う事になります。また、組織のサイズを小さくしないといけない場合は、組織図内のポジションの数を減らし人員は他部門に異動をさせます。

ただ、ここでいうポジションは役割が割り振られており、その役割を果たすための能力要件が設定されて、それに合う人を採用したり異動させたりしているので、組織の変更を行わない限りはそれほど素早く柔軟に組み替えられるものではありません。

しかしTeam活動という事になれば、これまで話してきた意味でのポジションで考えることは十分できるはずです。それが起こしやすいのは冒頭で触れたTeam of Teamsであり、ちょっと前の言い方で言えばCross Functional Teamやタスク・フォースチームになります。
製造業の組織の例で言えば、営業、企画(マーケティング)、製造、技術、IT、物流(サプライチェーン)、財務、人事…などの異なる部門の代表が集まってできたチームのことです。そういう人たちが、ただ集まって自分たちの部門の都合を言い合うのではなく、共通の目的のために自分ができるポジションを見つけ、そのポジションでの仕事をきっちりやりつつ、他のポジションのサポートを行うというのが組織におけるポジションの考え方です。

また、この場合のポジションは固定ではありません。持ち回りで交代することもあるでしょうし、臨機応変に一時的なポジションができることもあるでしょう。人数の揃わない子供の草野球のように、みんなで物事がうまくいくようにその場で作り替えてゆく事になるのです。

上からの掛け声でGoalの達成を謳ったり、Vision Statementでメンバーを鼓舞してもそれだけでは上手くいかないです。そして、プロセスを固めその中での役割を設定するよりも、目的のために自分で考えて動いた方がメンバー一人一人のやる気を引き出す事になるでしょう。
GoalやVisionとチームメンバー、そしてメンバー間を、お題目や役割分担ではない方法でガッチリと繋ぐのがポジションなのではないかと私は考えています。
カッコよく言えば、個人をチームにエンゲージさせるのがポジションかな、と。

そして、ポジションの二通りの意味があります。
それを自分自身に問いかける必要があるのです。
「自分はなぜここにいるのか?」
「今、チームの目的のために自分にできることは何か?」

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さて、あなたのチームはどんな状況ですか?
あなたはチームの中で、どのポジションにいるでしょうか?
あのとき、咄嗟にどのポジションをとって皆のために動いたでしょうか?
他の人は自分のポジションをどのように意識して動いているでしょうか?

最後に、
ポジションは与えるものではなく、自身で見つけてゆくものです。相手自身がそれを自分で見つけることができると信じることこそが、エンパワーではないかと私は思います。

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