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Managerとは何をする人か

人事の仕事をしていると、客観的に見て良いマネジャーだなって思う人に時々出くわすことがあります。
意識しているのか無意識かは分かりませんが、そういう人はマネジャーの仕事とは何かをちゃんと心得ていて、上手に立ち回っています。なので、正確には「上手い」マネジャーと言った方が良いかもしれません。

マネジャーとリーダーはよく対比して語られる概念で、「リーダーは人に影響を与えて導き、マネジャーは管理をする人」のように考えている人もいるようですが、私の考える上手いマネジャーは、そのような比較とは違った軸で語られるものです。
ひょっとしたらそれは側から見たら、仕事してないじゃん、と捉えられるかもしれません。しかし、見えないところでやるべきことをちゃんとやっていて、だからこそ組織が周り結果がついてくることになります。
そこで求められるのは「リーダー」とは異なるスキルセットになりますし、それができるからこそマネジャーのサラリーは高くても妥当であると言えるのです。

マネジャーとは何をする人なのか、ちょっと整理してみたいと思います。

Manageという言葉の意味

Manageという言葉は日本語にしづらい言葉だと思います。
「管理」という言葉が一番一般的かもしれませんし、Managerを「管理職」と便宜的に翻訳して使っていますよね。
しかし、実際は管理するのが目的ではなく、組織として期待されている成果を出すのが目的となりますので、管理はそのための手段に過ぎないと思います。

マネジャーについて説明するときに、私にとって最もしっくりする説明は「あれこれやりくりする人」です。「なんとかする人」という言い方をしても良いかもしれませんが、必ずしもなんとかなるとは限りませんので。

言葉の使い方の例として最もわかりやすいのは、お金のManageでしょう。
金銭の出納を追ってゆくことに頭が行ってしまうと「管理」じゃないか、と思うかもしれませんが、入金や出費は状況把握のためにやっていることですよね。実際には、手持ちの資金にいくら足せば十分なのか、足すことができないのであれば如何にして手持ちの資金で足りるように節約したりコントロールをするのか、がお金のManageのはずです。そこには資金調達のために外部と交渉することも含まれてくるでしょう。

つまり、管理は手段であって目的ではないので、場合によっては管理せずに流れに任せて様子を見ることも必要になってくると思います。状況を変化させる情報は集めつつも、時期が来たときを見計らって組織としての行動を起こせるようにすることがManageなのだと思います。

上手いマネジャーがやっていること

マネジャーは組織を預かり、組織には部下となるメンバーがいます。
マネジャーとしては、予算を管理したり情報を共有したり働く環境を整えたりということもしますが、最も重要なManageは人に関するところでしょう。
すなわち、どのようにメンバーを活用して仕事を完了させ、期待以上の成果を出してゆくということです。

さて、ここからが本題なのですけれど、上手なマネジャーというのは、自分は何もせず(そう見える)に実に上手に人に仕事を振ってゆきます
言い方を変えると、人を通じて成果を作り出してゆくということです。

人に振ると言っても、決して無茶振りをするわけではありません。後から考えると最適な人に任せていたとなるような仕事の振り方(Assignと英語では言いますね)をしているということです。

具体例で考えてみましょう。
例えば、顧客からのクレームで何かの組織的な対応が必要になってきた時、その問題解決を誰にやってもらうか、という場合です。

普通のマネジャーは、ここで仕切ってしまいます。具体的に誰に何をするかの指示をして、必要なアクションに漏れがないかをチェックし、リスクがありそうであればさらに詳細な指示をします。そうやってコントロールして状況を沈静化してゆきます。
どんなに優秀な人であったとしても、「俺がやる」という人はマネジャー失格ですね。組織の力を使ってこそのマネジャーなわけですから。

ここで上手いマネジャーは、「それは本当に自分が仕切る方が良いのか」と考えます。
マネジャーをやるくらいの人ですからクレーム対応の経験は十分にあるでしょうし、その経験を使って仕切ることは十分できるでしょう。だからと言って自分がやるのではなく、やったことがあるからできるからではなく、これを機会と考えて自分以外の人間が行うように持ってゆくのです。

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例えば、上手いマネジャーは先ほどのクレーム処理についてはこうやります。
まず、クレームが発生したその瞬間に自分が持っている情報を先にシェアするのではなく、皆がその状況をどのようにみているのかを先に聞くところから始めます。自分だけの視点で物事を決めないということでもあります。
次に、どうしたら良いかについて意見を求めます。自分が解決策を提示するのではなく、何ができるか、どうするのが良いかの意見を皆に求め、自分の意見もその中の一つになるように持ってゆきます。
最後に、誰が何をするのかについてメンバーに募ります。課題意識があり「やろう」と思う人がやるのが最も良いので、その様子を見るのです。出てこないようであれば、意見を提案してくれた人に部分的にタスクを依頼するということもあるでしょう。そして、進捗について情報共有するタイミングを決めておくことになります。

状況を見ながらファシリテートして、話し合いの中から役割分担のコンセンサスと作ってゆく場合ばかりではありませんので、リーダーとして誰かにやってもらうということも出てくると思います。
その場合のマネジャーの大切な役割は、もちろん「誰にやってもらうかを決める」ことにあります。
考え方としては二つあると思います。

一つ目は、経験のあるこの人がやった方がうまくいく、というものです。
もう一つは、これはこの人にとっては良い経験になる、というものです。こちらは経験を通じて人を育てるということでもあります。

どちらの考え方を取るのかは、組織の状態というよりも何が求められているのかによって変わってきますし、そこがマネジャーの力の見せ所と思います。
例えば、問題解決を急ぐ必要があるのであれば、その課題に精通していて能力的に申し分ない人に任せることになります。つまり経験優先の考え方です。
一方で、急ぐよりはむしろじっくり取り組んでゆく必要がある場合は、周辺から意見をもらいながら進められることもあり、育成優先が有効だと私は考えます。

このように、マネジャーは置かれている状況に応じて、誰に仕事をしてもらうのが最も適切であるのかを考えて、決めることが役割になってきます。
そのためには、メンバーのことをどこまで理解できているのかが鍵になります。

そして、同時に気をつけないといけないのは、メンバーとの信頼関係をちゃんと結ぶということでしょう。なぜならば、冒頭のところでも述べたように部下からはマネジャーの考えは分からない(これはその立場になったことがないと分からないものかもしれません)ので、仕事をしないマネジャーに見えてしまう危険性があります。
そこで少なくとも、メンバーにとって自分達が仕事をしやすいように何か色々やっているようだと思わせることは必要になってくると思います。

マネジャーに向いている人

ここまで見てきたように、マネジャーの役割は承認のハンコを押すことでも、管理のための管理をすることでもありません。個人と組織の成長と発展のための非常に重要な役割を担いながら同時に周りから期待される成果をきちんと出してゆくことが求められています。

最近は「管理職は大変そうだからやりたくない」という人が増えています。部下側から見ると色々と気を遣っているのとずっと仕事をしているように見えているのでしょうけれど、そのような管理職は実は「上手く」マネジャーできていないことが多いです。つまり、自分で「なんとかしよう」としてしまっているのです。
どこかでそれを手放さないと、マネジャーとして上達しないばかりか自分自身を壊してしまいかねません。

では、上手いマネジャーになりたければどうすれば良いでしょうか?
人事としてマネジャーとして成功する人を見てくると共通しているのは以下のような点に見えています。
1) 人をよく知ること、興味を持つこと
2) 段取り、プランニングが好きであり、得意であること
3) 作業が嫌いであること

特に1)が非常に重要です。相手のことをわかっていないのに仕事を任せることはできませんので。
何が得意なのか、どこが伸び代なのか。そして、どのくらいでマスターして飽きてくるのかといった学習敏捷性(Learning Agility)も見極めておく必要があります。
というのも、同じ仕事ばかりさせていたのでは人は成長しませんし、マンネリ化すると組織の成長も停滞します。そうなる前に役割をシャッフルしたり異動を考えるのが上手いマネジャーの組織活性化です。

また、1)だけはマネジャーになってから身につけるのでは遅いです。ですので、マネジャーの昇進できる人としての経験や資質があるかどうかはここを見るべきと私は考えています。
メンバーについてきてもらうには、それだけの有能さが実績として出ていることはもちろん必要です。しかし、プレイヤーとして有能なだけな人がマネジャーになって機能しないということがよく起きています。具体的には、メンバーをリードせずに自分でやってしまって自分自身が潰れてゆく、あるいは適切な振り方をしていないので部下が離れていったり潰れてしまう、といったことが起こるのを見てきました。
自分もメンバーも潰さないために、人を理解することは欠かせないと思います。

組織の形や働き方が変わっても、依然としてマネジャーの役割は非常に重要です。ますます重要になってきたと言っても良いと考えています。
そしてその役割の基本は、組織の内外で何が起きているのかの情報を集め、特定のタスクを誰にやってもらうかを適切に決めるところにあります。
いかにして自分がやらないで他人を使って成果を出すかを考え、そのための場とリソースを調達する努力をメンバーからは見えないところで地道にやっているのが達人のマネジャーです。
そして、何よりもそれを楽しいと思えること、そういう人がマネジャーに適任だと私は思っています。自分一人で動かせないことでも、ちょっと自分が仕掛けたことで動き出して思いも寄らない成果を生み出させるのがマネジャーの醍醐味ですから。

え? やっぱり、大変そうだって?

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