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埴谷雄高の文学

埴谷雄高の文学は、他の作家たちとは一線を画する独特の哲学的なアプローチを持っています。彼は作品を生み出す過程において、神話や既存の宗教、哲学などの枠組みにとらわれず、自らの内なる精神世界と対峙しました。そのため、彼の文学作品は時に暗く、複雑で、理解が難しいと感じられることもありますが、その中には深い思索と鋭い洞察が秘められています。

彼の代表作『死靈』は、既存の宗教や神話を叛逆的にコラージュし、存在そのものの根拠を根絶やしにするという大胆な試みを行いました。これは日本的な生み出しの型を否定し、新たな文学の可能性を追求するという彼の精神によって生まれたものでした。『死靈』に登場する主要人物たちは、独自の哲学や思想を持ち、個人の存在の革命を志向します。彼らは社会のモラルに反し、自らのモラルと宇宙レベルのモラルを模索しようとします。埴谷は彼らを通して、現実の枠組みにとらわれない自由な連帯の可能性を示しました。

一匹狼としての埴谷の姿勢は、社会的なモラルから逸脱し、自らのモラルを措定する必要があるということを象徴しています。彼は釈迦やキリストが説く「やばい真理」や「のっぴきならないように見える摂理」に気づき、それを受け入れることなく、自らの精神的な冒険に挑戦しました。彼は、自己の痛みを乗り越え、他者の痛みを理解しようともせず、自分の存在の根本的な矛盾に直面しました。彼の文学は、こうした徹底した挑戦的なモラリストの姿勢を反映しています。

一般的な小説が主人公の行動の後に反省がくるのに対し、『死靈』では主要人物たちが行動の前に思索し、宇宙の歴史や人類の営みに対する反省が含まれます。彼らの思索は未来や宇宙の領域に及び、先入観や考えの型を否定し、新たな視点から存在を捉えようとする試みです。このようなアプローチによって、埴谷の文学は個人から出発して全体の自由を志向するという理念を表現しました。

彼の作品はまた、現実と非現実の境界を曖昧にし、幻想的な要素を含みます。彼は「死靈」という言葉を用いて、死と精神を結びつけ、死者と生者の間に存在する不思議な領域を描写しました。このような要素は、彼の文学が幻想的でありながらも深い洞察と真理を内包していることを象徴しています。

埴谷雄高の文学は、一匹狼としての精神的な冒険と社会的なモラルへの挑戦を通じて、存在の意味や宇宙の秘密に対して問いかける作品です。彼の哲学的な探求は、読者に対しても深い思考を促し、自己の存在と向き合うことを迫るでしょう。彼の作品は決して安心させるものではなく、挑戦的でありながらも、その魅力と複雑さによって読者を魅了し続けるでしょう。

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