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おじいが亡くなって、娘が産まれる

仕事の帰り道、親方から電話があり「じいちゃん亡くなったって」と知らされた。
ちょうど2週間前に、あと1週間くらいと医者に言われていて覚悟はしていたから「そっか〜2週間もったか」という気持ちと「もう少し生きてほしかった」という気持ちと、何か色んな感情が込み上がってきて、その時一緒に車に乗っていた仕事の先輩と無理に話をして気持ちを誤魔化したのを覚えている。

2021年6月23日他界。享年81歳。
体のあちこちを病気していて、死因はなんだかよく分からん。
透析もしていたし、常に管で酸素供給もしていた。
それでも頑張って生きたおじいとの思い出を少し書いてみる。

父親代わり

ぼくは父親を5才くらいのときに亡くしている。
父親を知らない僕にとっての一番近い男はおじいだった。
孫だから、叱ったり厳しくしたりすることは無かったけど、いつも家のことや農業のこと、人生観など色んなことを話してくれた。
息子を亡くしているから、内孫の長男であるぼくのことをせがれと思って育ててくれたんだと思う。
そういえば保育園の運動会でも父親役として駆けつけてくれたこともあったな。

農業は継ぐな

中学生の頃、よくおじいの仕事を手伝っていた。
途中から農業が面白くなってきて、将来農業してみたいなと思い始めた。
ある日、一服中におじいが「将来何になりたい?」と聞いてきたときに「農業やってみたい」と答えた。
その時おじいはビックリしていたけど、「そっか農業したいか」と少し涙を流して喜んでくれた。
その時はそれで終わった記憶があるけど、高校生くらいのときから「農業はじいちゃんの代で辞めるから継がなくていいよ」とよく言われた。
おじいとしては継ぎたいという気持ちはありがたいけど、孫の将来のことを思うと、勤め人でいてほしかったのだろう。
子どもながらに家計の状況は分かっていたし、おじいに言われたら仕方がないと思い就職をした。(というよりは、そのときは農業で食っていく自信がなかったのかもしれない)
その後、ぼくは当時働いていた会社で出会った人と結婚し、婿に行くことになった。そして、その嫁ぎ先で農業をすることになった。
おじいは自分の代で辞めると決意していたが、婿に行くと話したときは少し残念そうだったけど、すぐに気持ちを切り替えて泣いて喜んでくれた。
おじいはいつもぼくたち孫の人生を尊重してくれた。


頑張れよ!

おじいがぼくの結婚式に出席してくれた。
結婚の報告をした頃にはおじいは病気を患って透析と酸素の管をして弱り切っていた。
コロナの影響で結婚式はやらないことにしようと思っていたが、その時のおじいにしては強い意志で「結婚式はしろ」と言うのでやることにした。
その強い意志のおかげか、おじいの体調も良く出席できた。
姉2人の結婚式のときは管もしていなかったし、自力で歩くこともできたけど、ぼくの結婚式では車椅子に乗って出席してくれた。
その頃のおじいはいつもお椀一杯分くらいの食事しかとらないのに、結婚式では出された料理を全部食べたらしく、いまではみんなの笑い話になっている。
結婚式で一番印象に残っているのは、最後の最後にぼくと妻が退場するとき、おじいが座っている席を横切る際、おじいのしゃがれ声で「頑張れよ!」と聞こえた。
もう大声を出す体力などないであろうあの体で。
その声を聞いたときに涙が溢れてきた。今もその時の動画を見返して泣いている。
葬式の後に叔父からも「あのときの頑張れよが全てだ」と言われ、おじいの今までぼくに伝えてきたことの全てがその一言に詰まっているんだなと分かった。

おじいとの最後

おじいと最後に会ったのは、最後の入院をする前、10日間ほど退院して家に帰って来た時だった。
そのときは既に実家を出ていたので、おじいが帰ってきていると聞いて会いに行った。
いつもおじいとおばあが過ごしていた部屋にベットを置いて寝ていた。
前回会ったときよりも確実に弱っているのが分かった。
そのときなんとなく、これで会うのは最後かもしれないと思った。
その予想は的中して、またおじいは入院し、コロナの影響で面会することもできず、最後を迎えてしまった。
最後に会ったときは、子どもが産まれることを報告することができた。
おじいはいつものようにすごく喜んでくれた。
もっと話したかったけど、おじいはオシッコをするからと言ってぼくは退席した。
弱りきっているおじいを見るのが辛かったのか、久しぶりにあって照れくさくなったのか、なんだかよく分からないけど、そのあと逃げるように帰ったのを覚えている。
最後としては何か寂しい感じもするけど会えてよかったと思う。

おじいへ


おじいは亡くなったけど、また新しい命が産まれる。
今年の10月に娘が産まれる。
おじいに会わせてやりたっかたけど、間に合わなかったな。
でもきっと、おじいの生まれ変わりとして生まれてくる命なのかもしれない。
おじいから教えてもらったこととか思い出とか、生まれてくる子に教えてあげよう。
婿に行ってもこの家のことも頼むぞと言われたから、それもちゃんと頑張るよ。あっちの家、こっちの家と大変だけど、おじいの頑張ってきた姿に比べれば全然楽勝かな。
おじいの「頑張れよ!」をいつも思い出して頑張ってみるよ。
おじいと叔父さんと3人でもっとお酒飲んで話したかったけど、おじいから言われたとおり、おじさんの酒の相手するよ。
あっちではおっ父と喧嘩しないで仲良くしてね。

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