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夏の道は

その日が来ないのはもうわかった。
こう書いている今この瞬間でさえ、いや まだわからないいつかはいつか来る と思いそうになるけれど、そんなものは来ない。もう待つな。

小篠坂を下り護国寺の前を右に折れて音羽通
りを進む。江戸川橋の手前を左に入り小日向辺り。神田上水の気配を右手にやがて大曲、後楽園。細かな雨粒が車の窓にあたる。子どもの頃よく歩いた道。学校帰りの図書館、坂道。あの頃だって時間は均等に平等に流れていたはずだ。いつか来るいつかを夢みる必要もなく、本の1ページ、一粒の水滴の輝きがすべてだった頃。窓に描かれる水玉と近い過去や遠い過去が混じり合う。


ここではないどこかに焦がれる夏はもう終わった。濃い緑陰の下を、黒苺をたどって歩く夏の道は終わった。どこかではないここ。いつかではなくいま。
今を大切にしなくてはいけないのは、過ぎ去ってしまうから。二度と戻ることはできないから。
そんな当たり前のことがようやくわかってきた。現状の否認はここまでだ。


やがて雷が轟き、お茶の水を過ぎると驟雨!激しい雨は地を叩き花火のように跳ねる。あたりは明るい。こんなにも。



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