見出し画像

八丈島の魅力を作り広めるチーズ職人 魚谷さんから学ぶ「REWILD」な生き方とは? - 前編 -

I&Oは本能や好奇心を取り戻す「REWILD」を届けたい価値の一つに掲げています。I&Oのディナーで大好評のチーズを作っている魚谷さんの生き方は、まさにREWILDそのもの…本能、好奇心、そして八丈島の価値を広く伝えるという使命感を持ち、真っすぐに突き進んでいく姿をこの記事ではお伝えしていきます。前編では魚谷さんの活動に焦点を当て、後編では魚谷さんの価値観に迫っていきます。

魚谷さんプロフィール
神奈川県出身。大学では農学部に進み、ラクトフェリンの研究に従事。大学院卒業後、乳業会社に就職し、チーズの加工に携わる。東日本大震災を機に、食品や土壌などの放射線濃度を検査する会社に転職し、その後29歳の時に八丈島と出会い移住、32歳で八丈島乳業を創業。2020年2月に独立をして「株式会社 欒(おうち)」を設立し、現在はエンケルとハレというチーズブランドを立ち上げフレッシュチーズを作る。JAPAN CHEESE AWARD2020では金賞を受賞。独学で学び一人で作るチーズはその美味しさから業界にて口コミで広まり、都内有名ホテルのレストランにも採用される。 一方で、八丈島の素晴らしさを伝え、島民と共に島の価値を再認識する活動にも勤しむ。

八丈島の酪農との出会い

2012年に八丈島を旅行していた時に八丈島の酪農に出会いました。その数年前に八丈島の農協から牛乳事業が撤退するという話が出ました。「島に牛乳工場、酪農を残したい」という多くの声があがり、署名運動が起き、町議にかけられることになったのです。

その結果、農協でやっていた牛乳事業を民間で事業継承することになり、島民有志の中から小宮山さんという方が代表となり、経営することになりました。小宮山さんはもともと八丈島で学習塾を経営していた方でしたが、八丈島の酪農のために立ち上がりました。旅行後、小宮山さんに連絡を取り2013年4月から八丈島で働き始めたのですが、その後1年で会社が潰れてしまいました。そこをさらに事業継承して現在の八丈島乳業ができました。

八丈島旅行中の魚谷さん
八丈島旅行中の魚谷さん

会社が潰れてしまった原因は、キャッシュフローが上手く回らなかったことにありました。ジャージー牛の通年自然放牧の土台作りを1年かけてやってきましたが、1年で結果を出すことは難しく、一度会社をたたむことになりました。

当時は少しずつ周囲からの声が跳ね返ってきたり、メディアからの取材を受けるようになってきた時期でした。自分の中でもチーズ作りの原理と経験の歯車が回り始め、手ごたえを感じ始めていました。

会社が上手くいかず社員も減っていく中でも、自分が乳業を辞める選択肢はありませんでした。自分たちの理想のためにジャージー牛を島の外から運び作った牧場、会社が潰れたからと言って牛を処分したりすることはできません。牛を尊重し、牛の幸せを第一に考えながら乳業を続けるための方法を探し、なんとか存続させることができました。

2020年2月に八丈島乳業から独立をして「株式会社 欒(おうち)」という会社を設立し、フレッシュチーズを取り扱う「エンケルとハレ」というチーズのブランドを運営しています。独立はしたものの八丈島乳業の場所を借りてやっているので、自分のチーズ工房を構えるのが直近の目標です。

エンケルとハレのHP
エンケルとハレのホームページ

八丈島の価値を再認識させる、移住者としての使命

チーズ作りはあくまでも自分のやりたいことです。それ以外にも八丈島のために何ができるか考えるようになりました。八丈島の価値を島の外に伝えたいという想いだけではなく、島民の方に八丈島の価値に気が付いてほしいという気持ちが根底にあります。移住者だからこそ、そういった考えが強く芽生えてきたのだと思います。

そもそも自分がチーズ作りができ、そのチーズを周囲からも美味しいと言ってもらえているのは、自分の能力だけでは成せないことです。八丈島の素晴らしい環境や人々のお陰で成し遂げられているのだということを島民にしっかり伝えたいです。

そんな想いを伝える取り組みとして、都立八丈高校の『八丈学』という地域探究の授業で学習サポートをさせてもらっています。また『東京宝島』という東京都が行っている事業の中で八丈島の魅力化というプロジェクトがあるのですが、それにも携わっています。他にも未来の人類研究センターの『利他学会議』と共に、利他について学ぶ場を作ったりする活動をしています。島内の中高生からお年寄りまで、幅広い年代の方と利他について考えたり、講演会で考えを伝えたりしています。

八丈島の星空と魚谷さん
八丈島の星空と魚谷さん

島に移住して十数年が経ちますが、当時から大きな変化はまだ無いと感じています。八丈島の魅力や価値に島民が気が付いて、もっと自分たちに自信を持つことができたら、島民同士がもっと繋がれると思うんです。手に手をとって、八丈島のパワーを島の外に届けていけたらと思っています。

島にいると何もかもが「当たり前」になってしまいますが、この豊かな自然や文化、島にしかないものが沢山あります。島で生まれ育った人はその尊さに気が付くことが難しいのだと感じています。自分たちの価値に気付き、自信(アイデンティティ)を持つことができたら、今まで以上に大きな力を生むことができると考えます。

八丈島ブランドを島の外に発信できている部分も徐々には増えてきていますが、それは本当にごく一部にすぎません。また発信する活動をしているメンバーも固定されていて、本当の魅力はまだまだ眠っている状態だと感じています。

I&Oで活躍しているまよちゃんの魅力も島内の限られたコミュニティ内でしか知られていないと感じていました。まよちゃんとの出会いがいつ頃だったのか覚えていませんが、すごい人がいる!ということだけは鮮明に覚えています。そして、I&Oの立ち上げの時に「こんな人とかいないかな?」と相談があったときに、何人か推薦した中のひとりでした。きっと大変な仕事だと思うのですが、今ではI&Oの顔となっていることがとても嬉しいですね。

I&O利用者に感じてほしい島の「音」

島の外との繋がりを持つという点で、I&Oができたことは島にとって大きな変化だと思いますし、今後、I&Oを利用する方と島民の人との繋がれる場が増えて行くことが楽しみです。そして島に来た人には本能で自然を感じて帰ってもらえたらと思っています。そのために「音」に意識を向けて八丈島で過ごすことをおすすめします。

雨の八丈島はより一層神秘的

日本人は雨の音や、風の音、鳥の鳴き声を言語として脳で処理をしています。つまり脳では、「ザーザー」「ビュービュー」「チュン、チュン」などの自然の音を、雑音と見なしていないことになります。それは幼い時から触れているオノマトペでもあり、自然と受け継いでいるアニミズムの現れでもあります。雨の日こそ八丈島はパワーを発する場所だと感じています。雨の中、森に入り心地のいい雨音を聴くのも一つの島での過ごし方だと思います。

都会で生活していると気が付くことが難しい、忘れかけた「音」を八丈島で聞いて、自分の中に眠っている野生や本能を目覚めさせ、REWILDを体感してほしいです。そして、元居た場所に戻った時に前とは違う感覚を感じてほしいです。

八丈島の牧場風景
八丈島の牧場風景

後編では一歩踏み込んで、魚谷さんの価値観に迫っていきます。

【後編の記事はこちらから】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?