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東京在住。だから東京産の食を知りたい Tokyo Foods Vol.1 秋川ファーマーズセンター

 僕は料理が好きだ。料理好きが高じて、食や食材、食文化に興味を持った。東京という土地に住んでいる僕らにとって、より現実感のある食とは何か。その答えのひとつを探しに、東京で作られている野菜を買いに行くことにした。


 八王子ICから車で15分弱。郊外の典型的な風景の中を走っていると、急に視界が開けて道の両側に畑が広がる。ほどなくして左手に見えてきたのが、木材の外壁で覆われた倉庫のような展示場のような建物。あきる野市にあるJAの直売所、秋川ファーマーズセンターだ。


 清澄白河に住む僕が、西馬込の友人をピックアップして向かうために家を出たのは5:00過ぎ。中央自動車道を走り、現地に着いたのは8:30頃だった。車を降りて脇道を歩けば、目の前には農地が広がる。思っていたよりも周りを囲む畑の面積は広く、ファーマーズセンターは畑の中に建っているような感じである。


 開店までの時間、畑の間の道を歩く。少し歩いただけで、ネギにトウモロコシ、キュウリ、里芋からお茶まで、様々な種類の野菜が栽培されていることがわかり、驚いた。時折、畑の中で農作業している人が見える。収穫した野菜を運んでいると思しき軽トラとすれ違う。


 今年の夏でいちばん暑い日じゃないかと思わせる日差しのもと、野菜たちはその青々とした葉に光を跳ね返しながら、鮮やかに輝いていた。いつものスーパーに並ぶ野菜は、食材である前に植物であり、生き物であるということを強く印象付ける光景だった。


 9:00を回ったのでファーマーズセンターまで戻ると、既に駐車場は満車になっている。扉を開けて建物に入ると、中はたくさんの利用客の活気で満たされていた。僕らは売り場をまわり、ほうれん草、空芯菜、ツルムラサキと、どんどんカゴに放り込む。トウモロコシ、ネギ、ゴーヤ、にんにく、人参、オクラ、ピーマン、ナス、青唐辛子。

 ジャガイモはキタアカリ、赤唐辛子には「激辛ではないがかなり辛い大紅唐辛子」と書いてあって面白い。そうしている間に、農家の人たちが収穫されてきた朝採れ野菜を棚に直接置いてゆく。冬瓜(とうがん)もレシピの紙と一緒に買い物カゴへ。結局、段ボール箱いっぱいの野菜を車に積んでマーケットを後にすることになった。


 帰りは東京の東から西へ、60kmほどの距離を戻る。東西に長い東京を横断して、ふだんの食材が手元に届くまでのことを考える。多くの野菜は、僕らが運んだ距離よりもずっと長い移動の末に食卓へ運ばれるのだ。


 家に着き、買ってきた食材を広げる。野菜たちを眺め、今日のレシピは冬瓜のスープと人参のソテー、ほうれん草のサラダに決めた。メインにはシンプルなポークソテーを持ってきて、野菜が引き立つようにした。冬瓜はワタを取り角切りにして茹でる。みじん切りにした人参とひき肉を炒めたものと合わせてスープに。ほうれん草はあえて生のまま、ベーコンビッツとパルメザンチーズをかけてサラダにする。

 人参は絵本に出てくるような細くて自然と曲がっている形が特徴的。輪切りにしてクミンシードと一緒にホウロウ鍋へ入れ、バターで蒸すように炒めてソテーにした。


 すべての料理が完成したのは18:30。食卓には、東京の野菜だけで作った料理が並んだ。見て、買って、料理して、食べる。一緒に行った友人とビールを乾杯して口にした料理の味は、噛むごとにあきる野市の畑の風景が浮かぶ気がした。

Tokyo Foods Vol.1 秋川ファーマーズセンター
取材: 2018年8月4日
WORDS BY MASAKI ISHIGURO
PHOTOS BY HIROKI OHASHI


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