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Vol.173 ピロリ除菌は胃がん予防のためのみにあらず

*2024年3月29日発行のメルマガから転載

今年もいよいよ桜の季節がやってきました。

それと同時に、街で卒業式や謝恩会と思しき装いの若者たちをよく目にします。

卒業や別れのタイミングでもあるこの季節は、私自身も「もののあはれ」を感じる場面が折に触れてありますが、日本人のDNAに深く刻まれた特性なのかなと思ったりもします。

今号では、2本の記事共に、「予防医療」のエビデンスを取り上げています。

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【記事1】 HPVワクチンが導く、子宮頸がん罹患の減少

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子宮頸がんの原因の多くがHPV(ヒトパピローマウィルス)であり、HPVへの感染を予防するHPVワクチン(いわゆる子宮頸がんワクチン)の接種が、子宮頸がんの罹患を防ぐということで、世界的に10代前半の児童(特に女子)への接種が推奨・実施されています。

しかしながら、このHPVワクチンの接種が、リアルワールドで実際にどの程度子宮頸がんの発症を予防したかを示す大規模なエビデンスは、今までそれほど数多くありませんでした。

以前のメルマガ内の記事で、スウェーデンでの研究結果を紹介したことはありますが、私の知る限りではその程度です。

そこに今回、新たに大規模なエビデンスがスコットランドから出てきました。

 ■"Invasive cervical cancer incidence following bivalent human papillomavirus vaccination: a population-based observational study of age at immunization, dose, and deprivation”「2価ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の侵襲性子宮頸癌発生率:接種時年齢、接種量、および貧困に関する集団ベースの観察研究」(National Library of Medicine)

スコットランドで、2020年時点で子宮頸がんスクリーニングシステムに登録されている、1988-1996年生まれの女性のワクチン接種状況と子宮頸がんの罹患状況を洗い出したところ、

・12もしくは13歳で2価ワクチンを接種した女性は、接種回数にかかわらず、子宮頸がんに罹患した人はいなかった

・14~22歳で2価ワクチンを3回接種した女性の罹患率は、10万人中3.2人で、ワクチン未接種の女性の8.4人に対し、有意に低い数字だった(ただし、接種回数が3回未満の場合は、有意差は出なかった)

ということが判明しました。

2価ワクチンでもこれだけの効果が出ているということは、現在普及している9価ワクチンであれば更に予防効果が高くなっているであろうことが推定されます。

日本のHPVワクチンの接種率は1994-1999年生まれの世代では一旦8割近くまで上がりましたが、その後、副反応疑いの報道が響き、長年低迷してきました。

ここ3年くらいで回復傾向にあるようですが、それでもおそらく3割程度というイメージです。

今回の研究結果が知られることで、更に接種率が回復することを願っています。

※本項執筆時点(2024年3月29日)で、筆者はHPVワクチンを有する製薬会社との間で、利益相反はありません。

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【記事2】ピロリ除菌は胃がん予防のためのみにあらず

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ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)といえば、胃がんの原因となる細菌として有名です。

昔は、胃がんの原因は塩分の摂りすぎとよく言われていたものですが、現在、罹患リスクを高めるものとして明確に認められているのは、ピロリ菌感染と喫煙で、その中でもピロリ菌は”主犯格”。

とはいえ、ピロリ菌は抗菌薬によって治療(=除菌)が可能です。

そして、ピロリ菌の除菌は胃がんの予防につながります。

 ■「ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク」(国立がん研究センター がん対策研究所)

日本国内での複数の研究を統合して解析したこの研究で、ピロリ除菌群は非除菌群に比べ、胃がん罹患リスクは58%減少と、有意な低下が見られることがわかっています。

では、このピロリ除菌、同じ消化管の代表的ながんである大腸がんにも効果はあるのでしょうか?

この問いに対するヒントが出てきました。

 ■"Impact of Helicobacter pylori Infection and Treatment on Colorectal Cancer in a Large, Nationwide Cohort”「米国全土の大規模コホートにおける、ヘリコバクター・ピロリ感染と治療が大腸癌に及ぼす影響」(Journal of Clinical Oncology)

ピロリ菌感染検査を1999年から2018年に行なった、米国の80万人を超える退役軍人の大規模集団に対し、陽性者について治療の有無と、その後の大腸がんの発症状況をフォローアップした研究です。

本研究でわかったことは主に次の2つ。

・ピロリ菌陽性の場合、陰性と比較して、大腸がんの発症リスクが18%、死亡リスクが12%高かった

・未治療のピロリ菌感染者は、治療済みの感染者と比べ、大腸がんの発症リスクが23%、死亡リスクが40%高かった

ということで、ピロリ菌の除菌は、胃がんだけでなく大腸がんの発症予防にも効果がありそうなことが示唆されます。

健康診断などで感染が判明した場合は、しっかり除菌しておきましょう。

※本項執筆時点(2024年3月29日)で、筆者はピロリ菌治療薬に関連する特筆すべき利益相反はありません。

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