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英国海軍の支給品【Royal Navy 前期】

海軍としての起源は旧く9世紀に及び、1660年の王政復古より正式に国王の海軍となったイングランド海軍(1707年合同法以降のイギリス海軍)。「Royal Navy」とは此、王立海軍としてのイギリス海軍の呼称である。

19世紀初頭から20世紀にかけて数々の偉大な業績を挙げ、規模を拡大し、英国が現在の地位を築く要となった「Royal Navy」。
其軍服として1990年代-00年代に支給されたと云われている履物、通称ロイヤルネイビー前期について

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形について、フランス軍M47やアメリカ軍M65といった代表的なカーゴパンツと比較すると、ロイヤルネイビー前期は裾先へテーパードが効いており、細目のストレートシルエットを端整に形成する。

此は、潜水艦や空母の機内が海軍の活動域となるため、是等狭い空間における活動を潤滑にすることが目的として挙げられる。

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ポケットは両脇及び背面右手側に、膝上にはマチ無しのカーゴポケットが2つ付いている。
腰廻りには、内側にドローコード、外側両脇に各40mm程度の調節が可能なサイドアジャスターが付いているため、ループは有るが、ウエストをベルト無しで絞ることができる。

フロントボタン、背面右手側のポケット、サイドアジャスターにはパラシュートボタンが採用されており、此ボタンは、服の部位で最も脆弱と云われるボタンの付け糸部分を、軍事用途上大きな負荷に耐えられる仕様にする必要があったため、考案されたものである。

上述の、構築的且つ研ぎ澄まされたディテールも、海軍としての活動域が理由として挙げられる。

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生地について、コットン及びポリエステルのバックサテンとなっており、鈍い光沢、高密度な厚みと其に伴うウェイト、玄奥な趣漂う紺色といった、軍物としては稀有な特性を読み取ることができる。

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正式名称"TROUSERS, AWD, RN, FR"。此は、
"TROUSERS,Action Working Dress, Royal Navy, Flame Retardant"の略であり、名称通り難燃性に仕上げられている。

USED品と比較するとデッドストックに光沢が残っていること、併せて、タグに記載有る難燃性を損なわないための留意事項の内容から、ロイヤルネイビー前期特有の鈍い光沢は、生地を難燃性に仕上げるための溶剤によるものだと考えられる。

経年変化によって次第に光沢が去り、色が顕現する此履物。

軍物として比較的ヘビーウェイトな生地は、先に述べたストレートシルエットを端整に形成する上での要となっている。

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英国海軍の軍服として支給されたものが、稀有なミリタリーアイテムとして、現代ファッションの選択肢のひとつとなっており、ロイヤルネイビー前期をサンプリングするデザイナーも多く存在する。

現代のイギリスの土壌を築いた英国海軍「Royal Navy」、履物としてのロイヤルネイビーは、服飾文化における礎を幾つか建設していくことになるだろう。


当該記事で挙げたようなカーゴパンツ以外にも、トレンチコート、Pコート、カーディガン、チノパンツ等、軍服を由来に持つ現代ファッションは多い。
是等は、戦地で発生した諸問題に対するひとつの解答として、生地から細部に至るまで明確な意図を以て設計されたものである。

上述には、由縁といえど戦地とは一見無縁な印象を抱くだろう。
現代、街中には戦地から生まれた形が多く残っており、其等の服としての在り方は旧来より大きく変容している。

意を変じて、戦地外に生きる軍服たちの話。

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