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日本はエンタメビジネスの研究が遅れている

 日本はエンターテインメントビジネスに関する学術的研究が遅れていると言わざるを得ない。それどころか、この学術的遅れは、エンターテインメントのビジネスの側面に限ったことではない。一部の最先端ICTを用いたエンターテインメントの研究を除き、エンターテインメントに関連した様々な側面で学術的に遅れている状態にある。

 現在、我々が日常楽しんでいるエンターテインメントはビジネスとして行われている。従って、経営学の視点からエンターテインメントを研究するのはもちろん必要である。加えてエンターテインメントは、この地球上の生物で人間だけが有しているものである。人間の生存にとってエンターテインメントは必須ではないが、我々の文化や生活を豊かにしてくれる。人間にとってのエンターテインメントの意味を考えようとすれば、社会科学、人文科学、脳神経科学、人類進化学などの様々な知見を紐解きながら、学際的、統合的に研究を進めなければならない。また、技術を用いた新しいエンターテインメントを模索するのであれば、情報通信工学、理工学などの知見も必要になる。

 日本においてもエンターテインメント研究を書籍としてまとめたものがない訳ではない。例えば、京都大学経営管理大学院 湯山茂徳 教授による『エンタテインメント ビジネス マネジメント議事録』(朝日出版社 2015)『エンタテインメント ビジネス マネジメント議事録Ⅱ 芸術・観光編』(朝日出版社 2017)、湯山教授と京都大学 苧阪直行 名誉教授が著した『エンタテインメントの科学』(朝日出版社 2018)などがあるが、極めて数が少ない。

 一方、欧米においては、エンターテインメントの学術書籍が多数出版されている。Harold L. Vogel 氏による『ハロルド・ヴォーゲルのエンタテインメント・ビジネス―その産業構造と経済・金融・マーケティング』(慶應義塾大学出版会 2013)は、エンターテインメント産業を経済学的に分析した古典的名著である。Stuart Moss 氏と Ben Walmsley 氏による "Entertainment Management: Towards Best Practice" (Cab Intl 2014)は、エンターテインメントを経営学的視点から論じたものであり、Al Lieberman 氏と Pat Esgate 氏による "The Definitive Guide to Entertainment Marketing: Bringing the Moguls, the Media, and the Magic to the World (2nd Edition)" (FT Press 2013) は、経営学の中でもマーケティングに特化した書籍である。また、Thorsten Hennig-Thurau 氏と Mark B. Houston 氏が著した "Entertainment Science: Data Analytics and Practical Theory for Movies, Games, Books, and Music" (Springer 2018)は、エンターテインメントのデータ分析手法を紹介した書籍であり、Jennings Bryant 氏と Peter Vorderer 氏の "Psychology of Entertainment"(Routledge 2006)はエンターテインメント心理学を論じたものである。

 この様に、エンターテインメントに関する学術的蓄積は、日本より欧米の方が厚い状況にある。筆者は、日本においてもエンターテインメントに関する研究が盛んになってほしいと願いつつ、日本経済大学/大学院においてエンターテインメントビジネスを日々研究しながら、学生の教育にも当たっている。今後、エンターテインメントに関する筆者の考えや研究情報を、この note において発信していくつもりである。

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