石松 宏和/エンタメビジネス研究者

エンタメビジネス研究者。日本経済大学大学院 経営学研究科 教授/エンターテインメントビ…

石松 宏和/エンタメビジネス研究者

エンタメビジネス研究者。日本経済大学大学院 経営学研究科 教授/エンターテインメントビジネス研究所 所長。日本経済大学 東京渋谷キャンパス 経営学部 芸創プロデュース学科 芸能マネジメントコース主任教授。博士(知識科学)。DJ pinestone名義でアーティストとしても活動中。

最近の記事

エンタメのグローバル化に対する考え方(2)

 エンタメのグローバル化を語るとき、2つの側面から語られることが多い。一つはアメリカのエンタメがグローバルに浸透していく側面、すなわちエンタメのアメリカナイゼーションであり、もう一つはアメリカ以外のエンタメがグローバルに浸透していく側面である。  2000年頃までは、エンタメのグローバル化とは、アメリカのエンタメが世界に普及していくことを意味することがほとんどであった。そしてこれは文化帝国主義(Cultural Imperialism)、あるいはメディア帝国主義(Media

    • エンタメのグローバル化に対する考え方(1)

       エンタメを含む我々の文化は常に変化している。この主張に異を唱える者はいないであろう。文化は固定(ソリッド)ではない。  この絶え間なく変化する文化を、ジグムント・バウマンは流動化する液体(リキッド)として捉え(バウマン[2014])、スコット・ラッシュとジョン・アーリは再帰性のある人・モノ・金・情報などのフロー(流れ)として捉えた(ラッシュ&アーリ[2018])。詳細はそれぞれの書籍に譲るが、重要な点は、いずれの論述においても、文化の変化の一形態であるグローバル化は、さまざ

      • かわいいキャラクターとベビースキーマ

         日本はかわいい大国といわれている。かわいいキャラクター、かわいい文房具、かわいいファッションなど、至る所にかわいいものがある。しかし、このかわいいと思う感情は何であろうか?どこから来るのであろうか?  かわいいと思う感情が生物学的な要因と文化的な要因の相互作用で形成されているという点は、かわいいを研究する研究者の間で一致している(例えば、入戸野[2019])。  生物学的な要因とは、赤ちゃんや子どもなどの幼い者をかわいいと思い養育したくなる感情である。この感情があるからこ

        • エンタメの現象学からの理解

           われわれは日々の体験を意味付けて生活している。このnoteの記事は読んで役に立った、立たなかったなど、全ての物事は意味を帯びてわれわれの前に現れている。  「「エンタメ」を定義する…学術的に…」で述べたように、筆者はエンタメを「体験を通して人びとに感情的価値を提供するもの」と定義した。すなわち、エンタメは体験であり、エンタメの善し悪しは各消費者がその体験をどのように意味解釈するかに依存している。  従って、エンタメの品質を考えるときに、各消費者がそのエンタメ体験をどのよ

        エンタメのグローバル化に対する考え方(2)

          感情労働者としての芸能人

           一般的に労働は肉体労働と頭脳労働の2つに大別されてきた。これに対し、社会学者のA. R. ホックシールドは1983年に画期的な新しい労働概念を追加した。「感情労働(Emotional Labor)」である[ホックシールド(2000)]。  ホックシールドは、感情労働を「他者からの観察可能な表情や身体的表現、言葉遣いを作るために感情のコントロールが求められる労働」と定義している。また、「感情をコントロールすること自体が労働の一部になっている労働」「自発的な感情ではなくビジネ

          エンタメビジネスの今日的リスク

           エンタメビジネスのリスクというと、タレント、アーティストの不祥事、スキャンダルを思い浮かべる人も多いであろう。また、契約や著作権などの法律に関係したトラブルもメディアでよく耳目する。もちろんこれらはリスクである。しかし、ここではこれら以外のリスクを考えてみたい。  今日のエンタメは主に多くの情報通信技術に支えられたメディア空間で提供されている。我々はネットに接続された固定、携帯端末を通じて、いつでも、どこでも自由にエンタメを楽しむことができる。この自由を支えているのは各種

          エンタメビジネスの今日的リスク

          投資対象としての楽曲

           昨今、楽曲を始めとする著作権の取引所、ファンドなどが急速に立ち上がり、著作物(著作権)投資が活発になってきている。例えば、アメリカの Mills Music Trust、イギリスの Hipgnosis Songs Fund、EUの ANote Music などがそれに当たる。  この動きの背景には、先進国、発展途上国問わず、ほとんどの国において著作権に関する法規が整備され、著作権が保護されるようになったことがある。また、著作権は財産権であり、著作権所有者には独占的利用が認

          プレゼンスとエンタメ

          プレゼンス(Presence)とは、そこに居るという「存在」「存在感」を意味する。このプレゼンスは学術的に長らく研究されている。しかし、プレゼンスが何を意味するのかに関しては学者によって大きく異なっており、プレゼンスという用語の定義を一致するには至っていない。唯一一致している点は、プレゼンスが重要であるという点のみである[Lombard & Jones(2015)]。  情報通信技術が発達する以前は、我々は自身の身体的プレゼンス(Physical Presence)しか持っ

          物語論(3) 物語の消費要素

           物語は、基本的には、消費活動とは独立して存在し得る。親が子どもを寝かし付けるために語る昔話には、何ら消費の要素は含まれていない。しかし、現代の消費社会に住む我々が日常的に見聞きする物語のほとんどは、消費の対象としての物語である。   消費の視点からいえば、物語には少なくとも4つの消費要素が含まれている。1つめは、物語そのものの消費である。チケットを買って映画館で映画を見たり、Netflixなどの動画サービスにサブスクリプションしてドラマを楽しんだりすることがこれに当たる。

          物語論(2) 物語における時間

           前回の記事で、物語を「時間的な展開のある出来事を言葉、文字、絵、映像で語ったもの」と定義した。時間的に展開しない物語はない。物語の時間の中で様々な出来事が連続して起こっていく。この物語を展開させる出来事のことを、ロラン・バルトは、著書『物語の構造分析』において「機能」と呼んだ。そして「機能」の論理的連鎖を「時間」と呼んだ[ロラン・バルト(1979)]。  物語の中の時間の流れは、実時間の流れとは一致しない。一致させる必要もない。バルトのいうように、物語の時間は我々が論理的

          物語論(2) 物語における時間

          物語論(1) 物語の展開方法による分析

           小説、マンガ、ドラマ、アニメ、映画、ゲームなどは物語を必要とする。エンタメが成功するためには良い物語があることが欠かせない。人間は物語が大好きである。生物進化の観点から考えると、恐らく、物語(言葉)を通じて他人の経験を共有できるこの能力が、地球上で人間が最も繁栄している一因であろう。 物語は、時間的な展開のある出来事を言葉、文字、絵、映像で語ったものと定義できる。そして、物語は一定の構造を持っている。この物語構造を分析する主な視点としては、①物語の展開方法(幕)による分析

          物語論(1) 物語の展開方法による分析

          エンタメと遊び

           オランダの歴史家ヨハン・ホイジンカ(Johan Huizinga)は、あらゆる文化の根底には「遊び」があることを指摘した[ヨハン・ホイジンカ(2018)]。エンタメは我々の文化の一部である。だとしたら、エンタメの根底にも「遊び」の要素があるのは明らかであろう。  ホイジンカの論考を発展させる形で、フランスの社会学者ロジェ・カイヨワ(Roger Caillois)は遊びの類型化を行った[ロジェ・カイヨワ(1990)]。カイヨワは、遊びを以下の4つに類型化した。 アゴン(A

          ファンマネジメント(2)

           前回の記事では、ファンが形成するグループを、コミュニティ感覚(Sence of Community)の側面から述べた。この記事では、ファンの階層構造および負の側面について述べる。  まずファンには、ファン活動に使う時間・お金といった熱量に応じて、階層構造があると考えられる。ビールを中心としたエンターテインメント事業を展開しているヤッホーブルーイングでは、ファンを、その熱量の低い順から ①一般消費者 ②好き ③ファン ④熱狂的ファン ⑤伝道師 の5つに分類している[熱狂顧客

          ファンマネジメント(1)

           全てのエンタメにおいてファンは重要である。あるエンタメの盛衰は、そのファンが鍵を握っていると言っても過言ではない。その意味で、エンタメ提供者側は、ファンを適切にマネジメントする必要がある。  ファンに関する学術的研究は、社会学、心理学、文化人類学などの分野において知見が蓄積されてきた。現在は、ファン活動の一部であるSNSを解析することによって、新たなファン研究の可能性が広がりつつある。  ファン研究の系譜の一つに、コミュニティ(共同体)感覚(Sense of Commu

          スターはなぜスターなのか?(2)

           前回の記事では、1980年代までのスター研究を概観し、スターを説明する要因として、「才能」と「人気のネットワーク外部性」について説明した。本記事では、1990年以降のスター研究を見ていく。  1994年、Chung と Cox は、スターの「才能」に対して疑問を呈する論文を発表した[Chung & Cox (1994)]。 この論文において彼らは、Yule-Simon過程という確率過程モデルを使って、才能が同じであっても、幸運な偶然によってスターが生まれ得ることを示した。

          スターはなぜスターなのか?(2)

          スターはなぜスターなのか?(1)

           エンタメの世界には、きらびやかなスターが存在する。一握りのスターが人々を魅了し、多くの報酬を得る。エンタメ業界は、勝者が全てを得る世界(Winner takes all)である。売れた者は益々売れ、売れない者はその存在すら知られずに終わっていく。それでは、スターはなぜスターなのだろうか?  1981年、経済学者の Sherwin Rosen は、少数のスターが多額の報酬を得るメカニズムの経済学的モデル構築を試みた[Rosen(1981)]。彼は、スターとそうでない者を分け

          スターはなぜスターなのか?(1)