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かわいいキャラクターとベビースキーマ

 日本はかわいい大国といわれている。かわいいキャラクター、かわいい文房具、かわいいファッションなど、至る所にかわいいものがある。しかし、このかわいいと思う感情は何であろうか?どこから来るのであろうか?

 かわいいと思う感情が生物学的な要因と文化的な要因の相互作用で形成されているという点は、かわいいを研究する研究者の間で一致している(例えば、入戸野[2019])。
 生物学的な要因とは、赤ちゃんや子どもなどの幼い者をかわいいと思い養育したくなる感情である。この感情があるからこそ、我々は子育てをし、幾世代に渡ってこの地球上に存在しているといえる。
 文化的要因とは、その文化で何がかわいいとされているかということであり、その文化的環境で生活することにより獲得していく要因である。日本でかわいいと思われているものが外国ではかわいいと思われなかったり、日本人同士でもかわいいと思うものが違うのは文化的要因が作用している例である。
 かわいいの生物学的要因と文化的要因を切り分けることは容易ではない。人間は誰しも何らかの文化の中に産み落とされ、文化の中で成長するものである。従って、文化的な影響を受けず純粋に生物学的な要因を明確にすることは難しい。この点がかわいい研究の難しさである。

 かわいい研究にはそのような困難性がある訳であるが、コンラート・ローレンツ(Konrad Zacharias Lorenz)のベビースキーマ(Baby schema)は、かわいいの生物学的要因として説得力がある。
 ローレンツは、人間の養育反応(かわいいという感情)を引き起こす生物学的な特徴をベービースキーマとして提唱した(Lorenz[1943])。このベビースキーマは、①ずんぐりした大きな顔 ②顔に比べて大きく前に張り出した額・頭蓋骨 ③顔の中央よりやや下に位置する大きな眼 ④短くて太い四肢 ⑤全体に丸みを帯びた体形 ⑥やわらかい体表面 ⑦丸みを持つぽっちゃりした頬 の7つである。これに8つ目として ⑧ぎこちない動き を加える場合もある。
 Kawaguchi らの最近の研究では、人間、チンパンジー、ボノボ、マウンテンゴリラ、ボルネオ オラウータンの5種の類人猿の子どもの顔を、機械学習を用いた幾何学的形態測定を行い、5種に共通する顔のベービースキーマとして上記の③、丸みを帯びた縦に短い顔の形(⑨)、逆三角形の顔型(⑩)の3つの特徴を抽出している(Kawaguchi, Y., et al.[2023])。

 日本のかわいいとされるキャラクター、例えば、ハローキティ、ちいかわ、くまモンなどは、確かに上記①〜⑩の要素を多く含んでいる。このことから、ベビースキーマがかわいいという感情に影響を与えているのは確かだろう。
 これらのキャラクターをデザインした人はベビースキーマのことを知っていたということではないだろうが、かわいいものを意識して自然と各キャラクターをデザインしたのであろう。逆にいうと、ベビースキーマの要素をキャラクターデザインに採り入れれば、かわいくできるということにもなる。

参考文献

入戸野宏『「かわいい」のちから 実験で探るその心理』 [2019] 化学同人

Lorenz,K., "Dieangeborenen Formenmöglicher Erfahrung. Z.", Tierpsychol. 5, pp. 235–409, 1943.

Kawaguchi, K., Nakamura, K., Tajima, T., & Waller, B.M., "Revisiting the baby schema by a geometric morphometric analysis of infant facial characteristics across great apes", nature scientific reports, Vol.13, 2023.


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