エンタメビジネスの今日的リスク
エンタメビジネスのリスクというと、タレント、アーティストの不祥事、スキャンダルを思い浮かべる人も多いであろう。また、契約や著作権などの法律に関係したトラブルもメディアでよく耳目する。もちろんこれらはリスクである。しかし、ここではこれら以外のリスクを考えてみたい。
今日のエンタメは主に多くの情報通信技術に支えられたメディア空間で提供されている。我々はネットに接続された固定、携帯端末を通じて、いつでも、どこでも自由にエンタメを楽しむことができる。この自由を支えているのは各種の技術システムである。例えば、スマホはオペレーティングシステムを内蔵し、その上でアプリが動作し、無線・固定通信システムを介してエンタメコンテンツにアクセスする。今日のエンタメは極めて多くの相互に関連し合った技術システムに依存している。社会学者のジョン・アーリの言葉を借りるならば「類い希なる自由と類い稀なるシステム依存を兼ね備えた世界」なのである[ジョン・アーリ(2015)]。システムのどこかが不具合を起こせば、たちまちにエンタメの提供は止まる。このように、今日のエンタメビジネスは「システムリクス」と背中合わせである。
また、科学技術上の地政学的リスク[石松&鈴木(2012)]が今日的には顕在化してきており、それがエンタメビジネスに影響を与える可能性が出て来ている。一例を挙げるなら、アメリカにおいて、安全保障の問題から、中国産のアプリTikTokの使用禁止が議論されている。もしアメリカがTiKTokの使用を禁止して、日本を含めた西側諸国が追随すれば、TiKToKを主たるプロモーション手段としているタレント、アーティストなどは大きな痛手を被るであろう。このように、今日のエンタメビジネスには「科学技術上の地政学的リスク」も存在している。
更に、国の政治的イデオロギーが文化政策に反映され、それがエンタメビジネスに影響を与える「文化政策リスク」も存在する。中国は、2021年の8月から9月にかけて中国芸能界に通知(規制)を通達したが、これによってアイドル育成番組が放送禁止となった。
これからのエンタメビジネスは、これらのリスクを検討した上で、ビジネスの継続性を考えていかなければならない。
参考文献
ジョン・アーリ [2015]『モビリティ−ズ ー移動の社会学』作品社
石松宏和, 鈴木秀顕[2012] 「技術経営に対する地政学の適用可能性」『研究・技術計画学会 年次学術大会講演要旨集』 Vol.27, pp.996-999.
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