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エンタメの現象学からの理解

 われわれは日々の体験を意味付けて生活している。このnoteの記事は読んで役に立った、立たなかったなど、全ての物事は意味を帯びてわれわれの前に現れている。

 「「エンタメ」を定義する…学術的に…」で述べたように、筆者はエンタメを「体験を通して人びとに感情的価値を提供するもの」と定義した。すなわち、エンタメは体験であり、エンタメの善し悪しは各消費者がその体験をどのように意味解釈するかに依存している。

 従って、エンタメの品質を考えるときに、各消費者がそのエンタメ体験をどのように意味解釈するかが重要になる。しかし、現在の理工学では人間が感じる「意味」についてうまく扱うことができない。例えば、脳神経科学を用いて脳の活動状況を見れば、被験者があるエンタメ体験をしているときにどのような感情が生起しているのかを理解することはできるが、その感情体験が被験者にとってどのような意味を持つのかを把握することはできない。

 この意味について考えるとき、現象学がわれわれに一つの視座を与えてくれる。榊原は、現象学を「さまざなな意味を帯びて物事が直接ありのままに経験される現れ(=現象)にまずもって立ち返り、そうした意味現象・意味経験の成り立ちを明らかにしようとする哲学」と定義している[榊原(2023)]。また、「意味」を「私たちが物事を経験したり人びとに出会ったりしたときなどに経験するある種の方向性」としている。そして、この意味の方向性として ①ある方向が示される ②ある方向へ促される ③ある方向への動きが促進される ④ある方向への動きが妨げられる ⑤方向がまったく見失われるの5つを挙げている。

 この意味の方向性をエンタメ体験に当てはめてみれば、①ある方向が示される・・・この映画を観て人生の方向性が定まった ②ある方向へ促される・・・マンガ「スラムダンク」を読んでバスケを始めた ③ある方向への動きが促進される・・・この小説を読んで両親をもっと大切にしようと思った ④ある方向への動きが妨げられる・・・コロナにかかって楽しみにしていたライブに行けなくなった ⑤方向がまったく見失われる・・・このドラマは何を言いたいのか意味がわからない などとなる。

 実際にこのような各消費者の意味体験を把握しようと思ったら、各消費者に言語化してもらい解釈を行うわけであるが、そのための具体的な手法としては解釈的現象学的分析(IPA : Interpretative Phenomenological Analysis)がある[Smith, J., et al.(2021)]。

参考文献

榊原哲也『現象学とはどのような哲学か:フッサール現象学の成立』 榊原哲也・本郷均『現代に生きる現象学 ー意味・身体・ケアー』 [2023] 放送大学

Smith, J., Flowers, P. and Larkin, M. , "Interpretative Phenomenological Analysis: Theory, Method and Research," [2021] Sage Publications Ltd.


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