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チェシャーキャット

窓から下田の海が見えるホテルの温泉でひとっ風呂浴び、ちょっと一休みして、太田和彦の番組など見つつ時間を過ごし、あたりが暗くなる頃にフロントで傘を借りて下田市内の、繁華街とは名ばかりながら、駅前の飲食店が立ち並ぶ界隈へとぶらぶら。

磯の匂いが微かにする大きな川に掛かる橋をわたり、ホテルから15分ほど、廃業した大きな旅館跡が立ち並ぶ細い道を歩くと、前方に街の明かりが。

人通りのない通りをあてもなくさまよい歩き、JAZZと大きく壁に文字を打ってある喫茶店だかバーだか、はたまたなにか別の謎の店なんだかわからないような佇まいの、入りにくいことこの上ない店を見つける。

表からではそもそも営業しているのかどうかも定かではないが、ちょっと興味を惹かれて覗いてみる。


頭頂に僅かな髪の毛をちんまり残しただけのなかなかの趣のある風情のマスターが、飲み物くらいしかないけど、どうぞとカウンターを指差す。

このどこと無く憎めないキャラの、みょうちきりんなおっさんこそ、横浜や多摩センの広場で楽器はもとより100均グッズなんかも駆使して前衛芸術とも大道芸ともつかないフリージャズの演奏をゲリラ的に行っているトランペッター庄田次郎氏なのであった。

このマスターと意気投合して、ジントニックを数杯飲んだ後は、テキーラをレモン齧りながら青ヶ島(三宅島のさらに南に位置する人口160人の離島)で作られる「ひんぎゃの塩」を舐めて音楽談義、JAZZ談義。


年代物のドでかいスピーカーから大きな音でマイルスが流れ、これOn Green Dolphin Streetですよね?と聞くと、自分で演るのはフリージャズだけど、こういうのかけとかないと客来なくなるからさ。って客なんかさっきから誰も来ねーじゃんと思いつつ、カウンターを挟んでひたすら楽しい時間を過ごす。


かなり飲んだ気がするけれど、カウンターに置いてある「マスターを応援する」という名目で1,000円で販売してるCD込みで3,000円でいいよ、と。

いい夜だった。

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