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魂を燃やして脂肪は燃やすな!新春ドニー・イェン映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』

英国ロンドン大学の研究によると、映画館で映画を見るのは軽い運動と同じくらい健康にいいそうだ。映画館で映画を見ると、心拍数がいい感じになるんだとか。
すなわち、正月に映画を見るという行為には、その年の健康運を爆上げする効果があると言っても過言ではない。
そこでオススメするのが元旦公開の正月映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』。何故なら、太ったドニー・イェンが人をしばく映画だからだ。
しかも、ポスターには「健康運爆上げ」と書かれている。この映画を正月に見れば、今年の健康運を保証してくれることは間違いない。

というわけで一月一日の一発目から『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』をキメてきました。何故ならドニー・イェンは最高だからだ。
ドニーさんと言えば、シャープな肉体から繰り出されるキレのある格闘アクション。超速の手技で人を捌き、パワフルな蹴り技で人をなぎ倒し、熟練の投げ技で人の後頭部を地面に叩きつける!
そんなドニーさんがもし太ったら?それこそ香港の伝説的アクションスター、サモ・ハン・キンポーのように!
そんな疑問にお答えするのが『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』である。

「かつて最強だった男が激太りする」というあらすじからわかる通り、本作は気楽に楽しめるコメディアクション映画だ。映画冒頭ではいつものようにマッスルな肉体を持ちながら驚異の着痩せっぷりでシャープな印象を受けるドニーさんだったが、恋人との破局と左遷がが重なったことで、ストレスから鬼太りすることとなる。
そんなデブになったドニーさん。すなわちデブゴンは、色々あって犯罪者を日本へと護送することになり、そこでヤクザの抗争に巻き込まれる…という内容だ。
さて、従来のコメディ映画ならば太った男は全盛期の動きを出せず、戦闘に苦心するというのが定番だろう。
しかし、本作で太った男を演じるのは宇宙最強というデカすぎる異名を持つ男、ドニーさんことドニー・イェンである。
本作では太ったドニーさんが超速の手技で人を捌き、パワフルな蹴り技で人をなぎ倒し、熟練の投げ技で人の後頭部を地面に叩きつける!
動きが鈍くなるどころかキレキレの動きに重みが増し、ローリングソバットで人が吹っ飛ぶのは当たり前。そこにアクロバティックな動きも加わり、いつも以上に自重しない強さを見ることができる。
このことから、ドニーさんは宇宙最強なので太ってもデバフにはならないことがわかる。
故に、映画本編は良くも悪くも緩いコメディだが、アクションだけはドニー・イェン・アクションチームが集結した超一級のものとなっている。
ベタベタなギャグを飛ばした次の瞬間、重量級の見た目をしたドニーさんがキレキレに人をしばく。
映画館で映画を見る者として、スクリーン映えする映画とはなんなのかをよく考える。最近では『TENET』などがそうだった。要はデカい映像はデカいスクリーンに映えるのだ。
そういう意味では、デカいドニーさんがキレキレに人をしばく映像は、間違いなくスクリーン映えするものであった。
もし仮にトム・クルーズが本作を見たら「デカいスクリーン、デカいドニー・イェン。素晴らしかった」と言うことは想像に難くないだろう。

また、アクションだけでなく、太ったドニーさんキュートさにも言及しなければならない
ドニーさんと言えば、本作で監督を務めた谷垣さんのコラムからも非常にエキセントリックな人物である印象を受ける。また、『捜査官X』のピーター・チャン監督はドニー・イェンのことを「赤ちゃんみたいでカワイイ」と評したそうだ。
そのことから、ドニーさん本人はかなりベビベビめした人物であることが伺える。
ベビベビした性質のドニーさんが、太ったことでよりベビベビとした見た目になる。
計算すると10倍×10倍でおよそ1億倍ベビベビしていることになる。
そんなおデブなドニーさんがキュートじゃないはずがないし、仮にキュートじゃなかったらそれは監督の手腕が悪いだけだ。しかし、本作の監督は長年ドニーの右腕を務めてきた谷垣さんなのでそうはならなかった。

ちなみにドニーさん本人はこのデブメイクを何度か拒否しようとしたそうだ。曰く、「メイクをする時間があれば、もっと沢山のアクションを撮ることができる(要約)」だとか。
ドニーさんは特殊メイクをする役柄を演じる度に「もう二度としない」と語っており、そうとうな特殊メイク嫌いであることが伺える。
そんなドニーさんを何度も抑え込み、「デブのドニーさんが東京で大暴れ」という映画を撮り切った谷垣健治監督の手腕に惜しみない称賛を送りたい。デブのドニーさんが大暴れする映画、最高でした。

ドニー・イェンは、ジャッキー・チェンと並んで日本のアクション映画界に多大なる影響を与えたことで知られている。
LDHが総力を挙げて作り出した一大アクションエンターテインメント『HIGH&LOW』シリーズや、2019年実写邦画ナンバー1ヒットを記録した『キングダム』。
そして国民的人気を獲得し、2021年現在、7年ぶりの新作が控えている『るろうに剣心』シリーズなど、近年大ヒットした邦画アクションは、大体ドニー・イェンのアクションチーム出身者がアクション監督を務めていることで知られている。
ジャッキー・チェンが日本のアクション小僧たちの魂に炎を灯したのに対し、ドニー・イェンは日本のアクション小僧たちに直接アクションを伝授したのだ!
その影響のデカさは、映画秘宝セレクション『映画を進化させた職人たち 日本アクション新時代』で、邦画アクションを語っているはずなのに気が付いたらドニーさんコーナーが生まれていることからも明らかだ。
そんな中でも、ドニーさんの右腕として知られているのが『るろうに剣心』でアクション監督を務め、邦画アクションに革命を起こした谷垣健治さんだ。
彼は、ブルース・リー作品のリメイクにして、ドニーさんの名が知られるようになった大ヒットドラマ『精武門(95)』の現場ではじめてドニー・イェンのアクションに携わり、以降ドニー映画のアクションに欠かせない存在となる。
そんな谷垣さんがドニーを主演に据え、本場香港で監督を務めた作品。それが本作である。
奇しくも、それはドラマ『精武門』と同じ、ブルース・リーへのリスペクトを捧げた作品だった。

本作は粗がないわけではない。むしろ粗だらけだ。
せっかく東京が舞台なのに、ドニーさんが絡むのが香港人ばかりで異文化の衝突みたいな要素が一切なかったりする。
しかし、そんな粗の部分を含めて「往年の香港コメディ」という感じで愛らしく思える。全ての香港アクションへのリスペクトを捧げた映画。それが『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』だ。
気楽に見て「アー楽しかった」と映画館を出ることができる。しかも太ったドニーさんがキレキレに人をしばくのだ。言うことなし。ありがとうございます。ドニーさん、谷垣さん。お陰様で満腹です。
「正月太り」という固有の言葉がある正月に相応しい映画でした。
正月は映画館で『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』を見て魂を燃やし、心の脂肪を豊かにしよう。

ちなみに、本作でラスボスを務め、見事ドニーさんとのタイマンを果たした、『HIGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』のブラウン役で知られる丞威(岩永ジョーイ)のアクションも見過ごせない。
おデブなドニーさんに対して、若々しくスタイリッシュなアクションを見せる丞威は対比が効いており、終盤のタイマンバトルはドニーさんと共にキレが天元突破していた。
もし仮に『イップ・マン』シリーズの大ファンにしてブルース・リーオタクのロバート・ダウニー・Jr.が本作を見たら「丞威ええやん」となってMCUでヒーローデビューしてもおかしくないだろう。それほど素晴らしい存在感とキレのある格闘を見せてくれた。

というわけで『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』、映画館で見テネット。
多分、クリストファー・ノーランもそう言うはず。

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