翡翠拾い春の旅 前編
例の流行り病が少しだけ落ち着いているのを見計らって、1泊2日の富山への旅行に出かけました。前回翡翠を拾いに行ったのはかれこれ3年近く前になるでしょうか。その時は新潟糸魚川に行って姫川周辺で石拾いをして、大糸線に乗って姫川温泉に泊まり、松本に寄って帰ったのでした。今回は、宿を富山市に取り、レンタカーを借りて富山側の市振海岸や宮崎海岸を狙う事にしました。石の他にも今回は富山の美味しい物も旅の目的です。
翡翠についての思い出や翡翠拾いについての記事は以下にあります。
あいにくの雨
出発前日は4月にも関わらず1日目が雨で、夜に雪に変わり次の日も雪マークが付いていたので慣れない雪道の道中を心配したのですが、当日天気予報を見ると雪マークが消えていたので、あとは雨が少しでも弱まってくれるのを祈りながら金沢までサンダーバードで行き、新幹線はくたかに乗り換えて富山に到着しました。
予報通りの雨の富山駅に到着。さすがの雨男です。雪じゃないだけ御の字です。まずはレンタカーを借りて、縄文時代の翡翠の玉と、蛇紋岩等の石斧の工房跡が出土した朝日町の境A遺跡遺跡の資料が見られる富山市埋蔵文化財センターへ向かいました。埋文センターは縄文遺跡等が点在する呉羽丘陵に位置しています。
埋蔵文化財センターは入場無料で、この時は周辺自治体の発掘速報展がやっていたのですか、それと合わせて目的の境A遺跡の資料の展示が行われていました。(今回は年に一度の虫干し展示のためいつも見られるとは限らないそう)
富山県のHPでは以下のように境A遺跡が紹介されています。
富山県の東端の朝日町にあります。北アルプスから続く山地が背後に迫る海岸段丘にあり、目の前には日本海が広がっています。眼下の宮崎・境海岸は、別名「ヒスイ海岸」と呼ばれ、ヒスイ(硬玉)の転石が打ち寄せられ、今でもヒスイを拾うことができます。
遺跡は、北陸自動車道の建設に先立ち、昭和59年・60年に発掘調査され、縄文時代中期から晩期(約4800~2500年前)の集落跡であることがわかりました。住居跡・墓穴等の遺構から、土器・石器類などの大量の遺物が出土しました。中でもヒスイの玉製品と蛇紋岩(じゃもんがん)製の磨製石斧は、加工過程を示す原石や未成品が数万点出土し、加工の道具類も発見されました。このことが高く評価され、これらの出土品は平成11年に国の重要文化財に指定されました。
ヒスイの産地は全国で10か所知られていますが、ごくわずかを除き全国の遺跡から出土するヒスイ製品は、新潟県南西部から富山県東部で産出されるヒスイで作られたことが明らかとなっています。これらのヒスイの玉製品は交易によって北海道から沖縄に至る日本各地の縄文集落へ運ばれました。「玉作りのムラ」境A遺跡は日本のヒスイ文化のふるさとと言えます。
小学生の頃、考古学に興味のあった私を父が車で岐阜県の飛騨から隣県の富山に連れてきてくれて、同じ埋蔵文化財センターで境A遺跡の資料を見た以来、30年以上ぶりの対面でした。
展示は簡単な説明と、遺物が種類毎に並んでいるだけでしたが、非日常品である玉類、特に縄文時代中期の大きな大珠と呼ばれる翡翠製の玉は目を引きます。完成品よりも未製品や原石が目を引くのは遺跡のすぐ近くに翡翠の採れる宮崎海岸がある事と、そこが生産遺跡であるのを物語っています。数多ある海岸の石の中で、ちゃんと縄文人が翡翠を見分けているのも不思議です。また、玉以外にも蛇紋岩を用いた磨製石斧の生産も行われています。ここで生産された玉や石斧が全国に流通していたのでしょう。私の故郷の飛騨地方でも翡翠製の玉や蛇紋岩製の石斧がたくさん見つかっています。小学生の頃に遺跡の畑で翡翠製の大珠を拾った事がありますが、この遺跡から流通したものかも知れません。
硬玉(翡翠)製大珠。1、2番なんかは非常に美しい色です。翡翠には黒や紫等もありますが、縄文人は白っぽい翡翠を選んでいる印象があります。何らかの意味があったのでしょう。ぱっと見白っぽいだけの宝石っぽくない地味な翡翠も多いです。
翡翠の原石。その辺に落ちていたら気づかないくらいの地味な印象ですが、しっかり翡翠。縄文人、見分けております。
蛇紋岩製の磨製石斧。蛇紋岩は硬度は高くないですが、粘りがあって丈夫な斧になります。表面に蛇皮のような紋様が特徴の岩石です。糸魚川翡翠に色が付いているのは地下での変性の過程で隣に蛇紋岩があった事で成分が移り、色が付いたそうです。
境A遺跡の出土品で目の保養ができました。小学生の頃にも見た資料があるのかも知れませんが、既視感は無く新鮮な気持ちで見ることが出来ました。
実際の翡翠を目に焼き付けて午後からの翡翠拾いの意識を集中することにします。まずはその前に腹ごしらえとします。
富山の回転寿司
昔から富山に遊びに来たら、リーズナブルで新鮮な回転寿司によく行きました。久しぶりに埋蔵文化財センター近くの回転寿司へ向かいました。
お店に入って店内の何とも言えない磯のような匂いを嗅いで、昔の記憶が蘇りました。この時行ったお店はカウンターから直接店員さんにオーダーして、目の前で握ってくれます。
↑まずはこれで1000円以下のお値打ちセットを頼みました。どれも新鮮。
地の魚が食べたくて頼んだのが、柳ハチメとバイ貝。柳ハチメはウスメバルという石川では春告魚とされる季節の魚。上品な味わいですが、適度に脂が乗って身がしっかりしていました。
↑ 柳ハチメ ↓バイ貝
バイ貝は煮たものを食べる機会はありますが、生でこれだけ大きな物を食べられるのはやっぱり海近くまで来ないと食べられないでしょう。歯ごたえと独特の風味が最高でした。
いざ翡翠拾いへ
美味しい物を食べて幸福感に包まれながら、車で高速道路に乗り、この日は翡翠の拾える新潟との県境である富山県朝日町、宮崎海岸を目指します。
車を走らせていると、降り続いていた雨が止み、それまで真っ白に曇っていた立山連峰が急に姿を見せ始めました。まだ山の方は冬の装いで、頂上付近はジェラートのような雪渓です。私の実家の飛騨でも乗鞍や御嶽が晴れているとよく見えますが、海の近い風景から一気に立山連峰が見える風景はまた新鮮で神々しく見えました。これは幸先が良い。
宮崎海岸は小さい頃家族旅行で海水浴をした海岸ですが、当時は翡翠の存在は知らず、大きな玉砂利のような石の散乱した海岸は波が強めで、乾いているところは太陽に照らされめちゃくちゃ熱く、海水浴自体はあまり楽しめなかった記憶があります。
久しぶりに訪れた宮崎海岸は、思い出のギラギラ太陽が照りつける海ではなく、雨こそ降ってないものの、どんより曇っていて、いかにも日本海の海といった風情でした。
気持ちがたかぶって、すぐに長靴に履き替えて採集モードになります。スイッチが入ると、ゾーンに入った感じで疲れてるのに気づかないくらい自動的に足元ばかり見てしまいます。そんな事をしていると、いつの間にか波が押し寄せてきて油断すると、長靴より上まで海水が掛かってしまいます。しかし、そんなの気にならず黙々と拾うのです。縄文人もこんなに夢中になったんでしょうか。
色とりどりの石が落ちています。翡翠だけではなく、他にもネフライト(軟玉)、蛇紋岩、水晶、メノウ等鉱物のバリエーションも多くて楽しい。
手前のグリーンの入った石はいわゆるキツネ石と言って、翡翠拾い初心者が間違って拾いやすい石です。濡れている時は綺麗ですが、乾くと夢から覚めます。
この日は波が荒めで、大きな波が来る度海中の石を巻き上げるカランコロンといった音がはっきり聞こえる状況でした。波と石の音を聞いただけで、翡翠が打ち上げられそうでワクワクします。しかし、太陽光が無い分翡翠特有のキラキラした煌めきや発色が非常に分かりにくく、2時間ほど拾いましたが思ったような成果はありませんでした。
結果は芳しくありませんでしたが、石拾いの楽しさを体が思い出し、終始ドキドキしている自分がいました。もうちょっと拾いたかったのですが、再び雨が降り出したのでその日の石拾いは終了となりました。
富山の温泉
1日目の石拾いは特にこれといった成果はありませんでしたが、十分楽しい時間を味わえました。翡翠は拾えない時は全然拾えないのですが、返ってそれが拾えた時の喜びになります。早く翡翠に出会いたい。
宮崎海岸を後にして再び富山市内に戻り、予約していたドーミーイン系列のホテル「剱の湯 御宿 野乃」にチェックインしました。
温泉が売りのビジネスホテルとしてドーミーイングループに泊まったのは初めてでしたが、御宿野乃はエントランスから靴を脱いで畳敷きのフロアに上がる旅館をイメージした作りとなっており、全体的に和モダンで清潔感のある宿でした。
大浴場は日帰り入浴もできるので、深夜の方が人がおらずゆっくりできました。宇奈月温泉等を別として富山市近辺は温泉に恵まれていませんが、ここは茶系のクリアなほうじ茶のような色のアルカリ性単純泉で、しっかり温泉でした。大きなビジネスホテルなので、大浴場は掛け流しとはいきませんが、塩素臭はそれほど無く、特に部屋付きのヒノキ風呂は恐らく消毒なしと思われます。浴後はすべすべ感があり、さっぱりした気持ち良さでした。ただし、サウナは温度は高いけどカラッカラに乾燥していたので、もう少し湿度が欲しかった。そして、水風船は14℃くらいだったと思うのですが、私には冷たすぎて、しかも浅いので根性を入れてお尻を底に付けないと浸かれないのですが、根性がない私はお尻をチョンと水面に浸けて直ぐに逃げ出したのでした。初めて入る温泉施設では、このように自分の好みや苦手なものを再認識させられます。いずれにせよトータルで気持ち良かったのでオッケーです。
富山の美味しい夜
夜は久しぶりの居酒屋に行きました。お酒は好きですがお酒を飲む習慣がなく、例の病もあってかなり久しぶりの居酒屋さん。富山の地の物を色々食べてきました。
ホタルイカの刺身。富山では生食も普通です。スーパーにも売ってます。柔らかくにゅるんとした食感。美味。やっぱり季節の物は最高。
富山と言えばの白エビ。揚げたて天ぷらで。身は小さいけれど旨味と、風味がしっかり。
再び登場のバイ貝。これは煮たもの。濃いめの味付けでも旨し。ちゃんと貝が主張してきます。
すり身を揚げて、鰹出汁をかけた物。優しい魚の旨味。
そして、肝腎なお酒は日本酒に詳しくない私でしたが、なんとなく聞いたことのある「勝駒」というお酒を飲んでみましたが、これが最高でした。飲みやすいけれど、しっかりとした旨味、香り。飲んだ後もスッキリとして食が進みました。後で調べたら、人気でなかなか手に入らないみたいです。
いささか食べ過ぎてしまいましたが、この日は富山の美味しいものを堪能して、夜は幸せな気持ちでぐっすり眠ったのでした。
後編に続きます。
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