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2021年12月の記事一覧
スケープゴート -11-
―聖なる夜―
十二月二十四日。田中ちゃん夫妻のパーティー当日。夕海の体調はすっかりと良くなっていた。だからといって、田中ちゃん夫妻のパーティーには行けない。夕海としては体の良い断る理由にはなっていたが、なぜだか勝手に淋しくも思い始める。
綿谷は綿谷で田中ちゃん夫妻のパーティーに行くか行かないかで面倒な事を言い始める始末だし、夕海としては、げんなりしていたのは事実である。折角の
スケープゴート -10-
―来訪―
田中ちゃんのパーティーまであと三日。
十二月二十二日、夕海は倦怠感を感じていた。その夜には高熱が出て、翌日は朝起きる事が出来なかった。幸い、シフト休で仕事は休みだったので、夕海は病院へ行く事にした。しんどい身体で最寄りの内科に掛かる。どうやらインフルエンザらしい。翌日のシフトが入って居たので、夕海は職場へ連絡した。会社側からは、インフルエンザの場合、職場復帰するに
スケープゴート -09-
―交流―
数日後の出勤日。夕海は昼休憩にいつもの様に喫煙所へ行った。綿谷はもう来ていたようだ。そんな彼はというと、忙しなくゼリー飲料を喉に流し込んだ後にタバコを吸い始めた。
「あー、今日は俺のミスで客先に呼び出されてんだよ!昼イチで来いってさ!大変だよお」
「あら、ご愁傷さまです」
「ほんと、マジ、ありえないよ!なんでミスったかなー」
「こんな所に来る暇があったら、早々に向かった方が
スケープゴート -08-
―変化―
夕海は一度大きく体調を崩してから以降は、大なり小なり波は押し寄せて来たがなんとかやり過ごしていけるようになって来ていた。職場の喫煙所にもまた通うようになっていた。勿論、綿谷と会って雑談をしたりしていた。綿谷も今まで通りの態度で接してくれていたので夕海としては助かっている。付き合うという約束はしたものの、二人の関係は何も進展していない。まずもって、夕海にはそんな事が考えられない
スケープゴート -07-
―迷走―
渡辺さんに相談してから、夕海は綿谷と少しギクシャクしてしまっていた。渡辺さんがあんな事を言うものだから、夕海は変に意識をしてしまい余計におかしな言動になっていた。綿谷もそれには気づいては居たが、別に気にしていない様子でいつもの調子で話掛けて来る。彼のそういう所には助かっている夕海だが、自分自身がコントロール出来なくて煩悶としていた。
「それで、課長がさー、IDカード作ってく
スケープゴート -06-
―動揺―
先日のお花見から夕海は、出勤時、昼休憩、退勤時に喫煙所になんとなく通うようになった。そこに行けば大抵綿谷も居るし、他の喫煙者達も集まってくる。アルバイトを始めた当初は、面倒くさい人付き合いを避けていた夕海だが、喫煙者故に喫煙所でのコミュニケーションはやはり楽しいものであった。社員や派遣、アルバイトの人達が喫煙所を訪れては会釈や挨拶、少しの会話をする。また、喫煙者あるあるなのか、ライタ
スケープゴート -05-
―自由―
数か月後、年も明け、夕海は有能な社会労務士のお陰で障害者年金も支給され、生活保護も継続して貰える生活になっていた。
全てが終わり、夕海はそれから半年は臥せっていた。
全てをやり終えて疲弊しきってしまい、ベッドから起き上がることすら難儀になっていた。転院した病院にも通わなくなり、働きもせず、夕海は寝ては起きての繰り返しの生活を送る。夕海の中では、もう少しだけもう少し
スケープゴート -04-
―生殺し―
退院して二週間が過ぎた。退院数週間前から、薬を飲む事を止めていた夕海は、割と調子はよかった。しかし、眠る前の薬だけはどうも飲まずにはいられなかった。
夜眠れないのは辛い。朝までが長く長く感じられるし、闇夜の中で、とてつもなく寂しくなり、絶望感を抱くからだ。病院は退院したものの、すぐに働ける状況でもない。薬を飲まなくなってから大分良くなったとは言え、まだ呂律も回らないし、
スケープゴート -03-
―二度目の面会― 午前中はしとしとと雨が降り注いでいた。湿度が高く、昼前には病棟内も蒸しかえっていた。午後からは午前中と打って変わって太陽が照り始め、湿気に加え気温が上昇して過ごしにくくなっていた。夕海たちは詰め所のナースに除湿か冷房を病棟内に入れてくれるように頼んだり、ホールに備え付けの自販機でジュースを買って飲んだりしていた。
昼食後、午睡をするものもいれば、テレビを観ている者、本を読
スケープゴート -02-
―面会―
OTへの参加許可を貰う為には再び診察を受ける必要がある。診察までの待ち時間、夕海は喫煙所で暇をつぶしていた。その日は土曜日だった。日曜日には医師は居ないので、土曜日にギリギリ許可を貰って翌週からOTへの参加を認められたかったのだ。そんなことよりも夕海は重大な事を忘れていた。
入院してから、早二週間は経とうとしていた。面会も家族からの連絡も一切なく、さまざまなことがありつつ日々を過ご
スケープゴート -01-
―ZELLE―
病院に運び込まれてからも、大声を上げて叫んでいた。すると白衣に着替えた藤崎が注射器片手に傍にやってきた。
「これで少し楽になるから、ゆっくり休みなさい」
その後意識は途絶えた。気を失ったのか、何があったのかイマイチ理解できなかった。目が覚めたとき、緑色の天井が見えた。ここはどこだろう?布団から一段下の所には和式便所が備え付けてある。トイレットペーパーは無造作に床に
スケープゴート -00-
―プロローグ―
「おつかれさまです。お先に失礼します」
と元気良くハキハキと喋る女性がいる。
荒木夕海は二十三歳。コンビニでバイトをして、早三年になる。有る程度仕事も覚えて、上司や先輩から可愛がられつつ、日々の業務もソツなくこなせている。何も問題のない、ただ普通の女性。
そんな彼女にも人には言えない悩みがある。それは、家族仲の悪さ。元々、夕海は荒木家の人間ではない。母・幸枝の連れ子として