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『まだ、うまく眠れない』内容紹介(前半のみ)

7/25に発売になる私の新著、『まだ、うまく眠れない』。かなり多くの方から、「内容がよくわからなくて購入を迷っている」とお声をいただいております。申し訳ありません。

私も担当編集さんに聞いてみたのですが、「私小説的エッセイ……? でもエッセイと呼ぶほど軽くないですし、ノンフィクションなので小説でもなく……」と言われ、二人で頭を抱える事態となりました。

そこで私から、章ごとに少しずつ、「どんなことを書いたか」を紹介していきたいと思います。内容の参考になればさいわいです。

目次はこんな感じ

【エピローグ】

自己紹介と私の現在地。

――そう、万事快調なはずなのだ。昔に比べれば、私は、完璧に、万事快調である。

――甘美な失墜の誘惑に抗いながら夕飯の材料をカゴの中に放り込む。大丈夫。まだ大丈夫。わけもわからず放り込む。一体私は何を得ようとしていたのだっけ。

『まだ、うまく眠れない』

【モテ】

「承認」を巡る葛藤について。文春オンラインで全文無料公開予定です。

【美人】

「石田月美」で検索すると最初のサジェストが「美人」なのに、クリックすると批判しか出てきません笑 そんな私が美醜について感じる欺瞞とは。こちらも文春オンラインで公開予定です。

【団地】

私の地元、練馬の団地の話。言葉の違いという観点から、持たざる少年少女たちについて。「虞犯(ぐはん)」という言葉をご存知なかったら、ぜひこの機会に知ってもらいたいです。

――溜まり場にいる子たちは、なぜその部屋が溜まり場になり得るのかも、なぜあの子は平日の昼間から来ているのかも、なぜあの子はいつも弟を連れているのかも、なぜあの子は日曜の午前中は遊べないのかも、みんなみんなよく知っていた。ネグレクトも、在日日系外国人二世も、ヤングケアラーも、カルト宗教も、そんな言葉誰も知らなかったけれど、それがどういうものなのかは身を以て知っていた。そしてそのすべては「しょーがない」で散らかった部屋に埋もれていた。

――「札付きのワル」という言い回しがあるが、私の見る限り、ワルだから札がつくのではない。まず先に札が貼られる。その札は「スティグマ」とか「罪悪感」とかいうもので、貼られた仲間はその札数と同じ分だけ悪いことをした。誰に貼られるのかは幼い頃からわかっていて、世代間連鎖なんて言葉がなくとも、ショッピングモールに行けば母娘その娘と三世代が同じ場所で働いているような地元で、札は受け継がれていくようにも見えた。その家族ではなく、周囲の者たちによって。

――どれだけ自分をゴミのように扱っても、やった自分は捨てられない。そのことだけが残った。

『まだ、うまく眠れない』

【グルーミング】

小六のときに通っていた塾の先生とのこと。その先生は法も条例も犯したわけではありません。けれど私が抱えた違和感。きっとこのような違和感を抱えたまま、「でも何かされたわけではないし……」と飲み込んできた女性は多いはず。

――衝撃だった。考えたこともなかった。姉の反応も言うこともよくわからなかった。だって、何もなかった。何も、性的なことは何もなかったのだ。

――確かに私はあの塾の中で、「私の良さをわかってくれる人に巡り会った」と思った。大人になってみれば、その私の良さとは「小学六年生である」ということだった。

――先生といくつも秘密を共有するたび、私は選ばれたのだという自信を持った。初恋かどうかなんて考えもしないほど幼かった。私はどこまでも小学六年生だった。

『まだ、うまく眠れない』

【両親】

アルコール依存症で暴力を振るう父と、イネイブラーで過干渉な母の話。両親はその時代において実に凡庸なしかし必死の愛情を私に注ぎました。感謝しています。ただ、父に「二度と敷居を跨ぐんじゃない」と言われたときのほうが、母に「いつでも帰っておいで」と言われ続けるよりも私にはずっと楽でした。

――彼、彼女たちはただその時代にその社会で親になっただけの人物であり、良かれと思って余計なことしかしなかったありがちな人類の一員なのであり、その延長線上に自分がいた。

――彼女は彼女の幸せな物語を他人と共有しながら生き、自他ともに「いい人だった」という認識の中で死んでいく。その粗雑なリアリティは、解像度上げてどうとかいうよりもずっとずっと大切なことで、彼女の幸せな生に口を出す権利はない。ただ単に、その物語を私とは共有できなかったというだけのことだ。

『まだ、うまく眠れない』

【体】

家出少女として暮らしていたときに摂食障害になったことと姉との生活について。体から逃げたい。体へのまなざしから逃げたい。

――知らない土地で、友だちも出来ず、嘲笑われながら働き続ける私に寂しいなんていう資格はない。だって親の反対を押し切り家出をし姉の好意でここに居る。自分のことをみじめだなんて思ったらその気持ちに押し潰されそうで、私は姉たちを支えているのだという錯覚を支えにして働いた。

――聡明で優しくて私の体をジャッジしない姉とずっと一緒に居たかった。そのために「魔法使いの月美ちゃん」でいたかった。麻酔を打ち続けながら送った日々を実はあんまり覚えていない。働いて食べて、食べて食べて働いて、姉と手をつないでいた。食べている間だけ時間は止まっているように感じられる。自分をみじめだと思わぬよう、姉の手だけは離さないようにした。私はその家の大黒柱だったけれど、全身全霊で姉に寄りかかっていたのは私だった。

ーー私は自分の体を拒否しながらこれからもこの体と生きていくしかないらしい。勝手に成長し、血を流し、膨らんだり縮んだり痛んだりしながら、どこまでもついてくる体。私の体は私のもののはずなのに、全く思い通りにならないこの体に引き止められ、まなざしに引き裂かれながら。

『まだ、うまく眠れない』

【生活】

ひとり暮らしを始めた私はウツになり、セルフネグレクトに陥りました。部屋に閉じこもり、風呂も入らず鏡も見ず、過食をするだけの毎日。そのときズカズカと踏み込んできた迷惑で最高な友人の話。

――しかし私には怒る気力もなかったし、何より情けない姿を見られたことの恥ずかしさや不義理をしていた罪悪感で、「ありがとう」とか「ごめんね」とか思ってもいないことを繰り返していた。寝たままで。

――それでも私はコップにお茶を汲んでもらったときの、あの瞬間だけは肯定したい。あの瞬間、私は病気になってから初めて対等に扱われた気がした。喉を潤すだけならペットボトルからがぶ飲みすれば良い。横たわっている病人に曲がるストローを持ってきてくれる人もいる。だけど私は清潔なコップにお茶と氷を入れて渡されたときに、大げさだけど、「人権」ってのを取り戻したような気がしたのだ。私はこの麦茶に値する人間なんだって思った。

『まだ、うまく眠れない』

【Aちゃん】

精神科で出会った仲間の話。初めて仲間の詳細な話を書きました。サバイバーのAちゃんと、仲間として付き合うこと。依存症に関心のある方はぜひお読みください。自助グループ、12ステップ、スポンサー制度、、、それらが弊害になるときもあるのでは。

――「じゃあなんで月美ちゃんは恵まれててうちの子は恵まれてて、あたしはそうじゃなかったの?」

『まだ、うまく眠れない』

【優生思想】

女性同士のパワーゲームに勝ち続けてきた友人の話。その序列の構造を下卑ていると一蹴していたつもりの私こそが、むしろ構造を無傷のまま再生産してきたのではないだろうか。妊娠、中絶、出産、不妊治療、、、

――すると彼女は、「そうかな。負けてる方がよっぽどダサいと思うけど」と言ったのだ。

――私はそれでも自分が正しいことをしたと思った。ずっと、正しいことをしたのだと思っていたのだ。でも違った。

――一瞬のことで打ち消そうとしたけれど、私はこの醜い感情を持った自分に慄き、その瞬間を忘れることは不可能だった。私はそう、確かに思ったのだ。こっち側にきてみろ、と。

『まだ、うまく眠れない』

【性被害】

弟が逮捕されたとき、私が幼少期の性虐待の記憶と、家族の混乱とどう付き合ったか。そして精神医療はそのとき私に何をしてくれたのか。他人に病名や疾患名を貼り付け、標本のようにしてわかった気になってしまったとき奪うものとは。私は病気だけれど、病気は私じゃない。精神医療にご興味ある方はぜひお読みください。

ーー私は運命を拒否する。解釈を拒否する。因果律を拒否する。私は私に貼り付けられたすべてのラベルを破いてしまいたい。

――当時、姉はNYの国連で働いており、弟はKOからメリルリンチに内定が決まったところで、こっからどう肩並べろっていうんだよ、もう私のことはミミズかなんかだと思って穴の中に居させてください、と絶望していたところへ弟逮捕速報。よっしゃ! 最下位脱出! これが私の嘘偽らざる本音だった。

――でも、弟からの手紙は違った。もちろん姉弟間だからセクシャルな記述は極力避けられていたし弟なりに姉を慮った内容だった。
今でもその下手くそだけれど整えて書かれた文字列を覚えている。
「俺、気づいてたよ」
その他にも色々書かれていたし加害者である知人の名前は私が伏せていたのに記憶と一致していた。あのとき何もしてやれなくてごめん、みたいな言葉で締められていたと思う。だけど、その一文以外の文字は手紙からバラバラとこぼれ落ちるように感じた。

『まだ、うまく眠れない』

以上、前半のみを少しだけご紹介させていただきました。後半は更なるボリュームで様々なトピックが詰まっております。

『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)。ご予約受付中です。
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#まだねむ


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