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「あてっこ詩」と三角ロジックから始める楽しく伸びる国語「授業開き」

 私は、国語学習をスタートさせる際に、学校の教育目標などを踏まえつつ、こんな子供たちだからこんな1年間の国語学習を創りたいという思いをその中心に据えていました。
 ですから、国語の授業開きは、[思考力、判断力、表現力]の内容にある、A話すこと・聞くこと、B書くこと、C読むことの3つの領域のうち、どれを重点化するかによって、その年ごとに内容を変えていました。

 今回の「ヒント帳」では、「書くこと」または「読むこととしての音読」に重点を置いた場合の、国語の「授業開き」を、複線型でお伝えします。

 授業は、大きく3つの授業場面に分かれます。

 ①の場面は共通で、「読むこと」の学習への意欲を引き出しつつ、読む力を高めるための第一手を打ちます。
 
 ②の場面が「書くこと」と「読むこととしての音読」のどちらを選ぶかで、展開が異なります
 
 一年間「書くこと」を重点化するプランでは、「よく見て書く=見たこと作文・日記」につなげるために、「よく見る」ことのよさや楽しさを感じ取らせたり、技能を意識させたりすることをねらいました。

 一年間「読むこと」を重点化するプランでは、物語第1単元(音読教材など)の[音読大会]や[やがて宿題になっていく「家庭での音読」]につなげるために、音読の方法を考えたり確認したりすることをねらいました。
 
③の場面は、<振り返り>です。
 どちらを重点化したかで、振り返りの観点が変わります。

① 一行詩を「あてっこ詩」で読む


1⃣題名を隠した短い詩を順に提示します。次の詩などです。実際は縦書  きです。


  【   】
  長すぎる。
        (答えは「蛇」、作者は、ジュール=ルナール)
 
  【   】
  さんぱつがきらい
        (答えは「ケムシ」、作者は、まど・みちお)
 
  【   】
  そらからの
  おくりもの
        (答えは「雪」、作者は、河野久美子)

 
2⃣題名を考えさせます。子供たちは、例えば「長すぎる。」には、こんな題名を次々と考えました。
  
  文  道  本  へび  先生の話  トイレ  うなぎ  トンネ 
  ル  線路  時間  人生 ……

(「人生!」などという発言を聞くと、「嗚呼!自分は今、小学生を相手にしているのだ」と、思わず感じ入ってしまいます。)
 
  
3⃣ここからがポイントです。
 どれが、「ぴったり」だと思うかを選ばせます。
 クイズ形式ではあっても、「クイズ」ではありません。
 ですから、選んだ理由を言わせます。根拠は明確です。たった一行しかない詩の本文です。
 この一行を根拠に、自分の知識や経験と結び付けて理由を考えさせま
す。
 つまり、「三角ロジック」を使わせるのです。

 私は、読むことの学習において、三角ロジックは大変有効だと考えています。もちろん、他教科でも使います。
 三角ロジックを難しいと言う人がいますが、そうでもありません。要は指導の方法です。
 この教材は、三角ロジックの導入に最適です。「長すぎる(根拠)ということは、~だから(理由)、題名は◯◯」、「さんぱつがきらい(根拠)ということは、~だから(理由)、題名は△△」という推論を、子供たちがごく自然に行います。「根拠」と「理由」を分けて考えることが、当たり前のように行えるのです。しかも、全員が同じ根拠で考えるので、対話的な学びになりやすいでしょう。

 さらに、焦点化することで、考えた題名の検討がより進むと思います。
 「長すぎる。」の場合は、「『長い』と『長すぎる』は、どこが違うかな」と発問するなど、「すぎる」に着目させるとよいと思います。

※まだ「授業開き」です。少しくらい論理が飛躍していても深追いしないほうが良いと思います。それよりも、「根拠」と「理由」を分けて考える・説明することのよさや大切さ、また、その時に、「自分の知識や経験と結び付けて考える」ことのよさや大切さをしっかり感じ取らせ、③の「振り返り」で押さえたいと思います。  

4⃣理由付けを基に、再度、「ぴったり」だと思うものを選ばせます。

5⃣答えを教えます。

※一つ一つの詩に対してこの展開を繰り返しましたが、軽重を付け、私は特に「長すぎる。」に時間を掛けました。
 なお、この一行詩では、子供たちが本文に集中できるように、作者は後で伝えることにしました。
 

② <書くことに重点を置く場合> → 一行詩を書くことに挑戦する


1⃣「みんなも、一行詩を書くことに挑戦しよう」と投げ掛けました。「えーっ」という返事がほとんどです。
 そこで、「では、一行詩を書くコツを見つけよう」と呼び掛けました。

 ある年の子供たち(高学年)は、こんな<書き方のコツ>を見つけました。
  
◯ まず、対象をよく見つめる。(今回は、思い出して心の中でよく見つめる) 
◯ 次に、発見した対象の特徴をできるだけぴったりと思う言葉で表す。
◯ その時に、比喩を使っても良い。

 この「コツ」が、その後の「よく見て書く=見たこと作文・日記」で活用・拡充されていきます。

2⃣子供たちは、こんな一行詩を書きました。子供の著作権保護のために、一部を改変して紹介します。

  ほし
 夜からのプレゼント
  
  たんぽぽ
 家族がたくさん
  
  辞書
 世界で一番のものしり
  
  電卓
 頭が良すぎ
  
  秒針
 とまるのがきらい
  
  クラス
 きせきのおかげであえたなかま

3⃣句会の要領で、名前を伏せて全員分を提示し合い、「第一席」を選ばせました。

②’ <読むこととしての音読に重点を置く場合> → 『たんぽぽ』も「あてっこ詩」で読む

1⃣今度は、少し詩を長いものにします。
 川崎洋の「たんぽぽ」を題名と題名が書かれている一行目を隠して提示しました。数回、音読させました。(範読→後追い読み→一人読みなど)

    【      】
           川崎 洋
         
   【      】が
    たくさん とんで いく
    ひとつ ひとつ
    みんな 名まえが あるんだ

    おーい たぽんぽ
    おーい ぽぽんた
    おーい ぽんたぽ
    おーい ぽたぽん
    川に おちるな

 

2⃣①と同じように題名を、三角ロジックを使って考えさせます。
 今度は、自分で根拠を探さなくてはならないので、少し難しくなりますが、ほとんどの子が、「たぽんぽ」「ぽぽんた」などを根拠にして、「たんぽぽ(綿毛)の名前だから」と理由づけをしていました。
 
2⃣「た」「ん」「ぽ」「ぽ」の四文字を使って、他の名前も考えさせます。苦手な子には、文字を書いたカードを動かして支援しました。
 言葉遊びを通して、作者の行ったことの「追体験」です。それにより、他にもまだ別のたんぽぽ(綿毛)が飛んでいるであろうと想像したり、たんぽぽ(綿毛)に名前を付けるという作者の発想の面白さ・豊かさを感じ取ったりします。
 
3⃣二連をどう音読したらいいかを考えさせます。
 子供たちは、「呼び掛けているみたいだ」「川に落ちないように心配している」「優しい」などを理由にしながら、読み方を工夫します。
 その工夫を基に、<声の大きさ><読む速さ><強弱><間>など、表したい気持ちや場面の様子が聞き手に伝わるような音読の方法を考えたり、前学年の学習を想起して確認したりします。
 

③ 振り返りをする


 この1時間で学習したことが、次のどんな学習活動につなげられそうかを考え合います。
 上記のように、「よく見て書く=見たこと作文・日記」や、物語第1単元の[音読大会]・[家庭での音読]につなげます。

以上です。

※「あてっこ詩」の活動は、岩辺泰吏氏の『子どもたちに詩をいっぱい』(労働旬報社,1996)と『はじめてのアニマシオン』(まなび探偵団 アニマシオンクラブ共著,柏書房,2003)に学びました。どちらも、教師の必読書だと思っています。『子どもたちに詩をいっぱい』は、絶版だと聞いています。残念!
 ちなみに川崎洋「たんぽぽ」は、児童文学の名作『12歳たちの伝説』(後藤竜二,新日本出版社,2000)の中で、この詩のもつ豊かな力が発揮される使われ方をしています。