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『新座の焼肉屋』人生万景


「そういえば、そうだ。まっちゃん(僕のあだ名)これあげる。どこかに付けといてよ」
 先輩のHさんは『MOTHER』というゲームが一番好きらしい。そのゲームの中でフランクリンバッヂという重要なアイテムがあるらしく、それを身につけていると即死してしまうビームや雷から守ってくれる。らしい。
「僕も『MOTHER  2』ならやったことあるんですけど。もう小学生か中学生くらいのときの話なんで……」
 箱には3500円(税抜)と表記されていた。
 いつも昼ごはんはカロリーメイト2本とおにぎり1個のHさんから貰うには気が引けた。
 2日後が僕の誕生日だと知ったHさんは「あ、じゃあそれ誕生日プレゼントで」と言った。
「お子さんにあげたかったんじゃないですか?」
「ああ、息子にあげようと思ったんだけどね。なくされても、だから」
「すみません。ありがとうございます。今日早速ヤフオクに出させていただきますね」
 いつもなら「うおいっ!  まちゅだっ!!!(僕のあだ名)」と叫んでジタバタするはずなんだけど。
「出してもいいよ。売切れになってる商品だから高く売れると思うよ」と調子が違った。仕事を変えると人も変わるのかな。
「ないない。ないです。売るわけないです。いただいた物とか手紙は全部取ってありますから。有り難くいただきます。けど、これ僕にあげといて先輩今日死ぬとかないですよね?」
 本当にそう思ったから。
 Hさんは死にそうな顔で「死なないよ」と笑った。

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