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In Defense of Strategy

先週、Not Boringの「When to Dig a Moat」の翻訳を公開しましたが、今回はその続編です。

前回は各スタートアップがどのタイミングでモートを掘る必要があるかという点で「不確実性のベールに包まれているうちにモートを掘らないといけない。不確実性はそのビジネスによって異なり、時間軸と共に変化する。」というインサイトを得ました。

「必要なモートの深さ」 = 「どのくらいアイデアがうまくいくことが明白か」 - 「アイデアを実現させるのがどれだけ難しいか」

続編となる「In Defense of Strategy」では、実際にモートを掘るにあたりどうその戦略を考えればいいかという点について、「診断 (Diagnosis) 」「方針 (Guiding Policy) 」「首尾一貫した行動 (Coherent Actions) 」という3つのステップを用いたフレームワークが提示されています。

その中でも一番大事なのは診断で、どんなに自分に不都合な問題/課題が上がったとしても素直にそれを認め、認識し対処方法を考えていくことが大事になります。

また、著者のPackyさんの前職のBreather (1億ドル以上調達したオンデマンドワークスペースのプラットフォーム) での実際の体験談をかなりリアルに書いていていることも、めちゃくちゃ参考になりました。実際に彼がBreatherでどう戦略を描いたかを鮮明に示してくれています。

前回も書いた通り、この2つのブログと「7 Powers」、DCM原さんのnote「Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論」を読めばモートについてあらかたは理解し実践に落とし込めるのではないかと思います。
(今回のブログ内にもあるように余裕があればGood Strategy Bad Strategy  (良い戦略、悪い戦略)」、「Productive Uncertainty」も読んだ方がいいのは間違い無いですが!自分はこれから読みますw)

そして、自分が掘っていくモートが見えてきたらそれについてより深掘りしていくのは良いかもしれません。たとえば、特に多くの成功したスタートアップが活用しているネットワーク効果では、昨年日本語版も出ているアンドリューチェンさんの「ネットワーク・エフェクト」やNFXの「The Network Effects Manual」など多くの考察がありもっと勉強していきたいと自分も思っています。
また、実際の起業家の先輩方のインサイトもぜひ勉強したいです!色々と教えてくれる方がもしいたら@IsamuNsihijimaまでご連絡ください〜 (いつかIVSでこのテーマのセッションやりたいです。)

では以下翻訳です!原文↓

Thank you, Packy san for letting me do this!
皆さんも是非Not Boringの購読してみてくださいー!

(誤字脱字、訳ミスがあればご指摘くださいー)


テック業界では、エグゼキューションがすべてであり、戦略は根性のないMBA生のためのものだという考えがある。

その考えは間違っていて、私にはそれを証明する過去の失敗がある。

Not Boringの前は、Breatherというフレキシブルワークスペースのスタートアップで働いていた。その時のことは以前にも書いた。時間単位の予約、ノンストップのオペレーション、業界最高のテック、NPSは常に70~80台と、10のマーケットで500のスペースをうまく運営していた。私たちは得意なこともあれば不得意なこともあったが、ひとつだけ否定できないことがあった。私たちのエグゼキューション力は最高だった。

しかし、私たちは失敗した。1億2000万ドルを調達した後、2021年に300万ドルで売却した。Breatherをダメにしたのは、エグゼキューション力の欠如ではなかった。戦略が悪かったのだ。

戦略なきエグゼキューションは無駄で悲劇的だ。「最高のプロダクトと最高に優秀な人材を持ち、最速の成長を遂げている企業こそ、まさにモートが最も重要な企業なのだ。」のように、エグゼキューション力が最も優れた企業こそ、まさに戦略が最も重要な企業である。彼らだけにチャンスがある。

エグゼキューション力に優れていればいるほど、どの方向へも速く走ることができる。優れた戦略は、正しい方向に速く走る助けとなる。

エグゼキューションは必要だが十分ではない。戦略も十分ではないが、必要である。

しかし、なぜかテック業界では、戦略をバカにする (shit on strategy) ことが名誉なのだ。

さて、私は戦略を擁護するためにこれを書いている。

戦略こそが、スタートアップというゲームで終わるのか、永続的なビジネスを築くかの分かれ目なのだ。私は、優れた戦略なしに、成功が明らかになるまでにモートを掘ることなく、100億ドル以上の成果を達成したスタートアップの例を(GoogleやChatGPTで)探し回ったが、思いつかなかった。

スタートアップが不確実性がなくなる前にモートを掘る必要があるとすれば、戦略とはそれを行う方法である。モートが「何 / What」であるならば、戦略は「どのように / How」である。

どのスタートアップにも、守る価値のあるものを作りながら、その周囲に防御を構築しなければならない期間がある。

スタートアップにとって戦略とは、その時間をいかに賢く使うかを決めることである。言い換えれば戦略とは、激しい競争を惹きつけるくらい十分に不確実性を取り除く前に、限られたリソースをモートを掘ることに振り分けることだ。

モートと同様に、戦略もまた、大企業が何千人もの従業員を有し、何十社もの競合他社と戦うときに心配しなければならないものと考えられがちだ。戦略に関する文献のほとんどは、そうした大企業のために書かれたものであり、そのほとんどはスタートアップにとってはtoo muchなものだ。

だからといって、戦略はスタートアップよりも大企業にとって重要だということにはならない。むしろその逆だ。戦略は、すべての選択肢(道 / Path)が検討可能なDay 0に、最も高いレバレッジを発揮する。

この図では、戦略をきれいに見せすぎてしまった。不確実な状況下では、学びや状況の変化に応じて戦略を変更する必要がある。

しかし、前もって戦略を練っておくことで、限られたリソースのすべてを最初から一つの方向に投入し、選んだ市場で勝つために必要な強みを築き上げ、うまくいけば、不確実性のベールに隠れている間に、ビジネスをより現実的で防衛力の高いものにするために取るすべての小さな行動を複利的に積み重ねることができるようになる。

不確実性のベールに隠れている時間に、戦略を練らずにやみくもになエグゼキューションに費やせば、貴重な不確実性に隠れている時間を無駄にし、人の採用や、顧客との契約、外部資本の受け入れといった決断を誤ったものにしてしまう。そして、立て直さないといけない状況になった時に、すでに手遅れという状況になってしまう可能性もある。

これはすべて当たり前のように思える。方向性を定めてエグゼキューションする方が良いということに異論を唱える人はほとんどいないだろう。そして、戦略がその助けになる。

では、なぜ戦略はこれほどまでに酷評されるのだろうか?

悪い戦略

戦略と呼ばれる人々によって教えられ、実践されているほとんどの戦略は、悪い戦略である。

Ben Rollertと私がBreatherの幹部チームに、WeWorkやKnotelとの競争に直面している中でどう利益率を改善するかという戦略を2017年のクリスマス休暇に考えようと話したとき、CTOのBen NevileはRichard Rumeltの「Good Strategy Bad Strategy (良い戦略、悪い戦略)」を読むように言った。素晴らしい推薦だった。

実践しやすかったし、悪い戦略の特徴をたくさん認識できた。いくつか紹介しよう:

  • 目標を戦略を混同する: 典型的な例だ。「我々の戦略は、売上を50%成長させ、同時に粗利率を200bps改善することだ。」いいね...でもどうやって?

  • 綿密さの欠如 (ふわっとしている): 流行語や専門用語を使い、高度な思考をしているように見せかけること。戦略がでたらめだと思うのなら、綿密さが原因である可能性が高い。

  • 問題にきちんと目を向けていない:ビジネスにとって本当に重要なことは1つであることが多いが、(Rumeltは新著でそれを「Crux (核心)」と呼んでいる。) 悪い戦略はそのCrux (核心)の近くで踊っているようなもので、重要度は低いが対処や測定が容易な事柄を優先してしまう。

  • 競争を無視する: 競争相手を認識しなかったり、自社の動きに対する相手の反応を予測しなかったりすることは、怠惰で危険なことだ。

Breatherが最終的に悪い戦略の犠牲になる前に、Benと私は(自分で言うのもなんだが)良い戦略を思いついた。具体的な内容は良い戦略について取り上げた後で説明するので、今のところは、競合他社が簡単にはできないことをすることで、半年で粗利益率が-25%から+25%に改善したという結果だけ書いておこう。

そして2019年、私たちは新しいCEOを迎え、そのCEOが新しい経営陣を招集した。彼らが就任して数週間後、Benと私は幹部チームのオフサイトで戦略を発表した。私たちの話は2分ほどで打ち切られた:


「なぜ戦略が必要なんだ?ここは大きな市場だから、モートについて心配する必要はない。我々にはブランドがある。Appleが持っているものと同じだ。私たちのスペースプランモデルこそが戦略なんだ。」

目標(スペースプランモデル)を戦略を混同する: ✅

問題にきちんと目を向けていない: ✅

競合を無視する: ✅

良いブランドをモートと考える: ✅ 本には書かれていないが、よくある間違い

自社をアップルと比較する:もはや笑うしかない

悪い戦略ばかりだ!逆にすごい!

悪い戦略を立て、それを戦略と呼ぶことは、全体に悪いイメージを与え、良い戦略を立てるというシンプルで必要な作業から人々を遠ざけてしまう。

良いスタートアップ戦略

Rumeltはこの本の中で戦略のシンプルな定義を述べていないが、もしそうするとしたら、次のようなものだろう:

戦略とは、不確実な状況下で1つ以上の目標を達成するためのハイレベルな計画であり、課題を認識し(診断)、それを克服するための方向性を定め(方針)、その方針を実行するためのステップを細かく決める(首尾一貫した行動)ことによって設計される。

診断、方針、首尾一貫した行動、この3つがカーネル戦略を形成する。カーネル戦略を「When to Dig a Moat」で説明したものと組み合わせることで、アーリーステージのスタートアップにもう少し適したものを考え出すことができる。

スタートアップは、初期段階でモートを持つことは期待されていないが、不確実性のベールがなくなるまでにモートを持つ可能性が最も高くなるような戦略を持つべきである。

戦略を練るのに最適な時期は、会社を立ち上げる前である。

戦略は石ではない。戦略は、事業フェーズが進み新しいファクトを知るにつれて、またスタートアップがエグゼキューションすることによって学ぶにつれて、進化していくものであるべきだ。スタートアップの戦略は、実際には大企業の戦略よりも早く進化するはずだ。なぜなら、スタートアップには不確実性が多く、学習速度が速いからであり、また、スタートアップは必要に応じて軌道修正できるほど機敏だからだ。

何を変えるべきかについて大まかに考える時は、「診断が最も変更が少なく、方針も比較的変更が少なく、そして首尾一貫した行動が新しい情報に最も素早く適応でき変化する。」と思っておこう。それぞれを順番に見ていく。

診断 (Diagnosis)

診断では少なくとも状況に名前をつけたり分類したりし、事実をパターンに結びつけ、ある問題にはより多くの注意を払い、他の問題にはあまり注意を払わないことを提案する。

優れた診断は、スタートアップにとってカーネル戦略の最も重要なピースである。正しく診断することは、最もレバレッジの高いことである。

ファウンダーは皆、起業前に何らかの診断を行う。利用可能なプロダクトや満たされていない顧客ニーズの状況を調査し、より良いソリューションを構築するために利用可能な自分自身の能力とインプットした情報を評価する。

これは、ピッチデッキでは "課題 "と "ソリューション "のスライドとして、投資家との会話では "Why Now?"の答えとして現れる。

兄のDanがCreateを立ち上げたのは、クレアチンに対する一般的な認識と、その効果に関する非常に肯定的な研究結果との間に大きな隔たりがあることに気づき、ブランド力のあるグミは、多くの消費者にとって粉末よりも食べやすい形状であると知り、Away、Parade、Not Boringでの経験が、ブランドを構築するのに適したスキルセットであることを認識したからだ。創業から半年余りで、彼は600万ドルの売上を達成した。良い診断だったようだ。

ほとんどのスタートアップはそこで止まってしまうが、良いスタートアップの診断にはさらに踏み込む必要がある。

まず、スタートアップは自分たちのプロダクト/アイデアが「どのくらいうまくいくことが明白」で、「どれだけつくるのが難しい」かを正直に評価する必要がある。

これは「When to Dig a Moat」で話したことだ。どのくらいで競争に直面し、どのくらいでモートを掘る必要があり、どのくらい深く掘る必要があるかの大まかな目安である、創業時から不確実性のベールに隠れられる時間を見積もる。

不確実性のベールは企業の進捗に左右されるため、時間よりもマイルストーンで考える方が有用である。:「私たちがXを証明する頃には、競合他社が攻めてくる可能性が高い。その時こそ、初期のモートを持つべき時なのだ。」と言ったように。

そして、スタートアップは、Hamilton Helmerが提唱した「7 Powers」のうち、どのモートが対象の市場で利用可能かを考える必要がある。

市場に適したモートを選ぶことは極めて重要だ。

Faireで戦略と分析を担当するDan Hockenmaierはこう言う。:「価値の大半は、防御に適したレーンを選ぶことだ。」

もしあなたが物理的なプロダクトを作っているのであれば、規模の経済を重視するかもしれない。SaaS製品を作るなら、スイッチングコストに注目するだろう。ソーシャルアプリを作るなら、ネットワーク効果に注目するだろう。

ここで歴史を学ぶことは重要だ。楽観主義はファウンダーにとって重要な特性だが、悲観主義に偏った現実主義は、診断に適した心理状態だ。あなたが最初に手を伸ばしたモートは、より深い精査には耐えられないかもしれない。

ソーシャルアプリを例に取ろう。過去1,000のアプリが失敗した理由を理解した上で、自分がネットワーク効果を手に入れられる1人になれると確信を持って言えるようにならなければならない。

マーケットプレイスもそうだ。Hockenmaierは、「マーケットプレイスにとってネットワーク効果は過大評価されている。ネットワーク効果は通常、それだけで防衛力を高めるには十分ではない。シングルサイドネットワーク効果からは多くのことを学びすぎていて、デュアルサイドネットワークの課題は無視している。その代わりに、規模の経済スイッチングコストに注目しよう。」と言っている。

2倍や10倍の規模になることで、桁外れの利益が得られるような、非線形のリターンを持つモートを目指そう。Hockenmaierは、「漸近するのに時間がかかる漸近曲線」を探す。目標は、非線形リターンのおかげで一歩先を行くことができるモートを見つけることだ。

Airbnbは正しい漸近曲線を選んだ。- サプライサイドの増加が高い防御力につながる。Wimduがヨーロッパで対抗しようとしたとき、Airbnbが勝利したのは、その規模が国境を越えたネットワーク効果をもたらしたからだ。Airbnbは、素早く規模を拡大することが重要なビジネスを選び、ベールが剥がれる前に素早く規模を拡大したのだ。

ネットワーク効果、スイッチングコスト、規模の経済を評価する際、漸近するまでに時間がかかる曲線を探すことは、どの業界でも経験則として有効である。:一旦正しい方向に走ってしまえば、競合他社をどこまで出し抜くことができるだろうか?

どの業界に参入するにしても、この時点までの診断で思いつく最高の潜在的なモートがブランドプロセスパワーだとしたら、困ったことになるかもしれない。両者とも、構築には時間がかかるし、構築できたとしても、それは瞬間的なマジックによるものである場合が大半である。

また、競合なきリソース(Cornered resources)を獲得するのも、不可能ではないがトリッキーである。

だから、立ち上げる前に、そして資金を調達する前に、不確実性の窓が閉まる前に、規模の経済、スイッチングコスト、ネットワーク効果、あるいは競合なきリソースを生み出すことができるかどうかを見極める必要がある。

しかし、それでは時間が足りないとしたらどうだろう?すでに競合他社がいる市場に参入する場合はどうだろう?

私の大好きなパワーであるカウンターポジショニングが役に立つかもしれない。カウンターポジショニングは永続的なモートではないが、モートを掘ることができるまでベールに隠れる時間を伸ばすのにとても役に立つ。Rampはコーポレートカードで見事にカウンターポジションを取った。それについてはここここに書いた。

すべてのアイデアに防衛可能な道があるわけではない。それでも構わない。そう言ったことを考えないで何年もかけて、何百万ドルものお金をつぎ込んで、おそらく失敗するとわかっていることにVCの支援を受けて取り組むよりは、2、3週間リサーチとライティングをした後で、アイデアを捨てるか、ブートストラップ (自己資金での経営) を決断したほうがいい。

どのようなゲームでをプレイすることになるのかを知ることも戦略なのだ。

最後に、もしファウンダーが防衛の道を見出したら、正面から取り組むべき最も重要な課題を1つか2つ決める必要がある。

あなたの診断に基づき、あなたの会社が直面している解決可能な最も重大な問題は何か?それを前もって特定し、その解決策を中心に戦略を練る。

これらはビジネスや業界ごとに異なるだろう。Rumeltは「The Crux」の中で、イーロンマスクが火星に人類を送り届けるには打ち上げコストが高すぎることに気づき、手頃な価格で解決するための最も重要な課題を再利用可能性だと特定し、初期のリソースをすべて再利用可能性に投入したことについて語っている。

時には、課題があまりに大きいため、他のことを心配する前に、その解決に全力投球する価値がある。Space XがStarlinkを開発したのは、創業から10年経ってからで、それは超えることのできない規模の経済をもたらした。ロケット開発の不確実性と難易度の高さから、Space Xは十分なスタートを切り、長期的なモートについて早期に心配する必要はなかった。

しかし、多くの場合、すぐに攻撃を開始するために2つの課題を特定することが有用である:

  1. 不確実性(新規性または複雑性)を減らすために証明する必要があるもの。

  2. 防御への道。

これで診断は完了だ。あなたは、競合の状況、Why Now?、不確実性のベールのおおよその期限、それがなくなったときにどのモートをほっている必要があるのか、そして取り組む必要のある2、3の核となる課題を理解している。

たくさんあるように見えるかもしれないが、診断の最後には、あなたは自分のアイデアを健全にチェックし、かなりの複雑さを、克服すべき2、3の課題に単純化したのだ。あとは、その作業を会社の運営方法に関する意思決定に反映させるだけだ。

方針 (Guiding Policy)

方針は、診断によって浮き彫りになった課題を克服するための全体的なアプローチの概要を示す。何をすべきかを正確に定義することなく、一定の方向に行動を導くことから、「方針」と呼ぶ。

優れた方針は、診断から流れ出るものである。つまり、優位性の源泉を創造する、または活用することによって、診断によって特定した課題を克服する方法を見つけ出すのだ。

スタートアップが戦略の代わりに必要だと考えているものの多くは、実は方針に過ぎない。スタートアップの優位性が既存企業よりも速く出荷できることであれば、スピードは方針の一部になり得る。Stripeがスタートアップのデベロッパーと行ったように、既存企業が関心を持つには小さすぎる成長中のニッチをターゲットにし、そのニッチに乗って大成功を収めることができることが強みであれば、他の機会を犠牲にしてでもそのニッチに集中することは、方針の一部となり得る。

スタートアップには、ほとんど強みがない。スピードや集中力といった一般的なものや、ファウンダーが持っている強みと言ったものはあるが、ほとんどの場合、彼らは白紙の状態だ。スタートアップの方針の素晴らしさは、診断結果に基づいてどの強みを伸ばすかを自由に選択できることだ。

6月に紹介したVardaは、防御を視野に入れた診断が方針に反映された美しい例だ。

Delian Asparouhovは、打上げコストの低下により宇宙製造の経済性がうまくいく可能性があることに気づいた後、Vardaを立ち上げた。

彼はこう診断した: Vardaは製造、ペイロードの回収、販売に秀でる必要があった。民間と政府の両方の顧客に焦点を当てることで、優位性を獲得し、規模の経済を発展させることができる。

Vardaの方針は、この診断から直接生まれた:

  • この3つの分野の専門家を招聘した: ペイロードの回収にWill Bruey、製造にAdrian Radocea、営業にEric Laskerを起用した。

  • 経験豊富な人材を採用し、スピードを優先した。

  • フライホイールを始動させるため、国防総省と製薬会社の顧客に焦点を当てた。国防総省のライドシェアは製薬会社のコストを下げる。製薬企業の需要が増えることで、国防総省のライドシェアがより安価になる。価格が下がれば、より多くの量と統合が促進され、さらにコストが削減される。

Vardaの戦略のすばらしさは、すべてのエグゼキューションの焦点が合い、連携していることだ:つまり、誰よりも早く規模を拡大し、コストを下げるのだ。Vardaにはまだモートはないが、事業を運営する過程で行うすべてのことがモートの構築に寄与している。

首尾一貫した行動

戦略とは行動であり、何かをすることである... 戦略の核となる行動は首尾一貫していなければならない。つまり、実施されるリソースアロケーション、 方針、策略には一貫性があり、互いに噛み合っていないといけない。行動の調整は、戦略においてレバレッジや優位性の最も基本的な源泉となる。

どのスタートアップもリソースには限りがある。資金が底をつくまで、多くの資金を使い、多くの人を雇い、多くの行動を起こすことしかできない。

優れた診断と方針は、互いに複利効果を発揮できるように、それらの限られた行動をチャンネル化し、調整する。

優れた戦略は、会社が誰のために何をしたいのかを明確にし、戦略の範囲内で首尾一貫した行動を選択させることで採用した優秀な人材に自律性を与えることで、スタートアップに自由を与え早く動けるようにする。トップが明確な戦略を持つことで、すべてのレベルにおいてより独立した意思決定が可能になる。

ここでようやく、エグゼキューション力が発揮される。エグゼキューションは間違いなくに重要だが、不確実性を取り除くような1つか2つのことに取り組み、不確実性が取り除かれた後のビジネスを守るような方法でおこなわれて初めて、効果的なものになる。

私はエッセイの大半を首尾一貫した行動、つまりスタートアップにとっての複利に相当するという考え方に費やすつもりだったが、書き始めてみると、診断と方針が正しければ、首尾一貫した行動はエグゼキューションの過程で自然と湧き出てくることに気づいた。

そこで、代わりに冒頭で述べたBreatherの戦略がどのようなものだったか紹介しよう。

ブリーザーの優れた戦略

診断

2017年後半、Breatherは10の市場でおよそ400のスペースを運営していたがUberになぞらえて拡大しすぎていた。(スタートアップの戦略は十人十色だ!) 私たちは毎日スペースを追加するという目標を設定し、たとえそれが理想的でないスペースを追加することを意味したとしても、それを実行した。

私たちは、その目標に向けて行動すればするほど、自ら深い穴を開けてしまった!埋まらないスペースが多すぎて、赤字になった。その結果、ネットワーク全体の粗利率は-25%になってしまった。

当時、私たちはアプリを通じて1時間単位から1日単位までの予約しかできないようにしていた。顧客は1ヶ月以上の長期レンタルができないかと尋ねてきたが、私たちはそれはできないと伝えた。WeWorkやKnotelのような資金力のある競合他社は、このような比較的長期の予約に特化しており、私たちは彼らと直接競合したくなかった。

最も難しく、最も儲からないブッキングを行うことで、私たちは独自の強みを得た。オペレーションチームは30分でスペースを回転させることができた。データサイエンスチームは、リアルタイムの需要シグナルに基づき、スペースの価格をダイナミックに決定することができた。当社の設計、建設、立ち上げチームは、大量かつ短期間でのスペース立ち上げに慣れていた。ユーザーはアプリで予約し、オンデマンドで、携帯電話でスペースにアクセスする。彼らはミーティング、ブレスト、作業、イベントなど様々な用途にスペースを使用し、しばしば異なるコンフィギュレーションを必要とした。私たちは社内のバックエンドシステムですべてを調整した。

このような強み、そしてマージンという明確な課題に基づき、私たちはいくつかの核となる課題を特定した。

  1. マージンを改善するためには、スペース在庫をより安定的に埋める必要があった。

  2. WeWorkやKnotelがプライベートなオンデマンドの短時間単位の予約にマーケットを移行するよりも、私たちははるかに簡単にマンスリー予約にマーケットを移行することができた。

  3. 私たちは、スイッチングコストを生み出す時間を稼ぐために、カウンターポジションを取ることができるかもしれない。

このように診断した上で、私たちは方針を打ち出した。

方針

私たちの方針はシンプルで、成長中のスタートアップ企業に、1つのオフィスではなく、ニーズに応じて成長するフレキシブルなスペースのネットワークを提供することだった。そのために、ネットワーク内のすべてのスペースを1時間から1年まで利用できるようにし、需要に応じてリアルタイムで価格を設定した。

もし、あるスペースが時間貸しスペースとして不採算であ れば、マンスリーオフィスとして競合他社より安い価格で利用できるようにした。(スペースをマイナスからブレークイーブンに変えることで、ネットワークのマージンを改善し、近隣の好業績の時間貸しスペースに需要を押し込み、マージンを拡大した。) もし顧客が1ヶ月以上スペースを借りた場合、近隣のスペースのディスカウントを提供することで、常設スペースにかける費用を抑え、重要なミーティングやデリケートな会話、他のマーケットに出張した際の仕事場など、より広いスペースが必要になったときにフレキシブルに対応できるようにした。

各スペースを独立したものとして見るのではなく、ネット ワーク全体をひとつの大きなオフィスとしてとらえ、顧客のニーズにオンデマンドで応えるようにしたのだ。

首尾一貫した行動

実際にそれを実現するのは非常に難しく、チームによる徹底的なエグゼキューションが必要だった。

いくつかの例を挙げると、次のようなことが必要だった:

  • 価格設定モデルを更新し、時間単位と月単位の両方で動的に価格を設定する。

  • BDチームを月単位のスペースを販売するように、また販売時にはデータサイエンスチームの価格設定を信頼するように再トレーニングし、1ヶ月以上の契約を増やすように彼らのノルマを調整する。

  • ウェブサイトとアプリをアップデートし、ライブで価格と利用可否が更新されて、フロントエンドで時間単位と月単位の予約ができるようにする。

  • バックエンドのシステム(Backstage)を時間予約と月予約の両方に対応できるように作り直す。

  • デッドタイムを最小化するため、1日以内に時間制予約と月単位予約を切り替えられるスペースをデザインし、その日のうちにスペースを変えられるよう、ローンチとロジスティクスのプロセスを作り直す。

  • 新しい家具を海外から調達し、その切り替えを容易にするために独自にデザインする。

  • 時間単位の予約と月単位の予約の両方正しく、清掃・メンテナンスできるようにオペレーションチームを再教育する。時間単位の予約の後、スペースは完全にリセットされる必要がある。そこが誰かのオフィスである場合、彼らは清潔であることを望むが、自分のものはきっちりと置きっぱなしにしたいのだ。

  • 不動産チームが新しいスペースを獲得する際に、私たちの価格モデルを活用する。予約の混在とオンデマンドの性質から、私たちは最もリアルタイムの商業不動産価格データを持っていたため、それをスペースの収益を95%以上の精度で予測する引受モデルに活用した。

  • より大きなスペースをリースし、より多くのスペースを近隣に集積することで、月単位の契約をしている顧客が必要なときに異なるタイプのスペースに便利にアクセスできるようにした。

  • アクセスコードの仕組みを変更し、月単位の契約をしている顧客が毎日新しいコードをチームに知らせる必要がないようにした。

  • カスタマーケアチームに、時間単位の顧客と月単位の顧客とで異なる対応ができるようにトレーニングする。

  • 新しい価値提案を反映させるためにマーケティングを修正し、すべてをアプリ内のオンデマンド予約に誘導するのではなく、営業チームのためにリードを創出するようにした。

これらのアクションのひとつひとつが単独で、あるいは競合他社の手に渡ったとしても、大きな効果は得られなかっただろう。全てが一緒になって、勢いのあるマシンを作り上げたのだ。

新しい戦略を実行に移すためにチームが行ったことは他にもたくさんあるが、これでだいたいのことはわかるだろう。戦いの半分は、何をしようとしているのか、なぜしようとしているのかを明確にすること、そしてそれができるのは自分たちだけだということを納得することだった。チームがとった首尾一貫した行動の大半は、Benと私からではなく、チームから生まれたものだった。

その年は、私がBreatherで過ごした6年間で最も爽快な年だった。私たちはとても速く動いた。人々は遅くまでオフィスに残り、ゴングの音が毎月のブッキングを告げるたびに歓声を上げた。

そして、この戦略はうまくいった。私たちのマージンは6ヶ月で-25%から+25%に反転した。WeWorkとKnotelは特に行動を起こさず、私たちは彼らから顧客を奪うことができた。彼らはまだ我々よりはるかに大きかったが、我々はユニークなものを提供した。

残念なことに、この戦略が長期的に防御力を高めるかどうかを見極める機会に恵まれなかった。私たちは2019年に新しい経営陣が加わったときにそれを投げ出し、平凡な月額予約だけに集中した。私たちの戦略が残酷な市場での逆風を克服するのに十分だったかどうか、あるいは競争を続けるのに十分な資金を調達できたかどうかは誰にもわからない。

この戦略を実行し続けていたとしても、Breatherは失敗していたかもしれない。競争が激しい市場であり、競合他社は酔っぱらいの船乗りのように出費を惜しまない。優れた戦略は、たとえ強力な実行力とセットになっていたとしても、成功を保証するものではない。

しかし、優れた戦略のない強いエグゼキューション力は、どこにも辿り着かない道を猛スピードで走るF1カーと同じだ。

戦略を無視してはいけない。「Good Strategy Bad Strategy」、「7 Powers」、「Productive Uncertainty」を読もう。時間をかけて状況を正直に診断し、優れた方針を考え、会社の限られた行動を集中させ、それらが互いに積み重なるようにする。さらに学びながら、リフレッシュし続けよう。パズルを解くことを楽しもう。

スタートアップの経営は、何があろうと難しいものだ。エグゼキューションは難しい。だから、ただエグゼキューションするだけではいけない。コースを描き、優位性を築き、強みを構築する。永続的なものを創るのだ。

戦略は選択に帰結する。最初の選択は、戦略を持つかどうかだ。ファウンダーは、力任せのエグゼキューションだけに賭けることもできる。あるいは、実行と戦略の組み合わせで勝算を高めることもできる。

不確実性がそこに漂っているとき、戦略によって競合他社よりも先に道筋が見えるようになる。成功に必要な時間を与えてくれるかもしれない。


翻訳は以上です。

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