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When to Dig a Moat - モートはいつ掘るべきか?

1年半ぶりのnote!!!(サボりすぎていた)

VCには大きく分けて、ある領域に特化したスペシャリストVCとどんな領域にも幅広く投資をするVCの2種類があります。
これはファームとしてもそうですし、程度の違いはあれどキャピタリスト個人にも当てはまることだと思います。

個人的にはここ半年くらいは、よりジェネラリストっぽいインプットを意識してきました。
Headline Asiaの特徴であるIVS LAUNCHPAD を通じて出会う起業家の方や他にもお話しさせていただく起業家の方々は当たり前ですが、色々な領域で事業をされていて、どの企業も素晴らしいと心から感じる一方、実際にDDや投資をできる数ははるかに少ない中で自分の中の判断軸が弱く課題に感じることが多かったからです。

先日開催したIVS LAUNCHPAD アルムナイ同窓会

そのため、今まで毎日かなり時間を使っていた毎日のニュース/トレンドチェックの時間をかなり減らして、長く読み継がれている本やブログなど、Market、Founder、Moat、Why Now?、Risk、Traction等に関して自分の考えを整理できるようなインプットに時間を割くようにしました。(まだまだ2%くらいしか整理できていない。)

毎朝のこの時間が至福のとき

そんな中でかれこれ3年くらいはチェックしているNot BoringPackyさんが書いているMoatや戦略に関する最近のポスト「When to Dig a Moat」と「In Defense of Strategy」がめちゃくちゃ面白く勉強になりました。

ちなみに「When to Dig a Moat」は小林キヨさん、内藤さん、朝倉さんのポッドキャスト「シリヨロ リターンズ」でもメンションされていました。

Headline Asiaはソフトウェアを中心としたシード~アーリーのスタートアップに投資をしています。PMFが見えてきたシリーズA前後の多くのスタートアップではモートの少なくとも構想が必要になります。
そのため、投資検討においてもそう言った視点が必要ですし、何よりもPMFに向けて全力を注いできた起業家の方が多い中でモートに関するディスカッションが少しでもできればスタートアップにとっても役に立つものだと思いっています。
(後述の記事内にある初期のAirbnbのように競合優位性のスライドにモートになり得ないことしかデックに乗っていないケースは実際とても多い気がします。)

話を戻すとPackyさんは毎週、信じられないほど面白く、めちゃくちゃ濃い内容のブログを書いているヤバい人です。(どこかの投稿にもかなり働いていると書いてあった)
よく(たまに?)自分の引用RTにもリアクションをくれていたので、DMで日本語訳して良いか確認したら即レスでOkしてくれました!ヤバい!

Appreciate your kindness, Packy-san!

1読者に7分で返事をくれたPackyさん。川邊さんの言う通り即レスできる人はすごい

個人的にはMoatに関してはPackyさんのこの2つのブログと、ブログ内でも紹介されていて、多くの有名海外テックVCがおすすめをしている「7 Powers」、日本のVCで読んでいない人をみたことがないDCM原さんのnote「Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論」を押さえておけばおおかた良い気がします。(個人の意見ですw)

それでは今日は1つ目「When to Dig a Moat」を以下で日本語訳します!

原文↓

(誤字脱字、訳ミスがあればご指摘くださいー)


最近、モートの重要性について多くの議論がなされている。スタートアップにモートはあるのか、ないのか。スタートアップにモートは必要なのか、必要でないのか?

私に言わせれば、この議論には深みと奥行きがなく、起業家にとっても投資家にとってもあまり意味がない。今日は、この問題を解決してみたい。

Let’s get to it.

テック業界には、最高に優秀なチームと最高のプロダクト、そして最速の成長さえあれば、つまり人々が欲しがるものを作ってさえいれば、モートのことなど気にする必要はないという考え方がある。

それは完全に間違っている。

最高のプロダクトと最高に優秀な人材を持ち、最速の成長を遂げている企業こそ、まさにモートが最も重要な企業なのだ。

そのような企業だけが、失うものを持つ幸運な企業なのだ。どこかのタイミングで自分たちよりも大きく、より優れたリソースを持つ企業や、より小さく、より速いスピードで成長する企業といつか競合することになる。そして、成功するのが早ければ早いほど、競争に直面するのも早くなる。

成功こそモートの必要性を加速させる。成功が明白になるとすぐに、スタートアップは不確実性という補助輪のようなモートを失い、より永続的なモートの少なくとも基盤部分くらいは必要になる。

多くの企業がすぐに気づくように、今はただfuck aroundする時間がないのだ。

Roger Skaer

ここで基礎を固めるために、モートとは何かについて考えたい?Hamilton Helmerは「7 Powers」の中で、モートを「競争から自社ビジネスのマージンを守るバリア」と定義している。彼は7つのタイプのモートを挙げている: 規模の経済、ネットワーク効果、カウンターポジショニング、スイッチングコスト、ブランド、コーナーリソース(競合なきリソース)、プロセスパワーだ。それぞれの定義と例については、Flo Crivello’sの「Mind the Moat」を参照されたい。

モートがあるからといってプロダクトマーケットフィット(PMF)があると言うわけではない。USVのFred Wilsonが2013年のブログ「Product > Strategy > Business Model」で書いているように、他のことを心配する前に、何よりもまずPMFを追い求めることが必要だ。しかし、PMFを得るまでに、つまり、あなたのビジネスがうまくいくことが明白になるまでに、競争からビジネスを守れるようになっているべきだ。

スタートアップの最終的な目標は、株式を公開するか、およそ10億ドル以上で買収されることであり、他のVCにマークアップされることではない。それには長い時間がかかり、通常は7年から10年かかる。競合他社が気づく前にスタートアップが火をつけたとしても、Exitするまでの何年もの間、その火を守り、灯し続ける必要がある。すべてがうまくいっている企業にとって、モートの有無は素晴らしいIPOをするか、反面教師となるかの分かれ目になりえる。

Puja (確かPackyさんの子ども)と私は 今週末、ネットフリックスで「Tour de France: Unchained」を見ていたのだが、Steve Chainelのセリフがそれをうまく言い表していると思う。

Tour de France: Unchained, Netflix

"石畳でTour de Franceに勝つことはできない......でも、負けることはできる"
(ドラマ見てないのでどう言うことかわからなかったですw 誰か教えてくださいw 今日マイリストに追加しました。)

このモートに関する議論は、OpenAIのAPIの上に構築されたジェネレーティブAI系のスタートアップ(一般的には「GPTラッパー」と呼ばれている)の文脈で、最近何度も出てきた。一方では、GPTラッパーにはモートがないと考えるVCやアームチェア・アナリストがいる。もう一方は、優れたプロダクトを作り素早く成長することこそが最も重要であり、モートは後からやってくると言うビルダーがいる。

金曜日、『The Information』は、ジェネレーティブAI企業2社、JasperとMutiny AIが従業員を解雇すると報じた。特にJasperは急成長を遂げていた。AIのハイプ・サイクルが始まる前の2021年に設立され、今年の売上は7500万ドルに達する勢いだった。昨年10月には、その成長に乗って15億ドルの評価を得た。それから9ヵ月後、競争激化に直面してレイオフを実施している。同社は、急成長しているプロダクトを守るのに十分に深いモートまだ築いていないようだ。創業からまだ2年しか経っていない。それを責めるのは難しい。

何が起こったのか?Jasperは、本物のモートを築く前に、単に不確実性のカバーを使い果たしたのだ。説明しよう。

Jerry Neumannは「Productive Uncertainty」の中で、「新しいスタートアップにとって超過価値を生み出す唯一の堀は不確実性である」と書いている。

Jerry Neumann, Productive Uncertainty

あなたのアイデアがどうみてもうまくいくものであればあるほど、また、それを作るするのが簡単であればあるほど、モートをより早く掘る必要がある。逆に、誰もがうまくいかないと思うアイデアで、作るのが困難であればあるほど、モートを構築するのに時間的な猶予がある。

初期段階であっても、プロダクトにすべての時間を費やすべきか、戦略に時間を費やすべきかは、事業にどれだけの不確実性が存在するかによって決まる。

Neumannは2種類の不確実性を挙げている: 新規性の不確実性(技術的リスク)と複雑性の不確実性(市場リスク)である。新規性の不確実性とは、多くのディープテック企業が直面する不確実性のことである。複雑性の不確実性は、あなたはおそらくそれを作ることができるが、そこに大きくて収益性の高い市場が存在するかどうかの不確実性のことである

新しいスタートアップがモートを掘る時間は、不確実性というベールに包まれている限られた時間しかない。他の企業がそれに気づくまでにモートを掘らなければ、余剰利益は奪い合われ、良い結果を出すのに苦労することになる。

これを数式に置き換えると、次のようになる:

「必要なモートの深さ」 = 「どのくらいアイデアがうまくいくことが明白か」 - 「アイデアを実現させるのがどれだけ難しいか」

この式の変数は、時間の経過とともに変化しうるし、実際に変化する。市場があなたの洞察に追いつき、顧客がその財布であなたの正しさを証明するにつれて、うまくいくことが明白でないアイデアが絶対にうまくいくアイデアになることがある。かつては実現が困難だったものが、インフラが改善されるにつれて実現が容易になることもある。ある会社のコア・テクノロジーが別の会社のAPIになることもある。起業家も投資家も、状況が変われば公式を更新することが重要だ。

この公式は、「偉大な企業はベアマーケットで作られる!」や 「正しいコントラリアン(逆張り)でなければならない 」といったスタートアップの定説を説明するものだ。どちらの場合も、不確実性が高まれば高まるほど、ディフェンシビリティーを作る時間が増える。

「スタートアップはモートの心配をする必要はない」派であれば、TwitterやAirbnbのような成功例を挙げるかもしれないが、そのような例は不確実性の観点からは外れている。

Willsonはブログの中で、PMFを見つけてから戦略に注力し始めた企業の例としてTwitterを挙げている。Twitterが幸運だったのは、人々が使っているときでさえ、最初はおもちゃのように見えたことだ。競合になりそうな企業は、手遅れになるまで人々がランチに何を食べているかを共有するために使うプロダクトを真剣に受け止めなかった。私たちは17年経った今でも、Twitter社が複雑性の不確実性に隠れて築き上げたネットワーク効果の強さを目の当たりにしている。

Airbnbもまた、創業当初は戦略よりもプロダクトにのみ注力していた。

Airbnbのプレシードデッキにある競争優位性のスライドには、6つの製品特徴が挙げられているが、本物のモートはない(ブランドをカウントしている場合は別だが、ブランドが真のモートになるにはかなり時間がが必要)。

Airbnbのプレシードデッキ

にもかかわらず成功できたのには理由があり、それはプロダクトの素晴らしさだけではない。それは、Airbnbがひどいアイデアに思えたからだ!Airbnbは資金調達に本当に苦労した。VCからの拒絶に次ぐ拒絶に直面した。資金調達が簡単であればあるほど、すぐにモートが必要になる。

複雑性の不確実性が、910億ドルの時価総額になるまでAirbnbを守ってきたブランドとネットワーク効果というモートを掘る時間を彼らに与えた。最終的に、Airbnbはこれらのモートを掘るために膨大な時間、資金、労力を費やした。需給のバランスを細かく調整するためにチームを雇い、ディズニーと協力してゲスト・エクスペリエンスのストーリーボードを作成した。しかし、他人のソファーに泊まるためにお金を払う人がいるかどうかという不確実性を考えると、モートのことを心配する前に、プロダクト(ニーズ)の証明に集中したのは正しかった。

これが、VCや評論家たちが、ジェネレーティブAIにモートがないと噛み付いている理由だ。事実上、不確実性はない。

ChatGPTの上に構築することは、新規性の不確実性を殺すことになる。それは誰もが認めるだろう。しかし、多くのジェネレーティブAIプロダクトが初期に大成功を収めたことで、複雑性の不確実性も失われた!もしあなたがジェネレーティブAIプロダクトを開発し、それが軌道に乗り始めたら、他のスタートアップ企業、起業したばかりの企業、単独で事業を展開する企業、そして既存企業など、あなたのユーザーを求めてやまないすべての企業から攻撃を受けることになる。

競争は避けられない。動きの遅い、あるいは技術的に斬新な分野では、プロトモートや顧客ロイヤリティを構築する時間があるため、競争は問題ないかもしれない。ジェネレーティブAIのように動きが速い分野では、競合が現れるまでに十分なモートを掘るチャンスは少ない。

Battery VenturesのBrandon Gleklenは、「Generative AI Companies Have Moats (Eventually)」と題した記事の中で、ジェネレーティブAI企業はモートを心配しなくても大丈夫だと論じている。なぜなら、以前のクラウド企業のように、顧客の声に耳を傾け、ユーザーからのフィードバックに基づいて進化する中で、時間をかけてモート(特にスケール・エコノミー)を築くことができるからだ。

私が言いたいのは、ジェネレーティブAIのように約束されたな分野では、それは当てはまらないということだ。不確実性の下で事業を展開する企業にとって、「Eventually (後で考えればいい)」は贅沢品となる。

もちろん、GPTラッパーからズームアウトすれば、AIで非常うまくいっている結果もある。不確実性が取り除かれた後に身を守るために、不確実性がある時にモートを掘ることの重要性を強調する2つの例がある: Hugging Face and Runwayだ。

Hugging Faceが2016年に設立されたとき、AIが「The Thing(トレンド)」になる前だったが、そのプロダクトは独自のNLPモデルの上に構築されたAIチャットボットだった。翌年、Attention is All You NeedがTransformerアーキテクチャを紹介すると、Hugging FaceのチームはGitHubでTransformersオープンソースライブラリを作成し、オープンソースコミュニティで一躍注目を集めた。

Brandon Reeves, Lux Capital

Hugging Faceは、"機械学習のためのGitHub "となることに全力を注ぎ、オープンソースのモデルやデータセットをホストし、ユーザーがこれらのモデルを構築、訓練、デプロイするためのツールを構築し、開発者のコミュニティを構築した。

Hugging Faceは、AIが当たり前のものになる前の「複雑性の不確実性」の下で運営されていた5年間を利用してモートを掘ったが、その中でも最も強力なモートが「ネットワーク効果」だ。Hugging Faceの売上高は3,000万ドルから5,000万ドルと噂され、40億ドルのバリュエーションで資金調達を行なっている。

Hugging Faceが複雑性の不確実性によって提供される時間をうまく使って強力なモートを築いた例だとすれば、Runwayは、新規性の不確実性のショットクロックが切れる前にモートを掘ることができるか、というライブな状況だ。

Runwayもまた、AIブーム以前の2018年に、"世界初のエンド・ツー・エンドのAI生成プラットフォーム "を構築するために設立された。AIは2018年には動画はおろか画像もほとんど生成できなかった。Lux Capitalから200万ドルの資金を調達した際、資金調達後のバリュエーションは900万ドルと控えめだった。

その間の5年間で、同社は独自の応用研究に基づいて最先端の動画モデルを構築した。最近では、市場最高のGen-2の発売を発表した。

Runwayは6月、Google、Nvidia、Salesforceなどから15億ドルのバリュエーションで1億4100万ドルの資金を調達した。

Runwayが構築したものを作るのがいかに難しいか、そしてそれが可能であることが明らかになったのがごく最近であるという事実のため、今日まで新規性の不確実性(Novelty Uncertainty)によって守られてきた。彼らはまた、先を行くためにプロダクトを急ピッチで出荷してきた。しかし、同社がまだ本当のモートを持っているかどうかは分からない。不確実性がなくなる前に、モートを掘るために迅速に行動すべきだ。

これが、たとえ格好悪くても、スタートアップにとって戦略が重要な理由だ。最もシンプルに言えば、アーリーステージのスタートアップ戦略とは、競合をマジにさせるくらい不確実性を取り除く前に、限られたリソースをモートを掘ることなのだ。

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ずっとdefending strategyに関する記事を書きたかったが、今回は短く簡潔にまとめると自分に誓ったので、別の記事にすることにする。

今のところはっきりしているのは、すべてのスタートアップ企業が初期にモートを必要とするわけではないが、自分たちにとっては成功への道筋が明らかだが、また多くの他の人がそれに気づいていない場合、モートを掘り始める必要があるということだ。いつか明らかに(競合から)攻撃を受ける価値のあるものを手にするという幸運に恵まれれば、モートは重要になる。

掘り始めよ。(Get digging.)


翻訳は以上です。「In Defense of Strategy」もなるはやで書きます!

他にも最近、Headlineが公開したDeepDiveなど書くネタはいくつかあるので、サボらずに定期的に更新したいと思います。。

書くことで思考が整理されるのでインプットだけじゃダメだなと感じてます。

最後に宣伝ですが、既述の通りHeadline Asia ではシード~アーリーのスタートアップを対象に500万円~5億円の出資を行っています。

ファイナンスに動いてる(まだ動いてなくてもokです)起業家の方などいれば@IsamuNsihijimaまでお気軽にDMください〜(多分全員送れる設定になっているはず)

また月末には LAUNCHPAD SEED 23Wを開催します。起業家の参加やサイドイベントへの参加などまだまだ募集中なので奮ってご応募ください〜

次回のIVS2024 LAUNCHPAD (場所と日程はLAUNCHPAD SEED 23Wのどこかで発表予定!)も登壇者募集中です。web内にもあるこちらフォームからお申し込みください!

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