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読書感想文 三体Ⅱ黒暗森林下巻

こんばんは、かなめです。

今日は「三体Ⅱ 黒暗森林 下」(著:劉慈欣 早川書房)の感想文です。ネタバレは自己責任でお願いします。

話題の中国発現代SFです。1巻目の「三体」もばちくそおもしろいので読んでみてね!


はじめに

上巻最後では羅輯(ルオ・ジー/ら・しゅう)が「呪文」を放ち、ウイルス兵器によって強制冬眠、史強(シー・チアン/し・きょう)や章北海(ジャン・ペイハイ/しょう・ほっかい)らも冬眠するという結末でした。

上巻から8年後、冬眠から目覚めた面壁者レイ・ディアスとハインズは要求した技術が完成したことを知らされます。とはいえ智子(ソフォン)のせいでその技術も完全なものではありませんが。

面壁者レイ・ディアス

序盤のクライマックスはレイ・ディアスと破壁人の対決ではないでしょうか。私も破壁人と同じく水爆おじさんだとばかり思っていたのでまさか水星を太陽に落として太陽系をなくしてしまうとは。水爆の戦争での効率の悪さをどう克服するのかと思ってましたが、そうきたか。結局彼はゆりかごシステムという自分が死んだらNY内にある水爆が爆発すると脅し面壁者の任を解かれることとなります。はったりだったけど。最後は愛する自国へ帰ったわけですが、もはや彼は祖国の英雄ではなく人類を滅ぼそうとする反逆者。国民の投石により亡くなります。それでも彼は満足だったんでしょうか。彼は絶命の瞬間も国民のためを思ってたんでしょうか。幸せに逝ったならいいんだけど。

面壁者ハインズ

ハインズは偶然から「精神印章」という一種の洗脳技術を発見します。これはちょっとしてみたい…。水を毒と思い込めるすさまじい技術です。人々に精神印章を授ける施設が開かれ結構な数の軍人が授けられたそうです。しかし再び冬眠から目覚めた危機紀元205年、破壁人、しかも自分の妻との対決により「精神印章」は偶然の産物ではなく、最終目標であることがわかります。しかもハインズは『わたしの面壁計画に関するすべては完全に正しい』という精神印章までしていました。その後妻は自死し、ハインズは人類の勝利の確信に悩まされることになります。たぶん最終決戦まで生き残る人のなかで一番不幸で一番幸せなのかも。負ける前提で計画しているから人類が負けることは彼にとって『真』なはずです。その時の戦況によって精神のジェットコースターが乱高下するのはしんどいだろうな。あと、刻印族(精神印章された人)は生きてると思ってる派です。

面壁者羅輯

さて、冬眠から目覚めた羅輯ですが、彼が目にする未来技術はこれぞSF!って感じでワクワクしました。作中では智子によってAI技術があまり発達していないのですが、現実の私たちは智子などいないのでこれにAIがプラスされると考えたら。待っているのはユートピアでしょうか、ディストピアでしょうか。大史とも合流して街を歩くと、明らかに命狙われてる!コンピューターウイルスで個人識別して殺人とか、AI社会になる現実でもちょっと考えておかないといけない問題ですね。それに木のようになっている地下都市、エヴァンゲリオンみたい。

章北海

章北海も目覚めましたね。宇宙戦艦の室内は球になっている、というのは確かに理にかなっている気がする。宇宙空間の投影とかもSF感あっていいな。あと深海状態と言われるやつってエヴァンゲリオンのLCLと同じような技術かな。それに艦隊が国家として独立しているという世界観も面白い。マクロスの移民船団みたいですね。章北海が乗る戦艦<自然選択>はスターウォーズとかスタートレックとかに出てくる宇宙船っぽいのかな。どっちも見たことないけど。章北海は船長代行になったとたん、逃亡しましたが、彼が逃亡主義だったの見抜けなかったよ。というか、常に正しい選択だけをしているんだろうな。そのときは逃亡が一番正しかっただけで。結果的に水滴の被害から逃れたわけで、責任果たしちゃったから本人はやる気ないだろうけど最終決戦まで生きていたら戦況大きく違ったと思う。あと、水滴の殲滅行動後、でましたね猜疑連鎖。確かに限られた資源、多すぎる人間、帰れないという不安、重なるとそうなるよな。こういうの「方程式もの」っていうんですっけ。ゴドウィンは読んでないけど破断の世界は読んだよ。人類初の星間飛行に挑む<藍色空間>と<青銅時代>は最終決戦でなにか役割を果たすのか、敵となるのか味方となるのか。

水滴

「水滴」は印象的でした。フィギュアほしい。あと2001年宇宙の旅のモノリスの話出てきたの嬉しい。反射率100%で傷一つつかない強い相互作用で物理法則無視の変態機動とか、最強じゃん。三体世界すげえ。エヴァのラミエル並みの人気ある気がする。人類が大峡谷や技術爆発を経て「三体世界とか敵じゃないわ~」と舐めプしているのを絶望のどん底に叩き落す展開とか、ほんと面白い。冬眠人は三体の絶望を知ってるから対応が早いというのもリアルな気がするな。水滴の被害を逃れた趙鑫や李維が3巻でもなにか役割を持っているんでしょうか。気になる。

水滴によって甚大な被害と深い絶望に陥った人類。しかも羅輯を再び救世主に祀り上げ、人類の直接の復活になにも寄与していないとなると見捨てたり。人類、人間って身勝手だなと思います。身勝手だからこそ生まれた文明とか技術とかあると思うんだけど、神ではなく望んでいないただの人間に背負わすってどうかしてますよね。読者としては上巻で羅輯は真実へ近づいたからこの人の行動は無駄じゃない、と分かるわけですが。それに気づいていたのは大史やハインズだけですかね。いや、わかったらダメなのか。面壁者は常に孤独。

面壁者羅輯、再び

大史に宇宙社会学を説くことで葉文潔が残した宇宙の公理が解き明かされましたね。私はいまだ完全に理解できてません。黒暗森林という副題の意味がここに繋がっていたとは。暗い森にいれば誰もが狩人、そして獲物。同じ地球にいても分かり合えないのに、同じ星にいない生物が分かり合うなんて不可能に近いよな。人類はボイジャーのゴールデンレコードとか打ち出しちゃってるけどそれってめっちゃアホなんですかね。この宇宙社会学の公理は現実にも通用するんですかね。

物語の最後、救世主からペテン師へと世間の評価が変わってしまった羅輯。しかし一見意味のないと思われた斑雪計画を使い再び呪文を完成させる、しかも三体世界を滅ぼす呪文を。この展開めっちゃ熱い。葉文潔の墓へ向かう彼の姿は建築家ガウディの最期を思い出させました。

ガウディはサグラダ・ファミリア教会堂の完成に生涯を捧げましたが、路面電車に轢かれて大けがを負います。彼は見た目が浮浪者のようだったのでガウディだとわかってもらえず、十分な治療を受ける前に亡くなっています。

そして三体世界との交渉。三体世界がスラスター調整を無視したりETO見捨てたりゆりかごシステムを軽視したりちょっとご都合展開じゃない?って思ったりもしましたが、人類と三体世界が対等?な交渉ができるようになってよかったです。羅輯はすごい人でしたね、性格はよくないと思いますけど。これは51年前、羅輯の呪文に応えた第3の勢力と地球&三体世界の戦いになるんでしょうか。三体世界が羅輯の死を止めたということは、三体世界にとっても呪文は脅威という訳ですよね。

上巻を読み終わったとき、「1巻ってプロローグだったのか!」となりましたが下巻を読んで「2巻でさえも最終決戦のプロローグでしかない、しかも最終決戦の意味も変わる可能性があるのか!」と思いました。回収要素もたくさんある。これは壮大な物語ですね。果たしてどんな終わりを迎えるのか、人類の行方やいかに!次が楽しみ!

それでは、よい1日を。

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