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I wish upon a studio 〜スタジオに願いを

英語で I wish〜て言う時って、大概「〜だったらよかったのに」的な、その願いが叶わない事前提で使いますよね…。叶わないから願う。

ディズニー100周年作品でやらかしたと評判の「WISH」見ましたよ。ふむ、なるほど確かにこれはちとキツい。別に出来が悪い作品って事はないし、ポリコレ云々も言う程酷くないのに、なんでこんな事になってんのか。正直つまらん。「見た事ある感」のオンパレードなのは、過去作オマージュ満載だからという理由だけじゃない気がします。オリジナリティも、惹きつけられるシーンもキャラもエピソードもいっこもない。いつも通りのハイクオリティで作られてるのに、このスカスカ感とちぐはぐ感。

僕はディズニーは好きですが、とりわけディズニーファンて事もないです。ディズニーランドも特別好きではない。メジャーどころはほぼ見てるし、アニメーションとしては本当にすごいといつも思っています。単純に、世界観や過剰演技が僕の嗜好と合わないだけです。まあ一番好きなのをあげるとしたらモアナかな。でもやっぱりピクサーの方が好きです。にわかです。


ポリコレ問題

さて最近はディズニーの代名詞ともなりつつあるポリコレ問題。人種・LGBT・障がい者などのマイノリティをフェアに。これは基本的には素晴らしい姿勢です。黒人キッズだってアジアキッズだって、自らを投影できるリプレゼンティブがいれば嬉しいに決まってます。人種で言うと、例えば「日本人」だって世界で見れば100人に1 人のマイノリティな訳で、「マイノリティなんて無視してオッケー」な世界になるとエライ事になります。今や白人もマイノリティになりつつあるし、人が10人集まれば一人くらいは有色人種やLGBTや障がいのどれかしらに該当するくらいの比率なので、作品に登場する事自体はまったく変ではありません(日本は単民族国家なので実感しづらいかもですが)。

ただ、既存キャラ改変はやはり無理があるし、作品世界観の必然性を壊す結果になります。同時に、それはこれまでに救ってきたキッズを裏切る行為でもあります。反ルッキズム的な「人にはそれぞれの美しさがある」というのも崇高な思想だし、「ステレオタイプに流されるな」もそれはそうだと思います。でも「美形を排除して、ブサイクを美しいと思え」は単純に不自然だし不可能です。花鳥風月美人画というのが美しさのテンプレだし、それは人間の本能的な部分なので、それを否定するのは無理があります。実際「ルックスがいいだけでインフルエンサーになれる」というのが人類史で証明されてきた現実でもあります。結局問題は「絶世の美男美女ではないが最高に魅力的」という抽象キャラクターを創造できていないという事です。安易な便乗セルフレイプ方向に流れず、頑張って良質な新規IPをどんどん生み出して欲しいものです。

WISHにおいてのポリコレの扱いも、特に不備は無いながらも、やはり「不必然」で「説得力に欠く」印象が真っ先に来てしまいます。「最強のヴィラン」として紹介されたマグニフィコとか、すげー微妙でした。何故かラテン系ハンサム設定で、モブに「ハンサムなんてロクなもんじゃない」とか言わせたり、元はいい人だったのに最後まで全く救われないし、制作側の拗らせ感がハンパない。「人の願いを叶える」という最強の能力を持ちながら、それを主観ジャッジで選別する。闇堕ちして独裁的になり、人々の支持を失っていく。えっこれディズニーの自虐ギャグ?とか思いました。

そのディズニー闇落ちの主犯と名高いのが、まさに真の最凶ヴィラン大魔女キャスリーンです。ラスアスの魔女の上位種。プリンセスもヒーローもジェダイも、全部彼女の魔法に落ちました。そんな彼女の祖国、ポリコレの始祖と言えるのが19世紀発のフェミニズムであり、そんじょそこらの活動団体とは歴史も規模も桁が違います。不当に差別・抑圧された人々のリベラル解放運動。それは人種やセクシャルマイノリティをも吸収してどんどん巨大化し、多くの偏見や差別、ハラスメントを是正して、現代社会形成に多大な影響を及ぼしてきました。

一方で、その活動は往々にしてエクストリーム・レフトに陥りがちな面もあります。弱者救済系ビジネスはいつも志高く始まりますが、扱いを間違えればカルト化の危険性もはらんでいます。まさにマグニフィコ。「誰かを救うために、別の誰かを不幸にしてよい」というダブスタロジックは本末転倒です。もちろん、マイノリティが人々に振り向いてもらうためには多少過激にならざるを得ない側面はあるし、それによる功績もあるので、一概に悪だと言いたい訳ではないですが、できればみんなハッピーWinWinな方向性で活動してもらった方が、結果としては目標達成は早いと個人的には思います。

ビジネス・ウェルメイド

言わずもがなですが、ディズニーはビッグビジネスです。出資を受け巨大バジェットを投入し、株主の意向に添い、マーケティングリサーチとデータアナリティクスを駆使して、全方位配慮と目配せで隙無く不備無く鉄板のコンテンツを作成・供給する。いわゆるウェルメイド・コンテンツ。それはメソッド・方法論であり、積み重ねてきたハックの結晶です。時勢を読み、ノイズや難解さを取り除き、より多くのオーディエンスに訴求できる洗練された商品。メディアミックスも含めたその目的は、世界マーケットからの巨大なリターン、つまり「儲け」です。

徹底した合理化・洗練化による黄金率のパターン化。ウェルメイドは商品自体のクオリティを上げ、マーケティングや配給などの構造的なハックも促進して、一時代を築き上げました。しかし、ウェルメイドが当たり前になると、今度はそれが問題になってしまいます。何をテーマにしようが、方法論で作るため全て同じになるという事です。ストーリーもビジュアルもゴージャスなのに、既視感ばかりで先が読め読めの予定調和。みんなを満足させるために全部盛りにして、みんなに刺さるように合理的に作った結果、誰にも刺さらない。ウェルメイドであるが故に、本来の目的である「儲け」に到達できない時代になってきています。ままならんもんですねー。

ポスト・ビジネス・ウェルメイド

世界初の株式会社「インド株式会社」に始まった出資ビジネスは、リソース選択集中を促し、莫大な儲けを生み出してマーケットを成長させてきました。日本アニメにおいても、ジブリが始めたと言われる「製作委員会方式」による出資モデルで、アニメは大躍進を遂げました。と同時に、出資者達の口出しと中抜き、方法論による無個性化という、ウェルメイドが抱える構造的な問題も露呈し始めています。

金は出しても口出すな」は大昔から言われてます。ド素人の出資者が作品制作に口出して、妙な展開を無理やりねじ込んだところで、作品を壊すだけで、結果自らの配当も失うというこの定説。いつまでたっても人間は学習する事ができません。(僕のクライアントにも割とこういう人たちいます)奇しくもジブリやカラーは委員会方式を抜け、自主制作に切り替えて、スポンサーやマーケティングに左右されない制作体制に移行ました。昨今Netflixなどからの直接出資による制作方式も増えています。こういう動きを見ていると、予算調達や作品制作の構造も、どんどん変化しているのを感じます。

僕が仕事してるゲーム・出版業界においても、こういう変化はひしひしと感じます。最近では莫大なバジェットを確保せずとも高クオリティなコンテンツが作れてしまう環境が整ってきています。加えて、クラウドファンディング等で直接出資を募るプリオーダースタイルも一般化しつつあり、マーケティングもSNSメディアとインフルエンサー経由。つまりは大スポンサーを持たないインディーコンテンツがマスマーケットで戦える力を持ち始めたという事です。これらのモダンでエッジーなコンテンツ群と、同じ土俵でパイを奪い合わなければならないディズニーは、巨体である分むしろ過酷であるとも言えます。リソース配分が変化した世界で、オールドメディアの恐竜たちはどう生き残るか。かつて世界を席巻しトレンドをリードした雑誌やテレビは、既に虫の息です。

かつてのウォルトディズニー然り、作品というのは本来作家によって作られるものです。方法論や職人芸を寄せ集めれば高品質なものは作れますが、そこには作家特有の思想や歪み偏りはありません。均質で良質な大量生産プロダクトは、むしろAI生成物に似ています。それはそれで価値はありますが、「個性」「感動」「斬新さ」「面白さ」みたいな「娯楽芸術作品」を求めた場合、対極的な結果をもたらします。

逆にスポンサーを排したシン・エヴァや君どう、低バジェットでウェルメイドを狙った(けどかなり歪な)マイゴジみたいな、作家性の強い偏ったコンテンツが、ウェルメイド作品群の中で輝きを増してしまうのは現代の皮肉ですね。資本主義筆頭アメリカンコンテンツは、既存IPを擦り続ける風潮が強いですが、ディズニーもバジェット分散して尖った新IP乱発した方が、新時代においては大当たりを引き易いのかもしれません。ジャンプメソッド。

産業革命以来の資本主義・大量生産大量消費に飽きてきた、という、どうにも贅沢な不満ですが、やはり消費者や市場の実態の変化に旧式構造が追いつけていないという印象を、そこかしこで感じてしまいます。

ディズニー新世紀

ディズニースタジオ100年の栄華と没落、その魔法はアーシャという(あんまり主体性のない)新世代に受け継がれ、そして次の100年に臨む。メタ的には「WISH」って実はよくできた作品なのかもしれません。冒頭で述べた「〜だったらよかったのに」で終わらない事を切に「願い」ます。

ディズニールネサンスの全キャラ勢揃い9分ショートフィルム「Once upon a studio」は普通に良かったのでお勧めです。ブレイクダウン解説(日本語版)と合わせてどうぞ。


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追記:
これを書いてる隣で「セクシー田中さん」騒動が燃えまくってて、どうにも滅入ってしまいます。生み出す人が蔑ろにされ、目先の儲けのために食い散らかされていく。ディズニーみたいな志やウェルメイドですらない、ビジネス屋の小利益のために、才能ある作家が殺される。もう恥ずかしくて「コンテンツ大国日本」とか言えませんね。ただ、ジャニーズや吉本、出版やテレビ局など、旧世界の恐竜達が、いまだに勘違いしたまま調子乗ったムーブした挙句、ボコボコにされてガラガラ崩れ落ちていくのを見るに、やはり時代の変遷期なんだなあと感じるこの頃。







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