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おじさんのコミュニオン

9歳の甥っ子がコミュニオンを迎えました。バプティズム(洗礼)→コミュニオン(初聖体)→コンファメーション(堅信)の2つ目、日本でいう七五三的な通過儀礼ですが、クリスチャンにとっては後の社会活動に影響する面もあり、少しだけ重要な祝い事です。

そういった通過儀礼には親類各世代が集まって祝います。そんな機会でのお約束、「お前もまだまだヒヨッ子だな」とか「俺の若い頃は」とか、僕もこれまで先輩方から散々聞かされて来ましたが、ぼちぼち僕自身そういうウザい事言い出す年代になりつつあります。まあそれもまた通過儀礼の一部という事で、敢えてやってみようと思います

40代という人生のステージ

孔子さん曰く「30にして立ち、40にして迷わず、50にして天命を知る」という事らしいですが、40代になった僕はまだ結構迷ってますね…。でもまあなんとなく言わんとする事は理解できるようになりました。

20代というのはもうとにかく冒険と学習のステージです。巣離れ親離れして初めて自分ひとりで世界を探検し、失敗したり怪我したりしながら効率的な狩りを覚え、つがいを探します。当時自分では色々考えてるつもりではいましたが、今思えば頭カラッポの野生動物でした。とにかく自意識過剰、色々やらかして黒歴史も量産しました。

30代というのは自立ステージです。世界の成り立ちや、大まかな自分の個性や能力がわかってきて、好き嫌いも定まってきます。学習や挑戦は続きますが、無謀な冒険などは段々不要になってきます。

そして40代。

「健康」

体はまだまだ動きますが、以前と比べれば歴然とした衰退を感じるのは事実です。白髪とか、変な毛が変なとこから生えたりとか、異様に長い眉毛が発見されたりとか。目やら歯やら内臓やら、細々とした健康トラブルが散発し始めます。徹夜飲みとかもう無理だし、重い食事も苦手になってきます。完全にガタが来始めてますね。先輩方から聞いてた通りです。

「仕事」

一通りの経験や実績を経て管理職的ポジション、もしくは独立などの転期ともなります。キャリア的には最も脂が乗る時期ともなり得ますが、心労の重なる時期でもあります。

「家族・友人」

親は70代となり、子供がいればティーンズ突入で、込み入った案件も増えてきます。同年代で突然大病する知人がチラホラ現れ始めます。

そんな40代は、肉体的にも精神的にも大変ではありつつ味わい深くもある、いわば成熟のステージというやつです。風立ちぬ風に言えば「クリエイティブの10年」、作家が代表作を生み出す時期です。ちなみに「厄年なんて迷信だ」という人もいますが、おそらくあれは「そのタイミングでトラブル起きがち」という経験則統計による集合知なんだと思います。

さて果たして50代で天命を知ることはできるのか。もしくはただのウザい老害となり果てるのか。

折り返し地点

例えば江戸時代の平均寿命は50歳前後だったと言われています。15で元服、20前後で子供を作って、35で子育て終了、みんなが孫の元服を見られる訳ではなかったと。

そんな中60まで生きれば干支5周の「還暦」で赤ちゃんちゃんこ、70まで生きれば「古希」で希なるものとして仙人クラスの長老でした。北斎なんかは「画狂老人卍」とかいうイカした名前に改名して80過ぎても現役で描いてたと言いますから、当時としてはほぼ妖怪です

今や人生100年時代と言われますが、とはいえ現役実働時間は20〜70歳の50年間といったところです。=18,250日です。例えば1日24時間の内、睡眠と生活を除いた8時間程度が学習&生産の時間だとすると、146,000時間が人生の全持ち時間です。

どんな金持ちや権力者だろうとこれを増やす事はできません。昔からアニメの悪役は決まって「不老不死」を欲していましたし、現在でもプーチンとかが永久帝王を目指して頑張ってますが、今のところこの持ち時間は絶対です。

殆どの人はその持ち時間を「生活費を稼ぐための労働」に消費する訳ですが、この持ち時間をどう使って、より多くの幸せポイントを稼ぐか、というのがこの人生ゲームのミッションな訳です。例えば全時間をソシャゲに費やしたって、それが幸せならミッション達成です。

40代という世代は、この持ち時間を半分使ってしまった状態、折り返し地点という事になります。そしてそこからは人生後半戦、「残り時間」という思考にスイッチします。それに伴いプライオリティの再編成が起こります。自分にとって本当の幸せとは何なのか。この歳になって尚、中二的宮沢賢治です。

おじさんのコミュニオン

自分のやりたい事やりたくない事、出来る事出来ない事、必要なもの不要なもの。肉体的には衰退期にあるとはいえ、知識経験や技術資産があり、思考の成熟はより深まっていきます。これらを踏まえて、残り時間で何が成せるかを逆算します。

そういった、自身のキャリアや健康問題、配偶者や子供への責任、親の老化、様々な状況の複合で引き起こされる現象、それがいわゆる「中年の危機」のメカニズムです。オサレに言うとミドルエイジクライシスです。やたらみんな脱サラして蕎麦打ち始めちゃいがち。僕の父親も50前後で脱サラして飲食店を始めました。むしろ終身雇用なんて考え方が異常だったと思われ始めた今日この頃。

パンデミックでは、40代に限らずこのクライシスな心境に強制的に放り込まれた人も多いんじゃないでしょうか。コロナ感染&重症化で2週間後に死んじゃうかも。死ななくても、世界中がグダグダになっちゃうかも。だとしたら、今こんな大して好きでもない仕事続けてる場合じゃねえ。自分にとって何が一番大切なのか。何が幸せなのか。ずっとやりたかった事やっとかなきゃ。「いつかできる時がきたら」ってそんな時などやって来ない。掴みに行かなければ死ぬまでずっとそのままです。

これまで特に深く考えもせず、ただなんとなく好きなように生きてきたのが、初めて自分の人生に真摯に向き合い、本当のオトナの仲間入りをします。

それはおじさんにとってのコミュニオンなのです。


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いつの世も、アーティストという職業はファンやパトロンのサポートがなければ食っていけない茨道〜✨