Standalone Complex 2024

22年前?!?!　マジで?!?!　

攻殻機動隊 S.A.Cから22年、作中で「笑い男事件」が起こる2024年2月になったって事で、公式が色々仕掛けてるっぽいです。Youtube公開された総集編を久々に見たら、なんかすげー懐かしくなりました。つか22年って俄かに信じ難いんだが（狼狽）。それにしても今見ても本当に良くできた作品です。懐古フィルター抜きにしても、脚本も作画演出もズバ抜けてる。なろう系に埋め尽くされた昨今のアニメではもはや太刀打ちできない完成度です。ちゃんとしっかりサイエンス＆ポリティカル・フィクションやってます。こういう作品、もう長らく見てないなあ。クリシェなウンチクとか、中二的インテリ感の気恥ずかしさもまた良い。2ndGigもS.S.Sも良いけど、やはり笑い男の青臭さはとても良い（しかし2045オメーはダメだ）。

S.A.C 2002

そっかー2024年か。結局電脳もインターセプターもタチコマも全然できてねーなあ。22年前の2002年に夢見てた未来像には、てんで追いつけませんでしたね。当時ってスマホ出現前だよね。ネットはあったけどガラケー時代。2chとかが今のX的ポジションでしたね。その環境下でこの未来社会科学現象のストーリーを書くってすげーな。もちろん1989年の士郎原作→1995年の押井解釈あっての神山S.A.Cだけど、時代感の解像度は上がってて、早過ぎこそあれ全く大外ししてる訳でもありません。ついこないだ、イーロンマスクの会社が「脳にチップ入れる手術した」とか言ってたし、最近はAppleVisionお試し動画が賑わってますね。

スタンドアローン・コンプレックスって直訳すると「独立個体群で形成される複雑系」って事で、実際「並列化と模倣により、独立した個々が生み出す集合的行動現象」って、今現在もフツーに起こってますよね。

ネタ投下や燃料投入する人はあれ、誰かが先頭に立ってリードする訳でもないのに、個々の反応の集合が「流れ」を作り「空気」や「世論」を形成していく。インプレ乞食がネタに飛びつき拡散、模倣者が続出して、全体が並列化、無個性化していく。気付けば集団全体が統率されてるかのような動きを見せる。ハイデガーさんの大嫌いな「同調＆没個性」です。

22年前にもS.A.C現象はありましたが、もっぱら2chとかの一部のギークが集まる場所だけでした。当時の一般的なソーシャルメディアは、Mixiとかの身内のみでの馴れ合いが殆どで、「顔出し」とか「拡散」なんて絶対NGみたいなのが普通の感覚でしたね。まだテレビ洗脳による並列化が圧倒的に強かった時代。閉じたローカルネットワーク群の集合体だったネットにおいて、2ch民だけがステマ祭りとかやってました。

そしてスマホ登場。インスタなんかの「リア充全世界拡散」が当たり前になり始め、インプレ稼ぎ加速、承認欲求急拡大。ヤフコメやツイッターはどんどん2ch化、その拡散力の高さから「炎上」という祭文化も継承していきました。参入者が増えると低リテラシーユーザーの比率も上がり、やらかし拡散炎上によるバカ発見器・バカッターと称されたりもしました。「ねらー」から「ついったらー」へ。若き日のひろゆきも当時から「嘘を嘘と見抜ける人じゃないと」って言ってたのに、結局誰も学習しませんでしたね。

有象無象のルサンチマンが発言権を得た結果、ソース至上主義やガチ勢識者の声はかき消され、脊髄反射の感情論とマウンティングが大波のうねりとなって、権威を次々引きずり下ろしては首を刎ねる、フランス革命みたいな様相を呈してきてます。ケーキを食べればいいじゃないとか言いつつ昭和の圧倒的栄華を誇った、ジャニも吉本も血祭り晒し首に処されました。打倒権威主義は悪い事ではないですが、民度が低い社会の民主主義は権威主義以下の悪夢ともなりえます。

今にして思えば「アノニマス」「トランプ現象」「ブレグジット」「ネットリンチ＆処刑」「私的逮捕」あれもこれも全部S.A.C現象ですよね。

S.A.C 2024

「IT革命」って情報技術革命の事で、たぶんWindows登場頃からDX的な意味で言われ始めた古代語ですが、実はSNSが情報革命の真打だったんですね。個人端末とビッグデータが常時接続した、ブロックチェーンも真っ青のスタンドアローンネットワーク。並列化も爆速化で捗る捗る。

情報情報言うてますが、そもそもを言えば「生命」自体「塩基配列」とその「自己保存」という情報機構です。細胞間で伝達物質をやりとりして情報交換し、神経細胞で情報を伝達します。その神経複合器官である脳で、より高度の情報を処理します。五感の感覚も、それらから得られる外部世界環境も全て情報です。この宇宙全体が情報であるとかいう超理論まであります。そんな情報世界における情報革命は、最適化＝進化ともいえる重大なアップデートイベントです。

そんな情報生命体な僕らが扱う情報の中で、「ゴシップ」は生物として最重要情報だと言われます。猿だった頃から、周囲の情報を交換する事で生存を有利にしてきました。「人間の脳が発達したのは、社会性という複雑系の情報処理に対応するため」という説もあります。更に情報を外部保存し伝達する事により、知識や技術の継承・蓄積・更新が可能になりました。情報を扱う事で、人間は現代社会という巨大な巣を築き上げるに至った訳です。情報超重要。

で、そんなところに更に革命ですよ。情報流通の量、速度ともに、これまでの人類史では考えられないレベルの情報爆発。これまでは神経細胞だけがちまちま情報処理を行なっていたところに、全細胞に光ファイバーぶちこんだようなものです。筋細胞も脂肪細胞もみんな一斉に情報処理開始。そんな細胞群生命体が今まで通りでいられる訳がないのです。

あらゆる外部刺激に脊髄反応し、免疫反応を起こし、それがアレルギー炎症反応を起こす。情報拡散、特定検証班〇〇ケーサツ総出動で大炎上、って集団ヒステリー症状が毎日起こっています。他者比較によって本来不要なストレス成分も放出しまくってメンタルもガタガタ。早めに対応処置していかないと、マジでアナフィラキシー起きそうです。もうずっと情報処理能力キャパオーバー。

S.A.C 2030

一方、AI＋ロボットの未来・タチコマ。今見てもラスト泣けます。作中では「並列化によって無個性化する社会」の対比として「完全並列から生まれた存在が、好奇心により個性を獲得する」という上手い描かれ方でした。果たしてそこに意識（ゴースト）は宿ったのか？

現実世界の2023年はAI飛躍の年でしたが、自立型AIとは違う方向で前進しました。近似ベクトル予測による自然言語生成を獲得、その応用でコンテンツ生成能力獲得って感じで、まあまだまだ全然ではありますが、それもタチコマに至る大事な一歩。生成AIにもチューニング次第で既に性格みたいなものが生まれていますしね。自動運転技術も22年前からすれば格段に進歩してるので、このまま階層式マルチモーダルとかが進めば、フチコマ試作機くらいはもうすぐできそうです。

ただ、そろそろ機械学習の限界みたいな事も言われ始めてて、トランスフォーマーではシンギュラリティには到達できないっぽい雰囲気なので、もうひとつふたつ、予想外の方面から新アーキテクト・アルゴリズムに登場してもらう必要がありそうです。ケインズ予言の2030年、3時間労働の未来はやってくるのか。

S.A.C 2045

そして来たるカーツワイル予言の2045年。ネトフリのS.A.C.2045シリーズも見たけどあんまり憶えてない…。なんかガッカリしたのだけ憶えてます。神山さんあんまり絡んでなかったような。キャラデザも苦手な部類だし、インテリギークというよりヒャッハーなマッドマックス風というか、マトリックス風というか、大味アメリカンで全体的に薄っすーい印象。

ところで急に変な話ですが、「蟻は巣が本体である」って話があります。蟻とか蜂には女王がいますが、別に王権統治してる訳じゃありません。あれは巣という本体における「卵巣」「子宮」にあたるものだと。女王が誕生すると、フェロモン信号によって、他のメスが全て不妊モードになって、働き蟻になります。遺伝子情報は女王とクローン共有なので、別に自分が産む必要はないのだと。働きアリは血球細胞的ポジションになって、栄養を運んだり、異物を排除したりします。軍隊蟻は消化器や免疫細胞的ポジション。蜜壺蟻のように栄養を蓄える脂肪細胞もいます。オス蟻は繁殖期まで待機している精子細胞です。古くなると廃棄処分になります（涙）。そしてこれらは全て化学物質のやりとりと遺伝子スイッチで統率されます。

細胞群で構成された蟻が、また更なる群を構成して統率的に動くというフラクタル構造。と考えればですよ、同じ社会性生物である人間も、実は無意識下でシステム統率されている可能性もなくはない。何が言いたいのかというと、つまりS.A.Cって結構根源的な生命活動かもしれないって事です。僕たちはすぐ「人間には固有の知性と自我がある」「意識的に理解し決定できる」「個別に独立した賢くて特別な生物」とか思いたがる自意識過剰の実存猿な訳ですが、実際は蟻と同じレベルの、基本設計に逆らえないただのバイオマシンに過ぎない可能性。ゴーストとかクオリアなんて結局「情報の瞬間的結節」でしかないという、最近流行りの「自由意志など存在しない説」ですね。みんな大好きユングの集合的無意識とか、阿頼耶識的なスピってる感じもありつつ、量子物理的自然現象にも思えます。

だとしたら、もしやAIにも別に意識なんて生まれる必要はなく、情報の並列化と模倣＋好奇心による個性獲得で、普通に「情報知性体」的な何かに到達してしまうのかもしれません。「私は情報の結節点としての生命体」とか言ってたG.I.T.Sの人形使い爆誕は2029年、あと5年しかないですが、意外とアッサリ起こっちゃったりするのかも。

みんな繋がってるのにスタンドアローン。で承認欲求拗らせたり、孤独に苛まれたり、求めて拒絶して、コンプレックスってのは果てしないっすね。逃げちゃダメだのあの子みたいです。いやーしかし、やっぱオタクが攻殻とか語りだして妄想始めると、我ながらもう最高にウザいですねー。

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