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スナックブームと安全基地

スナックバス江」見てます?僕はアニメから入った新参ですが、おもろいですね。パッとしないママとチーママ、とことんイケてない地元の常連客達が織りなす、なんともくだらなく愛しい世界。それがスナックです。

昭和丸出し、いずれ滅びゆく文化かと思いきや、なんと昨今、なにやらスナック再評価の流れが来てて、一部界隈でブームが始まってる模様。こういう漫画アニメがヤンジャン系列で展開されてるだけでもなかなか異質ですが、このスナック文化、実はかなり日本独特って事で、外国人の注目も集めてるようです。最初の日本旅行で味を占めた訪問客が、よりディープな日本文化体験を求めてインバウンド加速してるみたいです。アニメやTiktok・Youtubeで紹介されようもんなら、一気に観光化する最近の流れ。ただ、一見さんNG・通ってなんぼの文化なので、観光化はなかなか難しそうだけど。


スナック文化

いわゆるスナック・バーってのは、まあ「軽飲食できる場所」って感じで世界中にあります。でも日本のスナックの形態はかなり特殊です。芸者遊郭とかキャバクラとかの親戚ではありつつ風俗店ではない、個人経営飲み屋のホスピタリティという絶妙な形態。若干似たような形態の店を韓国台湾で見た事がありますが、それも屋台文化もしくは日本統治時代の名残程度で、文化として根付いたものでは無いようです。日本独特

60年代、東京オリンピックを前に、夜の街でバー規制が入ったとかで、それをすり抜けるために、カウンターに軽食(スナック)を置いて「ウチは飲食店ですよ」とやり始めたのが、日本型スナック・バーの起源だそうです。なので、今でもガッツリお通し出してくるスナックは多い。70年代に登場したカラオケマシンが合流して、現在のスナック形態が完成したみたいです。

僕自身はロンドン在住なので、行きつけのスナックなんてあるはずもなく、スナック常連ではないですが、東京にいた頃は、西荻・吉祥寺界隈に馴染みの飲み屋がありましたね。僕の両親は2人共酒飲みで、地元広島でお気に入りのスナックや飲み屋をいくつか持ってて、ちょいちょい通ってました。僕も幼い頃から時々乱入したりとか。まあ広島ではお好み焼き屋もこういうローカル文化を担っていて、ここロンドンでは、強いて言えば地元パブとかカフェ文化が近いかな。マスターとも顔パスで、時にビジネスを超えたプライベートでの付き合いも発生しうる、ユルいローカルコミュニティ感

サードプレース

訳アリのママの元に訳アリの客が集う。みんな脛に傷ある不完全な者同士、それを踏まえた上での適切な距離感と繋がり。スナックはオトナのコミュニティです。若くて陽キャでクラブパーティアニマルウェーイな人達には、まだあんまり必要じゃないのかも。公私の間、仕事と家の中間にある第三のコミュニティ。擬似家族的な繋がりで、シンママだったり高齢の喪男喪女だったり、帰属先を求める人たちの受け皿としての役割も果たしてきました。どんなコミュ障だろうが、あらゆるダイバーシティを受け入れちゃう深い懐、福祉セーフティネット的側面がスナックにはあるのです。それぞれのお気に入り・憧れのママがいて、みんなその家に定期的に帰ってくる。イケてるオサレバーにはマスターがいがちですが、やはり家庭には母性が必要って事なのか。こないだちょろっと「蟻の巣の女系社会」の話書きましたが、やはり母パワーは圧倒的。所詮オスなんてメスの亜種って事ですよ。

「映画単体としては面白かったけど、メタ的に見ると節々でイラッとくる」でお馴染みの映画「パーフェクトデイズ」の主人公も、質素な世捨て暮らしルーティンの中にスナック通いを組み込んで、コミュニティ帰属を補完してましたね。

僕のオールタイムベスト10映画に入る「ノマドランド」でも、傷付いた人達の共同体として、流動的キャラバンが出てきます。訳アリのオトナたちはベッタリしたくない。でもコミュニティ帰属は必要。人と深く関わりたくない、でも愛が必要。この人類普遍的ドラマとジレンマを、日本のスナックは包含しているのです(過言)。

ファーストプレース

オタクだったり、外国人だったり、あらゆるマイノリティは帰属先を求めています。そしてそれぞれ類友コミュニティを作ろうとします。コミュニティを作るためには、核となる人・場所が必要です。スナック文化においてはそれがママであり、バーである訳です。そこに集った擬似家族はコミュニティ最小単位である「核家族」となります。マイノリティにとってそれは、もうサードどころかファーストプレースです。家族が集まって、村になり、村が集まって町や都市になる。その自然活動はもはや原子物理や細胞、銀河を粒子観測しているかのよう。

さて、この日本のスナック文化が超加速したのが、LGBTシーンです。日本全国、聖母から娼婦まで様々なタイプのママ()が様々なタイプのバーを開いてファミリーを形成、その集合で生まれた清濁混合ヴィレッジが新宿2丁目です。迷えるマイノリティキッズを受け入れ、守り育ててきました。同時に大量の痴話ドラマや独自変態文化も生み出していき、世界に類を見ない日本独特のLGBTシーンを形成しました。この辺は「2すとりーと」とかで片鱗を垣間見る事ができます。

ドラマシリーズ「POSE」では、80年代ニューヨーク・LGBT・ヴォーグシーンの背景文化が描かれます。マイノリティであるが故に家族を失った人々が、それぞれのママが率いる「ハウス」に帰属して擬似家族になる。「Chosen Family・自ら選択した家族」として、ほぼ実家族として共に生きます。「ハウス・オブ・エヴァンジェリスタ」とか聞くとかっこいいですが、訳せば「福音家」福音さんちって事で、福音はママの名前です。日本のスナックより濃密な共同生活家族ですが、カラオケの代わりにハウス対抗仮装ヴォーグ大会開いたり、やっぱりどこのコミュニティでも似たような事やってるんですね。

安全基地

人間は社会性生物なので、ひとりぼっちでは生きていけません。サバンナであろうと大都会であろうと、ひとりで誰とも関わらなければ死んでしまいます。しかし、自分と合わない間違った人達と関わると、それはそれで病んで死んでしまいます(面倒臭い)。だから、自分が帰属できるコミュニティを見つける必要があります。

加えて、人間は多面的なので、ひとつのコミュニティだけで全ての側面をケアできる訳でもありません。一般的には3〜5くらいのコミュニティに属しているのが精神衛生上は健康的だと言われます。家族恋人、仕事仲間、趣味仲間、飲み仲間、みたいなやつです。

コミュニティ帰属によって、自分が受け入れられている、理解されている、ここにいても良い、居場所があるという安心を得る事ができます。オキシトシン出ます。心理学でいう「安全基地」というやつですね。多くの人にとって、最初の安全基地は母親であり家族になります。しかし、それが毒親だったり、マイノリティだったり、バツイチだったり訳アリだったりした場合、その人は新しい家族、安全基地を見つけなければなりません。

近代以前の世界では皆婚なんて概念すらなく、「村」や「宗教施設」がその福祉的役割を担っていました。近代化、無宗教化、都市集中、核家族化、一人暮らしが当たり前になった現代では、安全基地を失って病んでしまう人続出。趣味サークルなんかでサードプレースを探しますが、擬似家族的繋がりの安全基地ともなると、そう簡単に見つかるもんでもありません。みんな自意識過剰のコミュ障だし。こないだ書いたスタンドアローンコンプレックス、繋がってるのにひとりぼっちってやつですね。

頑固じじいが老化と認知症で自我を見失っていく映画「ファーザー」では、老人ホームで最後わけわからなくなったおじいちゃんが「ママに会いたい、ママに会いたい」って泣いてました。(泣)

スナックのススメ

そんな環境下で、スナックはかなりオススメのコミュニティ帰属先かもしれません。日本全国あらゆる場所にあるし、リーズナブルだし。それだけ普及してて、さらに再評価のブームが来てるとなると、意外と現代社会にも求められている機能なのかも。更に「AIメタヴァース時代の分散社会ではゆるい繋がりが重要になる」「村社会回帰」みたいな未来予測もあるので、今後サイバーとリアルローカルの両方でスナックが捗ったりして。

うっかり素敵な推しママに出会っちゃったら、もう毎日が楽しくなっちゃいそうです。変な漫画とか見てると「夫がスナック通いで〜」みたいに悪い事のように描かれてる場合がありますが、安全基地で回復してるだけなので許してあげましょう。実家や教会でセラピー受けてるようなもんです。

僕もロンドンローカルの歩いて行ける近所に、推しママの営むスナックがオープンするのを切望しています。通っちゃうヨ。


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