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『水の都の護神』の違和感をめぐる物語

皆さんは映画や漫画、アニメなど創作物に触れていて、「世間の評価は低いけど、私は大好き!」あるいはその逆のことを感じた経験はおありでしょうか?
しかし、この手の経験はよく話題に上るものの、「自分の中での評価の高さが世間と一致してるけど、とある一点に強烈な違和感を感じる」エピソードはあまり聞かないのではないでしょうか。
しかもそういう違和感を持った部分に限って、世間はまったく気にしていないことが多かったりします
こうなった時の居心地の悪さと言ったらかなりのもの。
「自分だけこう感じるのって、おかしいのかも?」という具合に。
ここでは、私の経験したケースを取り上げていきたいと思います。

『劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス』

世界で一番美しい町といわれる水の都「アルトマーレ」。そこでサトシは不思議な技を持つポケモン、ラティアスとラティオスに出会う。ラティオスは兄、ラティアスは妹でとても仲がよく、この町の秘宝「こころのしずく」を守っていた。

この秘宝をねらう怪盗姉妹ザンナーとリオン。彼女たちが起こした事件に巻き込まれるサトシとピカチュウたち。隠された封印が解かれた時、町は大水害に見舞われる。奪われた「こころのしずく」を取り返す為、サトシとピカチュウが水の都を駆け抜ける!

ポケモン映画公式サイトのあらすじ

2017年の「推しポケモン映画ナンバーワンは キミにきめた!」で1位。
2021年の「ポケモン映画ナンバーワン決定戦!イッキ観オンライン上映会」の旧無印部門でも1位。
そして2022年、「夏の思い出ゲットだぜ!25周年ポケモン映画祭」にて投票上位3作に選出されリバイバル上映が決定。
公開当時、劇場版ポケットモンスターシリーズにおいて興行収入ワーストを記録。
その後長らくワーストの座を守りながらも、現在はポケモン映画屈指の人気作の地位を不動のものにした名作です。
レビューサイトなどで見かける主な評価点は以下の通り。

物語の舞台アルトマーレの、精緻な作り込み。
迷宮感や躍動感を引き立てるカメラワーク。
ポケモン界屈指の萌えキャラのラティアス。
徹底した自己犠牲の精神で観る者の涙をしぼり取ったラティオス。
言葉を使わずとも伝わる、情感あふれる演出の数々。
ワクワク感と郷愁、神秘性を兼ね備えたcobaの音楽。
そして今だに語り草となっている、甘酸っぱさと大きな謎を残したラスト。

これらは世間の評判通り、私の大好きな部分でもあります。
ポケモン映画屈指の名作と呼ばれるのも納得でしょう。

ですが、私の中では「自分の中での評価の高さが世間と一致してるけど、とある一点に強烈な違和感を感じた」初めての作品でした。
それは、アルトマーレを護る古代装置の設定

本編映像より。画面左側に注目


この装置は、太古の時代にアルトマーレを「邪悪な怪物」から救ってくれたラティアス・ラティオス(以下ラティ族)によって授けられた秘宝「こころのしずく」の力を引き出すもの。
劇中では町を封鎖したり、化石ポケモンを復活・使役させたり、水路の水を自在に操る能力を発揮していました。
これだけ見たら普通なのですが、問題はここから。

何とこの装置、ラティ族のエネルギーを吸い上げて動かす仕組みなのです。
さらに終盤に明かされた「こころのしずく」の正体は、描写的に死んだラティ族の魂。
こうして見るとわかるようにラティ族は、町を護るために死後も利用され続ける運命なのです。
しかもこの装置がある場所はよりにもよって、ラティ族への感謝の気持ちを込めて建造された建物の中。
いつもだったらポケモンへの非道な仕打ちに対して真っ先に抗議するはずのサトシですら、何も言ってくれない!
おまけにEDでは、ラティオスの犠牲を目の当たりにしたはずのボンゴレが装置の修復工事の指揮を取っている始末
あの装置まだ使う気なんかい!

先祖を救ってもらった恩や愛情からアルトマーレを護り続けるラティ族。
ラティ族と深い信頼関係で結ばれていながら、装置を開発し、動力源として彼らを利用し続けるカノン・ボンゴレ一族。
作中で装置を利用したのは悪役の怪盗姉妹だったものの、アルトマーレの平和は、見ようによっては究極の搾取と共依存の上に成り立っているとも言えるのです。
しかもラティオスの死の原因を作った怪盗姉妹も、EDで逮捕こそされましたが、結局新たなターゲットを見つけて脱獄したことが示唆されています。
つまり本作の結末は、一見感動的でも、二つの意味で根本的な問題が改善されないままという、なかなかにモヤるものとなっております。

大人になった今だからこれだけ語れますが、公開当時はまだ子供。
ですが、当時から美術や音楽、演出に感動しながらも、「アルトマーレ人って恩を仇で返してないか?」と、うっすらとした違和感を感じていました。
が、ネットでレビューを探してみると……


こうした意見がものの見事に見つからない!


どのレビューを見ても、マジで古代装置について触れたものが見当たらない!
あってもごくわずかで、軽く触れる程度。
一体どういうことだ?この部分がよっぽど気になる私は異端なのか?
しかも私と同じリアタイ世代が大人になるだけの年月を重ねてもなお、古代装置についてまともに触れたレビューが出てくる気配がありません。
中にはこの記事のように、本作の演出や構成力がどれだけ優れているか解説したものもあり、その完成度の高さに私も唸らされたのですが……
やっぱり古代装置にほぼ触れられてない!

ああ、やっぱり私は異端なのか。
だとしたら……この違和感、自分でハッキリと言語化させるしかない!
というわけで、レビューのみならず某wikiにあった記事をガッツリ追記修正することに。
全体的な内容の補強はもちろん、特に古代装置関連は調べました。
とにかく、少しでも違和感を共有したい。
これで気づく人もいれば、昔の私みたいに違和感を言語化できなかった人もいるはずだから。

流れが少しずつ変わって来たのは、2017年の「推しポケモン映画ナンバーワンは キミにきめた!」あたりからでしょうか。
体感的にこの辺から少しずつ、ツイッター上で古代装置について触れる意見が増えてきました。
某wikiに記述し始めた2015年頃までは、古代装置について語っていたの、ほぼ私くらいだったのに……
こうした意見が増えてきた理由は、ゲーム本編のXY・ORASが、「ポケモンのエネルギーを利用することの是非」を描いたシナリオだったことも大きそう。
やはりこの辺から再評価されたと同時に、改めて観直して気づいた人が多そうです。
あと、某wikiに書き込んだのが多少なりとも効いてきたのかも?

そして公開から20周年を迎えた2022年にリバイバル上映。
当時シリーズで興収ワーストだった作品が再評価されて、再び大スクリーンで観られたのは感慨深いものがありました。
と同時に、ツイッターで感想を検索したら……

割と真剣にアルトマーレの設定にショックを受ける人が増えてました。
具体的には、「度し難い」「人間は滅ぼすべき」という強い言葉を使う人が出るレベル。
リバイバル上映を観に行くということは、それだけ思い入れの強い作品だったはず。
なのに、これだけの闇を内包していたという事実を突きつけられたのですから、そりゃショックも大きいでしょう。
そしてこれらの反応を見て、「あの時感じた違和感は間違ってなかった」と確信しました。
少なくとも、古代装置関連の違和感は「世間的にはほぼ存在しないもの」から「少数派とはいえ無視できないレベルの数になった」感があり、公開当時からモヤモヤしていた私としては感慨深いものがありました。

にしても、なぜそれまで古代装置について触れた意見がほとんどなかったのか。私なりに考えてみました。

・ターゲットの年齢層を考えると、悪役が利用していたので悪の兵器だと認識されていた
・単に破滅をもたらすための舞台装置と見なされた
・そもそも、ラティアスに萌えたりラティオスに泣いたり、ラストのキスシーンを考察する方がよっぽど健全だし楽しい

私の見方はマイノリティもいい所でしたが、今では近い見方をする人が少しずつ増えてきています。
ものの見方なんて時代や成長でどうとでも変わるし、感想なんて人それぞれ。
だから自分の考えが少数派だったとしても、どんどん発言したほうがよっぽど建設的。
そうすることで、違和感を言語化できずにモヤモヤしてる人の助けになれたり、作品の新たな側面を広めるきっかけになれるからです。


以下余談
もし本作の結末や設定を見て落ち込んでしまったら、『アルセウス 超克の時空へ』を観ることをお勧めします。
なぜかって?


結末が何から何まで真逆だからです。



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