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#磨け感情解像度 『佳作』32選

私設賞/note非公式投稿コンテスト『#磨け感情解像度』応募作品のうち、受賞作品以外で「これはイチオシ!」と主催者が感じた作品をピックアップして紹介します。佳作とさせていただいた作品には、微額ながら各500円のサポートをお送りします。

#磨け感情解像度

結果発表(優秀賞、最優秀賞、芽生え賞)は1つ前のnoteを見てください。


小説の部 13作品

本コンテストは本当に小説が豊作です。ふだん、さらっとタイムラインに置かれているものは、なかなか読みにいかないかもしれない。コンテストという「非日常」だからこそ、出会いのチャンスがあるのかも。長い作品もありますが、ぜひ一読ください。


(1) 『あじさい』/伊藤緑さん

2万5千字と聞いて、あるいは少し読み進めてもちっとも動かないスクロールバーを見て、挫折した人、手を挙げてください(笑)。

でもこれ、絶対に最後まで読むことを勧めます。

読めちゃいます。何の説明もない、徹底的に描写だけの小説。この二人は誰なのか? この宿はどこなのか? あじさいを「つぶす」って何なのか? 描写されないことは何もわかりません。それなのに、二人の息づかいが、近さが、風景が、感情が、鮮明に分かるはずです。はじめての経験です。

やわらかな関西弁の女将と女《静江》、穏やかな標準語の男《宗一》。

「次はお前がこい」

この最後の台詞にたどり着いたら、ぜひ感想を教えてください。

《原稿用紙二枚分の感覚》主催のエネルギー、驚嘆です。


(2) 『彼女』/小川牧乃さん

その人のことを、わたしがどう思っているか、もう書くのもいやだけど、その人はとても悪い。

「悪い」という書き出しの密度に痺れます。腐れ縁の幼馴染。ひとつひとつの仕草、かわいらしい遊びのエピソード、ともに成長する過程、影響の与え方……え、これ「好き」なんだよね??(笑)(そう簡単にはいかない)

私、よしもとばななの『TUGUMI』が大好きなんですけど、あれも主人公・まりあの視点で描くつぐみの「悪さ」が光る作品だと思うのです。決してネガティブなだけではない、「悪い」という評価。共通する深みを感じました。

そして最終段落直前の男子との会話、「だったら私とキスしてみろ、ばか!」という一文に、物語が動いていく予感を感じます。

小川牧乃さんは《原稿用紙二枚分の感覚》参加作品『けさのこと』で120点満点の人。最近は「イカ(異化)」をテーマに何か書き始めているんですがこちらも気になる。


(3) 『配慮の時代』/siv@xxxxさん

誰かが軽い気持ちで発した言葉が簡単に人を傷つけてしまう野蛮な時代は、もうはるか昔のこと。リスク管理は徹底的に。
私たちはあらゆる配慮を求め、求められて現代を生きている。

きわめてシニカルなアプローチ。「注意勧告されなければ(表現に)気づけない」というプロットが、逆に《多義的な表現にこそ多様な感情が包含される》という本コンテストのキモを鮮やかに引き立てていると感じました。

伊藤計劃『ハーモニー』辺りを彷彿とさせる、ディストピアな世界観で男女の関係を描ききる筆致。『また、この度の婚姻がいかなる事情等により途中で終了となった場合でも…』という、次の展開を示唆するオチ。完成度の高さに脱帽です。


(4) 『ピアス』/椿-TSUBAKIさん

私のピアスじゃないピアス。
見たことのないピアス。
そっと口にふくんだ。

あやしい始まり方の小説。一人称視点の記述、ひとつひとつが鋭利な刃物のような切れ味です。こわれやすい、あるいは既にこわれている日常風景を淡々と描くところ、ハラハラがとまりません。

止まらない悲鳴に自分自身も怯えているのか全身がガクガクと震えている。視界は白で覆われ始め、意識が薄れてゆく。

全編通じてディテールが細やかで、身体と心の動きがスローモーションのように感じられます。《「嫌だ」という感情》が、むしろそれ以上何の名付けも要らず、身体と心の動きで描ききれる、ということが説得力を持ちます。

この作品、けっこう共感ダメージ食らうと思いますのでご注意を。(っていう注意書きが要りそうな作品が少なくない)


(5) 『ソニア』/Noah Hanaokaさん

これは美しいです! ヨーロッパの都市の風景と、バス停での老婆との会話。異国の雨の日は、テキストでも湿度すら違って響くかのよう。とことん描写が美しい。

軋むエスカレータを上りきると、鉛色の空が、冷たく重く、わたしの身体を押し潰した。空気が薄い。向こうの丘の裾を、個性のない集合住宅が埋め尽くしている。薄い光がひび割れた壁で濁り、煤汚れた窓で屈折する。道端の看板に陰影を穿ち、無気力にさまよう野犬の背を濡らす。

南へと向かうソニアが見るもの、聞くもの、思い出すもの。すべてを丁寧に辿りながら読んでいくと、一緒に都市を旅していくような、視野の広がる感覚を得ました。

2020年6月にnoteを始められたNoah Hanaokaさん、ハネる日を楽しみにしています!


(6) 『いちばんとおい、半径ゼロ』/お茶さん

げんちゃん、お茶さん、moonさんの3作品が個人的な「せつない距離感ベスト3」なんですけど、この「半径ゼロの円周上」っていうのはとても「わかる」表現だと思いました。

決して交わらない半径ゼロの円周上をずっとぐるぐるしてたいよ。一番ちかいところにいると、一番とおいんだってやっとわかるの。

円の半径が徐々に徐々に縮んでいって、ゼロになって、決してマイナスにはならない。重なっているようで、重なっていない(半径ゼロの円って実際は「点」でしょう?重なっているとも言えるのに、「決して重ならない」ことが強調されるように感じます)。

そして、その距離にいる「君」への目線、優しくて温かいと思いました。


(7) 『仮面』/moonさん

鋭利な部分で手の甲に一筋傷をつくってしまいそうな三日月だった。

肉感的な描写が続く作品です。ほんとうに「彼女」のことをつぶさに、よく見て描いている主人公の目線。 夜の公園が似合う、しっとりした葛藤。一方で「仮面の告白」をしてくる男性の描写のドライなこと。結婚ってなんなんでしょうねほんとに。

7/10に《B面》作品となる『揺らぎ』をアップしてくれました。あわせて読むと倍楽しい。


(8) 『無言の音』/こげちゃ丸さん

「わたしと一緒だからだよ」
彼女の頬に嬉しそうな笑窪が浮かんだ。

こういうクラスメイトと仲良くなりたい人生でしたね……。というか、こういう子を眺めているのが中高の頃はとても好きでした。

「ことば」を愛する者同士の会話は、テンポの良い打ち合いのような爽やかさがあります。このやりとりを読んでいるだけで、笑顔になる。僕と彼女は別れることになってしまうけれど、その別れすら、これなら消化できると感じました。

「さようなら/左様ならば」というテーマが導き出す別れの余韻。この子たちが大人になっても、とても美しい記憶として刻まれるような気がします。


(9) 『青空の月』/小野木のあさん

「死」と、死に伴う喪失をテーマにした作品が多い中で、この作品が最も「死の昏さ」を深く描いているような気がして、印象に残っています。

そういう穴の淵に蒼太はいる。みんなも、いる。自分が穴の淵にいることに、みんなは、気がついていない。

この「穴の淵」、もしかしたら後述するひらやまさんの「透明な回転扉」と近しい存在なのかもしれません。死をごく近くで感じたことのある人だけが見えるもの。この穴と一定の距離を保ちながら、ずっと共存していかなければならない、そんな存在。

私は、あまり人の死を間近で感じたことがありません。このコンテストを通じて、本当にたくさんの「死」を感じました。蒼太と父、蒼太と桃香、最後に登場する「煙突に登る女性」。暗い穴の淵を意識しながら、蒼太はどう生きていくのか、静かな余韻が残ります。


(10) 『名前をつけよう』/篭田 雪江(かごた ゆきえ)さん

千春は、ねえわたし思いついちゃった、と、真新しい白い紙にふたつの、いや、未来のふたりのための名前をゆっくり綴った。ああ、いい名前だね。ぼくはその名前をみつめながら、胸の奥からささやきをこぼした。

篭田雪江さんの作品を語る時に「当事者にしか書けない」っていう枕詞をいい加減やめようと思うんですけど、それでも、下半身が動かせない制約の中で、誰しも変わらない相手への思いを描いていく……という点で、篭田さんの圧倒的なディテール力は、読み手を揺さぶります。教養のエチュード賞で上位入賞した『ゆなさん』をよく覚えていますが、半年強を経ての本作品、磨きがかかっていると思います。

投稿日付は6月3日。コンテスト運営を始めて、最初に涙腺をやられた作品かもしれません。最序盤の勇気ある参加、ありがとうございました。


(11) 『かなしみの音色』/宿木雪樹さん

「喪失」の描き方として、トップクラスの密度だと思います。

わたしは、自分の胸の扉をパカッと開けて、痛んでいる部分を抉り出し、クルミに見せたい欲求に襲われる。

「私が殺したんじゃないか」っていう葛藤、重いですよね。時折これが描かれた作品を読みますが、実際にはものすごく消化できない思いなのだと想像します。本作品は、主人公のもがき苦闘する過程が、ぼんぼんと積み上がっていくように展開します。

ハーブティーで少しわだかまりが溶けていく描写は、『宿木屋』の雪樹さんならでは。彼が言う「そのまんま、受け入れていけばいい」が腹落ちするのに、そりゃあ一生かかるよね。最後、「娘」に向けていく視線の優しさに、救われるようです。


(12) 『鎌倉以上、江ノ島未満』/タカトウリョウ⚡さん

ちょっとすごいクセのつよい文体なので(笑)どうしようかと迷ったんですが、わりと核となる「心の距離を駅間にたとえる」というアイデアがはまったのでピックしました。

「カレとの心の距離を江ノ電に例えるなら、鎌倉からスタートした気持ちはたぶん、江ノ島の手前くらいで停まっちゃたんだろうなあって、そう思ったの」

地名って、独特の存在感を示しますよね。

「中野サンモール商店街」「鎌倉駅東口」「高徳院からの帰り道、県道三十二号線沿いの小店軒先」「郷愁の東武東上線」。池袋。

その場所が持っている共通のイメージを借りてこれるからかもしれません。新宿も渋谷も、京都も神戸も、一定の色を持ってますよね。ストーリーに入り込むとき、背景が曖昧ではなく一定の具体性を持っていることは必要です。この作品は、固有名詞としての地名の差し込み方に、物語を動かす力としての可能性を感じました。


(13) 『感情のワンメーター』/torutoruさん

初乗りの420円から、感情は始まる。

カラエ智春さんも絶賛していたこの作品。私もハードボイルドな文体がドストライクです。

深夜のタクシーが雨の街を走り、メーターの数字が徐々に上がっていきながら、心象が動いていく。身体の中も変化するし、LINEの先の元カノとの距離も変わる。リズミカルな展開が小気味よいです。

デジタル時計の数字とか、メーターに表示される金額とか、「数字の変化」は自然と場面転換の効果を持ちますね。狙って使うと、けっこうな効果を発揮すると思います。


💐

エッセイの部 12作品

エッセイと小説に有意な境目があるのか?という点には悩みつつ(両方のタグついていることもあるし)、その人ならではの背景を感じさせるエッセイ作品から選びました。


(1) 『棘の森と手を繋ぐ』/はるさん

解放されたあとに出現した《怒り》。棘の切っ先が自分に向いてしまう、その苦しみをどのように飼い慣らして、《手を繋ぐ》までの境地にたどり着いたのか。苦しいけれど丁寧なドキュメンタリーでした。

怒りは、私だ。私が抗い続けてきた証でもあり、生き延びるために必要な原動力だった。今も隣にいる。でももう、変な暴れかたはしない。

幼馴染の存在と、言葉。そして「書くこと」。はるさんはたまに変な絵で笑わせてくると思いきや、定期的に思いエッセイをくれるのですが、私は好きです。


(2) 『おばあちゃんに嫉妬して、笑顔でいようと決めた』/飯尾 早紀さん

「奥さん」って何……? と思わせてからの急展開。厄介な《嫉妬》を真正面から描いたエッセイです。

同じ苦しみを、私は受け入れられないのに、あの人は受け入れられる。なぜ? 同じ家族なのに?
この違和感は、胸に迫るものがあります。

でも、嫉妬心と同時に
何があっても強く生きていかなければならない、ということも笑顔から悟っていた。

その嫉妬心を、笑顔で生きていく前向きなエネルギーに消化/昇華できたこと、強いなあと思います。嫉妬は、正しく扱えば、健全なエネルギーにできることを学びました。キナリ杯『特別リスペクト賞』の流れからの即応募も嬉しかったです。


(3) 『止まった時間と透明な回転扉』/ひらやま | cotreeさん

茨木のり子の引用が刺さる、ひらやまさんらしい1本です。「透明な回転扉」の存在を、否定せず、過度に恐れず、《共存する》。

ただ透明な回転扉がすぐそばにあっても、共存することはできる。本来あるそれを自覚しただけで、押してしまうまでには大きな距離がある。

こういう話、「上から目線」ではなく、経験者の「横から目線」だからこそスッと染み込んでくるようなところがありますね。

自覚すること。それが助けになることを思い出させてくれる1本です。保存版。


(4) 『チョコレート、チョコレート。』 /定家明香さん

チョコって確かに外見も中身も「芸術品」みたいなやつ、あります。「こんこんと」「王冠を運ぶように」「恭しく」。ワクワクが、本当に綺麗な描写で描かれていました。

おいしくて、少し苦くて、幸せで、でもひとりで、なんだか少し胸がじんわりする。

6/12 編集部のオススメ入り、「私の神戸をおしえて」受賞もおめでとうございます。注目してます!


(5) 『波は凪いでない』/ギョメムラさん

波が凪いでいるのではない。
自分が勝手に浜に上がってるだけだ。

この表現、じわじわ染み込んでくるように感じます。引いて逃げちゃうの、ありますよねー。波の中にざぶざぶわけいっていくのは怖い。

でも、たゆたう波に身を委ねる決心をして、水の中を覗き込む時、何が見えるのか?どんな感情に動かされるのか?

静かな決意を後押ししたくなるような1本でした。きっと読んだ人みんな応援してる。


(6) 『まっしろなカレンダーの』/teapotさん

ちなみに彼女は、忘れない。

パートナーを見つめる穏やかで優しい目線にほっこりします。私もToDoは全部デジタル(Asanaとグーカレ)で忘れない派なんですけど、だからこそ顔を出すアナログな断片、とても「特別」なことであることがよくわかります。

愛らしくて笑いたくなるのに、小さくかすれた文字に感じる小さじ1杯くらいの切なさ。

この切なさに、もしかしてteapotさんは既にちょっとだけ「無理」を感じていたんでしょうか? どうかお二人に健康あれ。


(7) 『下町リバーサイド心中未遂』/やすたに ありささん

シビアなストーカーとの闘い、鬱との闘いが、相当なエネルギーで連ねられる、力作です。これ時間かけて魂削り出すみたいに書くのは本当に厳しいプロセスだったと思う。何層にも塗り重ねられた密度という感じです。

その時、ホームレスのおじさんの瞳孔がぱっと開き鋭く光ったのを私はよく覚えている。おじさんはゆっくり頷くとこう返事をした。
「それじゃあ、おじさんと一緒に死のうか」

ホームレスといえば、私の座右の書のひとつ・藤原伊織『テロリストのパラソル』においては重要なポジションを占めており、個人的には偏見はありませんが、本作でもうつに悩む「私」との対比で、効果的な存在感を示していると思います。

やすたにありささんは、応募にあたって本コンテストおよび主催について「めちゃくちゃ研究」されていて、独自の分析を重ねられたり、それを時折twitterで呟くのを私がすかさずいいねするなど、過程としても面白く遊んでくれました。これだけの作品を書き切って参加いただいたことに、心から敬意を表します。ありがとうございました。

(※7/12追記:「小説」グループから移動しました!大変失礼しました)


(8) 『母の喪失』/紅茶と蜂蜜さん

父は私が思っていたのと同じことを言った。
「一人いないだけで静かだな」
 それを聞いた妹が茶化して、父に言う。
「淋しかったら素直にいいなしゃい」

文字通りの「喪失」を描いたエッセイ。家族と「私」の距離の変化、「父」の見え方の変化。俯瞰したクールな書き方が続く中で、上に引用した父と妹の会話で、ぐっと「私」が家族の中心に近づいたように感じました。

紅茶と蜂蜜さんは、6/16に「初稿」をアップされた後、6/20に「改稿」を再アップしてくれました。「習作」と改題して残されている初稿と比較すると、確かに表現がしっかり磨かれていることがよくわかります(差分比較は difff.jp をおすすめ)。「実は初稿の表現の方が好き」な箇所もちょいちょいあるんですけどね。そのプロセスを見せてくれたことに、感謝です。


(9) 『あの日、私が手に掴んだ【感情】は』/千羽はる(Chiba Haru)さん

孤独な子の「基地」でもある図書室で出会った、運命的な写真の1枚。写真家を含めたアーティストの、迸るようなエネルギーって、「あてられる」ことがありますよね。10代の著者があてられた様子、ありありと描かれます。パワフル。

ネタバレは野暮ですが星野道夫のこの作品、こんど探してみます。


(10) 『僕にとっての魔法使いがチャラ男だった件』/ 椎名トキ/都基トキヲさん

素敵な美容師と邂逅できた話。よかったですねーー!ほんとに出会いは運だから。。私も東京時代はすごいトリッキーなお兄さんにずっと切ってもらってて、いまもたまに上京すると寄ったりします、久我山。

「そうなんだ。じゃあ彼女の為にカッコよくなって帰りましょーか!」

たぶん、周りの環境とかの要因で、「LGBTQが『ふつう』」っていう人は一定いると思うんですよね。note界隈もそう。まだマジョリティが変わるまでは時間が要るのかもですが、こういう素直なやり取りを見ると、いいなあと思います。


(11) 『マリコの前日』/おかゆさん

人生に一度しかない「前日」のセットアップ!どきどきが伝わります。

このスーツが、冴えない自分を1人の社会人にしてくれるような気がしたのだった。

某就活媒体の仕事をしながら朝井リョウの『何者』をちょうど読んでいたり、絶賛就活中だった秋月みのりさんとDMで喋ったりしていた時期があるんですけど、就活から社会人1年目ってやっぱり特殊な時期ですよね。その時の心持ちを、書いたり読んだりしてうまく折り合っていけたらいいのかなあと思います。先は長い。


(12) 『母が死んだとき、祖母は母を平手打ちした』/森のカルロス大根さん

お笑い芸人のひとがそうですけど、「おもしれーことを恒常的に書ける人」って、自分自身をすごく俯瞰で見ている気がします。自分の状況、家族の状況、周りの状況。その鳥の目から突然、きゅっとあるディテールに寄った時……本作ではたとえば

「ダメやないの!アンタ、はよ起きなさい!こんなところで寝て!」

というおばあちゃんのセリフに、強い回転エネルギーみたいなものを感じます。で、俯瞰に戻る。

非日常を受け止め、それを日常の輪郭に包摂させたとき、人は前を向ける。

うまいですね。


💐

詩とコラムの部 7作品


(1) 『それは、まるで環のように』/ だいすーけさん

詩って二次元なんだな。

ということを強く印象づけられた作品です。もちろん、言葉選び自体もシャープですが、「面」として見せていく手法にユニークな創意工夫があります。スマホの方はぜひ横置きで。文字数を揃えたり、文字の置き場所を考えたり、そういう表現技法が使えるのは、自由詩の魅力ですね。

最後の「あいしてる」も、響くこと。


(2) 『贋作』/い〜のさん

滾るようなエネルギー。手書きの詩に力強いバッテンが描かれた「写真」が良い味を出しています。これも詩の文字表現との合わせ技。こうした「画像挿入」という工夫の仕方は、もしかするとnote固有のテクニックの一つかもしれません。

贋作。自分と向き合うこと、「真実の自分」と向き合い続けること。


(3) BUMP OF CHICKENが歌う「強さ」と「強がり」の境界線/Mica(ひらいみか)さん

推しアーティストのレビュー記事って相当難しいと思うんです。そこへ《「強さ」と「強がり」の境界線》というテーマどんぴしゃの切り口で、歳を重ねていく過程と歌詞の変遷を重ね合わせた考察。見事です。LINE MUSICコンテスト準グランプリのMicaさんさすがの筆致!

この作品は、先んじて私の #呑み書き でも紹介させてもらいました。


(4) SHANKがくれた「はじまり」とともに/きゆかさん

10代の青春史を音楽とともに描いた1万字超の大作! ライブで名前呼んでもらう奇跡が胸に来ます。ふたつの時間軸:ここでは「描く対象(SHANK)」と「描く主体(きゆか自身)」の2種類の時間軸を重ねていく「クロニクル編集」の技法、しっかりはまっていると感じました。

おじさんたち(失礼)がフィードバックをくれる企画 #ブリリアントブルー 第1号として修行に余念が無いきゆかさんの全力投球、しかと受け止めました。


(5) マウンドに立ち続ける理由なんて/大麦こむぎさん

マウンドに立たないと見えなかった景色。
noteを書き始めるまでは知らなかったそれを、いまのわたしは知ってしまった。

ピッチャーの物語がぴったりはまる、コンテンツレビュー型決意表明。一球一球を全力で投げ込む宣言。

これを読んだら、読み手の私たちは、全力で受け止めるキャッチャーの目線で、信じて球を待つ以外にないよね。むぎちゃんの得意とする濃厚な「コンテンツ会議」、マウンドに立つ度、確実に磨かれていると思います。


(6) 誰も読んだことのない小説「砂クジラの肌」を知っていますか?/野やぎさん

《誰も読んだことのない小説》と聞いて、素直に「ふーん、そんな本あるんだ」と騙された人ですww(だって文フリとかで普通に置いてそうだし。。勝手に「きっと僕以外誰も」と補っていた錯覚。)

でもの小説きっと面白いと思うんですよ。野やぎさん、ほんとに一冊分書きません?

船に乗るような漁師は、彼らの眼を盗めるという。風を読み、鳥の眼を使って見る世界は自由なのかもしれない。


(7) 「感情解像度」の解像度/kaoruさん

最後はソシュールまで引用して徹底的に本コンテストのねらいを解剖してくれたkaoruさんのメタ論考を紹介して終えたいと思います!まじ濃厚!

森本しおりさんはじめ、何人かの方が本コンテストの趣旨や行く末についていろいろ予想をしてくれました。そういう思考実験、楽しいよね。

kaoruさんの結論「多義性」という導出は、お見事。そして下記に引用する段落も、まさに私たちが「書く理由」の鮮明な一面だと思います。

説明されない世界は不安と恐怖に満ちている。それを前にして人は慄き、悲観し、時に絶望する。だから人は未知なる世界に言葉を与え、説明可能な状態をつくる。たとえそれが十分な説明ではない幻想だとしても。言語というルールによって、世界を説明可能なものとして秩序化していく。

彼の説明が「全てではない」けれど、相当のところを言い当てていると思いますし、私が意識していなかった部分も含めて、示唆に富みまくりです。9000字をテンポよく組み立てていく力もすごい。

kaoruさん、あらためて結果を見渡してどうですか? 「続編」の考察にも期待してます!


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主催の独断と偏見に基づく『佳作』32本の発表は以上です!


「あれっ、この作品は?!」

と思うものが多数あると思いますので、ハッシュタグ検索の「人気」 「定番」あたりもチェックしつつ、みなさんぜひ「自分のイチオシ」を集めて紹介してくださいね。



あらためまして、本コンテストに参加いただいた皆さま、本当に優れた作品を届けていただき、どうもありがとうございました。これからも楽しいnoteライフを!🦑




Photo by Gabby Conde on Unsplash

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