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【連載小説】#11「あっとほーむ ~幸せに続く道~」新しい日常の始まり

前回のお話(#10)はこちら

前回のお話:
悩んだ末、めぐは二人と『三人暮らし』をすると決めた。それを伝えるべく、自らの手で『愛』の花言葉を持つ花だけでブーケを作って手渡すことに。ところが、不仲のはずの二人が悠斗の家で仲良く料理をしている場面に遭遇してしまう。詳しく話を聞くと、二人もめぐとの付き合い方を模索しており、必要があれば協力する方向で話がまとまったのだという。『三人暮らし』の話を切り出すと、「めぐの幸せのためなら」と快く了承してくれたのだった。   

十一

 夕食をとったあとで、二人に家まで送ってもらった。両親はわたしの顔を見るなりほっとした様子だったが、「大事な話がある」と聞いた瞬間、パパは表情を失った。

「……今日はもう遅い。大事な話なら、なおさら日を改めたほうがいい」
 そう言って二人を追い返したのだった。

 週末までパパはその話題に触れなかった。こちらからも触れちゃいけない雰囲気だった。「とにかく週末に話し合おう」という言葉を信じて待つしかなかった。

◇◇◇

 迎えた土曜日の朝一番で男子たちが訪ねてきた。普段は温厚なパパだが、話が始まる前から腕を組み、怖い顔をしている。悠くんと翼くんでさえ、パパの前に立つなり表情を硬くしたほどだ。

「……それで? 大事な話っていうのは?」

 テーブルを挟んで向かい合うパパと男子たち。わたしとママはリビングのソファに浅く腰掛け、三人の様子を見守っている。

「……二人してスーツで来るなんて。まるで結婚の挨拶をしに来たみたいじゃないか。めぐの成人までまだ日があるって言うのに、ずいぶんと気が早いことだ」

「そうじゃない。おれたちは……今は結婚しないと決めたんだ。その代わり、三人暮らしをしようと……。そういう結論に至った」

 パパはしばらく黙り込んだ。じっと、睨むように二人を見ている。
「……三人暮らし」

「ああ。それが、三人の気持ちに折り合いが付けられる最良の答えなんだ」

「……いつから?」

「すぐにでも……と言いたいところだけど、めぐが高校生だからな。そこは親である彰博たちと相談して決められたらと思ってる」

「つまり、卒業までは待てない、と?」

「まぁ……はっきり言ってしまえばそういうことになる。……認めてもらえるだろうか。……どうか、お願いします」

「お願いします!」
 二人は頭を下げた。

「……納得できないことがいくつかある。一つずつ、確認させてもらおう」
 パパは一度座り直し、再び二人を凝視した。

「……鈴宮も翼くんも、めぐとの結婚を望んでいたはずだ。翼くんに至ってはプロポーズまでしたと聞いている。その二人が……ライバルであるはずの二人が、めぐと一緒とは言え共同生活をするなんて正気とは思えない。いや、出来るはずがないと僕は思う」

「それを乗り越えるんだよ、おれたちは。出来ないと決めつけるのは簡単だ。お前の言うとおり、難しいとは思う。だけど、おれたちは誰一人として自分の気持ちを押し殺す気がないんだ。だったらもう、こうするしかないじゃないか」

「なるほど……。三人とも強情がゆえの三人暮らし、ってわけか」

「ああ」

「オーケー。じゃあ次は翼くんに聞こう」
 パパは淡々と話を進める。

「三人の中では君が一番結婚願望があると思っていたんだけど、違うのかな? プロポーズも単なる恋の駆け引きの手段で、お遊びだったと?」

 その口調は相変わらず冷たい。しかし、翼くんは物怖じすることなく答える。

「遊びなんかじゃないよ。めぐちゃんに選んで欲しいからこそのプロポーズだったに決まってるじゃないか。単純に、指輪とキス一つじゃ決め手に欠けた、ってだけの話さ。なにせ、相手は鈴宮だからな。それだけで決着がつくようなら、俺だってライバルとは認めてないよ」

「そのライバルと共同生活をしようと思った訳は?」

「一つはめぐちゃんのため。二つ目は鈴宮の目付役めつけやく。三つ目は……」

「三つ目は……?」

「フツーに、鈴宮と一緒にいると楽しいから」

「えっ?」

「俺、鈴宮のこと、嫌いじゃないよ。最初こそ病的だったけど、付き合ううちに素のこの人は――若さを取り戻した鈴宮悠斗って人は――、冗談も通じる面白い人だとわかった。だから、一緒にいたいんだ」

「二人が冗談を言い合う仲だったとは知らなかったな。正月に顔を合わせたときは、今にも喧嘩が始まりそうだったけど?」

「あれから何日経ったと思ってるの? 膝を突き合わせて話し合えば、誤解なんてすぐに解けるもんだよ」

「なるほど。翼くんの考えは概ね理解できた。じゃあ最後の質問」
 そう言って、パパがちらりとわたしを見る。

「めぐ。少しだけ席を外してくれないかな。男同士で話したいことがあるんだ」
 男同士、と聞いて嫌な気持ちになった。

「わたしを仲間外れにするの? 嫌よ。絶対にここから動かないんだから!」
 憤慨すると、パパは深い溜め息をついた。

「……分かった。それじゃあこのまま話を続けるよ。ただし、聞いて不快になったとしても責任は取れないよ? いいね?」

「うん……」
 三人暮らしをすると決意した時点で、どんな困難も三人で協力して乗り越えると決めたのだ。家族なら尚のこと、隠し事は無しだ。

「……ここからは少々、猥談わいだんになる」
 前置きしたパパは、わたしを気にしながらもゆっくりと話し始める。

「……一つの家に健康な男が二人いる。それはつまり、めぐにとっては性交渉の機会が二倍になることを意味する。僕が懸念しているのはそこだ。

 三人で暮らしたいと言うからには、当然何らかの策を講じるつもりなんだよね? それを是非とも二人の口から説明してもらいたいんだ。

 もし、ここで納得のいく答えが聞けなければ、いくら三人の総意とはいえ、めぐの父親としては三人暮らしを許可するわけにはいかない」

「セックスの時はちゃんと避妊するよ」
 真っ先に悠くんが言った。しかし、パパは懐疑的だ。

「ちゃんと……? 君が言っても説得力がないな」

「うっ……」

「じゃあ、夜は男二人で寝るってのは? これならめぐちゃんは安全だろ?」
 今度は翼くんが意見を出す。

「それは却下」
 すかさず悠くんが否定する。
「めぐが安全でも、おれの身に危険が及びそうで嫌だ」

「まさか。俺が襲うとでも? イヤらしいなぁ、鈴宮は」

「お前ならやりかねない。とにかく、その案は無し」
 二人のやりとりを聞いていたパパが一つ、咳払いをして注目させる。

「……一般的に、、、、、男が女の、女が男の身体を求めるのは自然なことだ。交際期間が短ければ短いほど、情熱的であればあるほどね。現に、翼くんの両親も鈴宮も、結婚を決めた理由は子どもが先……」

「それをここで言うなって……!」
 過去話を持ち出された悠くんは慌てふためいた。翼くんも恥ずかしそうにうつむいている。パパは続ける。

「……とにかく、めぐの身体を守るためにも明確なルールを設けて欲しい。そして僕を安心させて欲しい。オーケーを出すのはそれからだ」

「……父親の言い分はわかる。けど、将来的にめぐと結婚して欲しいと言ってきたのは彰博だったよな? なのに今頃になってセックスはダメって、どういうことなんだよ?」

「そうは言ってない。三人で暮らすって言うから問題視してるんだ。 ……どちらかがめぐを妊娠させた時点で三人の関係は確実に変わる。いや、崩れる。そうなったらどうするつもり? ちゃんと考えてる?」

「……だけど、おれたちはめぐを愛してる。愛し合った末に子供ができるなら、何も悪いことはないじゃないか」

「なら、仮に翼くんとめぐとの間に子供が出来たとして、君はそれを心から喜べる? それでもなお、三人暮らしを続けていける? 翼くんも考えてみて欲しい。子どもが出来たら結婚すればいい、という単純な話でもないはずだ」

「うーん……」
 二人は揃って頭を抱えこんでしまった。なんとか力になりたいが、わたしでは尚のこと、パパを論破することはできない。

 場の空気が重くなる。静まりかえった部屋で秒針の進む音だけが聞こえる。このまま誰も口を開かないのではないか、と思うほどに静寂の時が続く。

 ところが、沈黙を破ったのは意外にもパパだった。

「僕から一つ提案がある。性の問題が解決するまで男性諸君はこの家で生活する、というのはどうだろう? 目付役は僕とエリー。ちょっと狭くはなるけど、僕ら親子が一部屋に収まれば、なんとか翼くんの部屋も確保できる。それなら君たちが共同生活をする様子を見ることができるし、君たちも『三人暮らし』を擬似体験できる」

『この家で?!』
 二人は声を揃えた。

「何か不満が? 嫌だというのは構わない。だけど、僕の提案を拒否するなら、さっきの問いに対する答えを明示してほしいな」

「パパは意地悪ね」
 思わず口を挟んだら睨まれた。あまりの怖さに縮こまる。

「めぐ」
 パパは椅子から立ち上がると、私の隣りに腰を下ろした。

「これはとっても大事なことなんだ。めぐもよく考えてごらん。二人とじっくり話し合うのもいい」
 恐る恐る顔をあげる。そこにはいつもの、優しく微笑みかけるパパがいた。

「パパとママは長い間、二人暮らしをしていたんだ。だけど決して楽しいことばかりじゃなかった。ママの不妊に正面から向き合っては何度となく悲しみに暮れたし、そのせいでうまく愛し合うことさえ出来なくなって、互いを信じられなくなることもあった。

 ……二人でもそうなんだ。三人で暮らすと決めたら尚更、そういう困難にぶち当たると思ってる。

 ……血は繋がっていなくても、パパはパパだからね。口うるさいと思っているだろうけど、娘の将来を考えると、どうしても心配になってしまうんだよ」

「ママもパパの提案に賛成するわ。少なくとも、めぐはまだ高校生なんだもの。まずは複数の男性との共同生活がどういうものかを知ったほうがいいと思う。仮に問題が発生しても、ママとパパがいればその都度対処できるだろうし」

 二人の説得を聞いて冷静になる。

 そうだ、決して浮かれてはいけない。本能にはあらがわなければならない。男二人と女一人が一緒に暮らす。それが非常識である以上、全く新しい方法を取り入れる必要がある。そしてその「新しい方法」を今、パパが提示してくれた。

 わたしはソファから立ち上がり、さっきまでパパが座っていた椅子に座った。身を乗り出し、向かい合う二人に顔を寄せる。

「……ここでの共同生活、わたしはありだと思う。二人はどう?」

「……正直な話、おれは居候いそうろうさせてもらってたから何の問題もないよ。そこに野上翼が加わるだけの話だ」

「……俺も、めぐちゃんと寝食を共にしていいって話なら賛成だよ。三人暮らしに一歩前進、だな」
 さすがは大人である。話はすんなりまとまった。

 三人揃ってパパとママの前に立つ。そしてわたしから順に、悠くん、翼くんと一言ずつ告げる。

「パパの提案を受け容れることにしました」
「またしばらくの間、世話になります」
「共同生活を許可してくれてありがとう、アキ兄、エリ姉」

 わたしたちの言葉を受けて、パパとママはにこやかに笑った。

「男が三人、女が二人の五人暮らし、か。ますます賑やかになるね」

「そうね。笑顔が増えるって、いいわね。ああ、そうだ。作りかけになってる花壇をみんなで作りましょうよ。五人でやればあっという間に完成するはず。そうしたらいろんな花を植えましょう」

 ママの提案に全員が賛成する。

「花に詳しい人間が三人もいるんだ、いっそ、珍しい花を植えて他の家と差をつけたいな」

 翼くんの言葉に悠くんが応じる。
「そうだな。その前に、この庭の日当たり具合を見極めないと」

「それなら私が分かる。ふふ。春が待ち遠しいね」

 ママがカーテンと窓を開けて庭に顔を出した。冬の柔らかな日差しが室内に差し込む。そこにみんなが集まる。ここだけ春が先にやってきたみたいに温かい。

「その前に君たち……」
 にこやかに笑う男子たちにパパが声を掛ける。
「うちに来ると決めたなら、今日、明日中にでも荷物をまとめて来るように」

「えっ! 早速?!」

「アキ兄、それ、マジで言ってる?」

 驚く二人にパパが言う。
「提案したのは僕だよ? 早く五人暮らしを始めようじゃないか」

◇◇◇

 パパの一声のおかげで、悠くんと翼くんとの共同生活はあっさりスタートした。

 もちろん、課題はたくさんある。翼くんのお父さんの反対や、男子の寝室問題、生活費をいくら出すかという細かい点に至るまで、数え上げたらきりがない。

 それでも、五人で迎えた最初の朝は格別だった。
 
 「おはよう」の挨拶から始まる新しい一日。
 大好きな人に、目覚めてすぐに会える幸せ。
 それだけで最高にハッピーな気持ちになれる。

 月曜日だっていうのに、学校へ行く足取りも軽い。

「いってきまーす!」
「待って」

 いつものように挨拶すると、翼くんに呼び止められた。
「なに?」

 振り返るなり、キスされた。唐突すぎて声も出ない。
 驚くわたしを見た翼くんは嬉しそうに笑う。
「行ってらっしゃいのキス。家族なら、いいでしょ?」

「こいつ……! 抜け駆けしやがって……!」
 そこへ悠くんが大股でやって来た。
「またしても、おれの前でめぐの唇を……」
 
「何を怒ってんのさ? 怒るくらいなら、あんたもすればいいじゃん?」

「お前のあとにするのはご免だね。その代わり……」
 悠くんはそう言って、わたしを強く抱きしめる。

「今日はおれが学校まで送るよ。めぐの友だちに、46歳の彼氏が現役高校生にも負けないくらい、イイ男だってところを見せてやる」

「きゃっ♡ それ、いいね! ゼファーで送ってくれるなら、もう少しゆっくりしていようかな?」

「はー……。自分で自分をイイ男だなんて。言ってて恥ずかしくないの?」

「ふん、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな……」

わたしたちのやり取りを、両親が遠巻きに見ている。その顔は半笑いだ。けれどもこれは想定の範囲内なのだろう。何も言わずに見守っているだけだ。

 学校に着いたら、早速木乃香このかに話してみよう。この前話した二人の彼と実家で暮らし始めたって。

 今度はちょっとどころか、ドン引きされるだろうな。でも、いいんだ。これがわたしの決めた生き方だから。


(続きはこちら(#12)から読めます。)


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