【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#18 ダッシュ!

⚾【前回のお話 #17  三浦

これまでのあらすじ

二週間の活動停止処分を受けた野球部。
しかし部長の路教は、個人練習という形で「部活動」をしようと考えた。
大津と部長は部再生に向け活動を開始する。

自主練習を開始して少しした頃、野次馬の中に三浦の姿を見つけた。
「一緒にまた野球をやろう」
部長の誘いに三浦は最後の抵抗をする。

18

 三浦が馬鹿なことを言い出したのを聞いて、おれはやつが投げる前にダッシュを始めた。
 センパイみたいに最後まで話を聞いていたら絶対に間に合わない。

「三浦に戻ってきて欲しいんだったら、なんとしてでも食らいつかなきゃダメじゃん、センパイ!」

 叫びながら振り返って見上げると、頭のはるか上に小さな白球が見えた。
 球は風にあおられ、ぐんぐん先へ飛んでいく。

 間に合わないかもしれない。
 それでもおれは、素直になれない三浦に想いを伝えるために走る。
 
 走っても走っても、満たされない心。
 それを満足させる方法を知らないおれたちはたぶん、似た者同士。

 これまで競り勝つことしか頭になかった。
 だけど競り勝ったって、つかの間の喜びの後は決まって空しくなることを知ってからは生きがいを失っていた。

 やりたいことを見つけろ!
 役に立つことをやれ!
 
 半ばそれを強制され、答えが見つからないうちは半人前扱いされる。それが嫌だった。
 優れた人間だけが生き残る。
 それ以外の人間に価値はない。
 そう言われているみたいで。

 でも、センパイがおれを救ってくれた。
 そのとき、おれはおれでいいんだと初めて思えたんだ。
 だからおれはおれ自身のために野球を続けようと決めた。

 三浦もK高野球部なら、野上センパイの元でならきっと救われる。
 似たもの同士、苦しみも理解できる。
 だからこそ、この球はなんとしても捕らなきゃいけないんだ。

 球が落下を始めている。
 みるみるうちに眼前に迫ってくる。
 しかしこのままでは、腕を伸ばしてもミットに収められそうにない。

 届けっ……!

 頭から前方に飛び込む。
 捕球できたかどうかを知る前に体が地面に落ちる。
 激しい痛みと全力疾走したせいでしばらく体を動かすことが出来ない。

 ただ、呼吸にだけ意識が向く。
 おれはいま、生きている……。
 なんとも言えない幸福感に包まれていることに気づく。

「……理人」

 誰かの呼ぶ声にはっとして顔を上げる。
 目の前になぜか、ばあちゃんがいた。
 おれは夢でも見ているのだろうか。

「理人、格好良かったよ。
 あなたはやっぱり自慢の孫ね。
 またテレビに映る?
 今度も録画しておかないと」

「なんで、ばあちゃんがここに?」

 起き上がってよく見ると隣にはハヤトがいた。
 例の「散歩」をしている最中なのだと気づく。

「理人がここで練習してるって話をしたら見に行きたいって言われてね。
 ちょっと距離があったけど、景色を見ながら歩いてるうちについちゃったよ。

 ……いやー、あそこから飛び込んでキャッチするなんて、さすが理人だよなぁ」

「えっ?」
 ハヤトに言われてミットを見るとボールは確かに収まっていた。
 そうか。おれは捕ったのか。

 ばあちゃんが拍手をする。まるで幼児をほめるかのように。
 何だか照れくさい。
 
「おれ、ばあちゃんが自慢できるような活躍するから。
 甲子園だって行ってみせる。
 だから……」

「理人。
 そんなに肩肘張らなくてもいいんだよ。
 理人はそのまんまでも充分自慢の孫なんだからね」

「えっ……」
 戸惑うおれにばあちゃんは言う。

「怒ったり笑ったり泣いたり。
 自然体でいられるのが理人のいいところ。

 誰かに言われたからって、自分の気持ちを殺しちゃダメよ?
 いろんな自分がいるし、いてもいいんだって、自分で自分を許すこと。

 ……先に死んだじいちゃんが最近夢に出てきてそう言ったの。
 だから、大事なことは忘れないうちに伝えておくね」

 許す、と言う言葉がすっと体に染み渡る。
 それはきっと野上センパイが言っていたからだ。
 他人を許す以前に自分を許す。大事にする。

 もしかしたらばあちゃんもその夢を見て、いろんなことを忘れてしまう自分を許そうとしているのかもしれない。それが今の自分なんだから、この自分と付き合っていこうと覚悟を決めたのかもしれない。

 センパイたちのところに戻る。おれはボールの入ったミットを掲げて見せた。
 すると三浦は大笑いをしながら涙を流し始めた。
 センパイがおれに歩み寄る。

「大津の本気の走り、三浦にも伝わったと思うぜ。
 大丈夫、三浦は戻ってくる。
 そうしたらまたみんなで野球ができる。
 成長したおれたちならきっと甲子園だって行ける。
 おれはそう信じるよ」

 その言葉を聞いたであろう三浦がその場にくずおれた。

エピローグはこちら → #19 ここから、はじまる

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