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【連載小説】「好きが言えない3 ~でこぼこコンビの物語~」#5 相談事
⚾【前回のお話 #4 祖母】
ここまでのあらすじ
K高野球部3年の野上路教(のがみみちたか)は、部長を任されたもののチームをうまくまとめられず悩んでいた。
そんな時、弟が「部の誰かに殴られる」という事件が起きる。
自ら名乗り出てほしいと訴えるが、部内では疑り合いが始まり、空気はますます悪くなっていく……。
5
部室のドアが開いていた。
中から二年生の会話が漏れ聞こえる。
「三人のうち、だれが怪しいと思う?」
「オレは三浦。いつもさぼってるし、目が合うとすぐキレるじゃん、あいつ」
「確かに。オレは大津かな。だって部長のこと嫌ってるような発言ばっかしてるだろう?」
おれは自分のしたことを後悔し始めてる。
みんなの前で互いが疑りあうよう仕向けるべきじゃなかった。
あの時は弟がけがをさせられたことに意識が向いていたけれど、冷静に考えてみればこうなることは簡単に予想できたはずだ。
何が正解かわからない。
とにかく今は、できることを一つずつやっていくしかない。
「そうやって本人のいないところで噂話はよくないと思うぜ」
おれは勢いよく部室に踏み込み、会話に割り込んだ。
二年生は体をびくつかせ、背筋をピッと伸ばしておれに向き直った。
「すみません……。
でも、部長は犯人を捜したいんですよね?
オレたちはその話をしてただけですよ」
「捜してくれとは言ってない。
犯人がいるなら申し出てくれ、って言ったんだ、おれは」
「部長は本当に、犯人が名乗り出ると思ってるんですか?」
「えっ」
思いがけない問いに戸惑う。
「今のオレたちにはもう、かつてのきずなが感じられません。
さぼるやつがいるから練習もまともにできないし、このままじゃ試合にも出場できない。
だったらオレ、部活辞めます」
「うっ……」
彼の言うことはまっとうだった。
返す言葉もない。
やっぱだめだな、おれ。
完全に自信を失った、その時だ。
「おいおい、部長いじめて楽しいか?」
祐輔だった。
後輩たちの顔色がさっと変わったのが分かった。
「副部長……。
いじめって、そんなつもりは全然……」
「もしさ、自分の家族がけがさせられたらどんな気持ち?
頭のいいみんななら分かるだろう?」
「…………」
今度は後輩たちが言葉を失った。
「さあ、ぐちぐち言ってねぇで、校庭三周と素振り100回。
おしゃべりの続きは、それでもまだ疲れてなかったらにしてくれよ!」
軽い口調の祐輔に、後輩たちも渋々行動に移る。
部室にはおれと祐輔が残された。
「……礼は言わないからな」
「べっつにー。おれはただ、後輩たちのしてることが気に入らなかっただけだ。
……まぁ、路教と一緒だよ。
部員たちが互いを疑ってるこの状況は早く終わらせたい」
「祐輔……」
「それで、だ。
真面目な話、これからどうする?
このままじゃ、ほんとに部が成り立たなくなるぜ?
野球部がなくなったら、おれ、まじで困る。路教だってそうだろ?」
「そう……だな」
野球を始めてから今日までやってこれたのは、純粋に野球が好きだから。
それは祐輔も同じはずだし、今残ってる部員もきっとそうだろう。
もしおれの一言がきっかけで廃部になったら、後悔してもしきれない。
なんとかしないと。
「……こんな時、永江先輩ならどうするかな」
おれの頭じゃ、こんな時どう行動したらいいか、いい考えなんて浮かばない。
でも、あの人だったら……?
「永江先輩ねぇ」
祐輔は少し考えていたようだが、やがてため息を吐いた。
「……直接相談するのが一番早くね?」
その答えに思わず吹き出す。
おれも全く同じことを考えていたからだ。
*
「すまないね、サボらせてしまって」
「いえ、忙しいのに時間作ってもらえただけでもありがたいです」
事情を話すと、永江先輩はすぐに会う段取りをしてくれた。
学校脇の土手沿いにある広場のような公園。
先輩はそこで会おうと提案してくれた。
おれは退屈な数学の授業を抜け出し、先輩に会いに来ている。
「概要は昨日のメールで理解したよ。
相当苦労しているようだね。
……君ならもう少しうまくやってくれると期待していたんだけど?」
相変わらずの物言いに傷つく。
「意地悪だなぁ、先輩は」
「本当にそう思っていたんだから仕方がない。
君には能力がある。それは間違いない。
なのになぜチームメイトの心が離れてしまうのか。
僕なりに考えてみたんだ」
「はい……」
何を言われるだろう。思わず身構える。
「君は、僕の真似をしようとしている。
そうじゃないかな? だからうまくいかない」
「えっ、だって先輩……」
おれが反論するより先に、先輩が言葉を継ぐ。
「君は君であって僕ではない。そして僕にはなれない。絶対に」
「でもおれ……。
先輩みたいな部長になりたいんです。
甲子園に引っ張っていけるような、憧れられるようなキャプテンになりたいんです」
「強情だね、君は。
その強情さをもっと発揮すればいいと僕は思っているんだけどな」
「えっ……?」
戸惑いを隠せない。
先輩は続ける。
「強情になる方向が違うんだよ、野上クン。
僕が買った君の能力は、自分の決めたことを貫く力だ。
……君は君のままでいい。
君らしさに、みんなはきっとついていく。
だから何も深く考え込むことはないんだよ、最初から」
「……そう、なんですか? おれ、自信なくて」
「君の努力はみんなもわかってる。
それを見せつけてやればいい」
「でも、どうやって……? それがわかんないです」
おれが何度もごねていると、先輩はおもむろにスマホを取り出し誰かに電話をし始めた。
「……もしもし、永江だけど。
今すぐ学校脇の公園に来てくれるかな。
野上クンを元気づけてやってほしいんだ。……そう、今、すぐ」
「……あの、いったい誰に……?」
「本郷クン」
「ちょっ……! やめてください! 祐輔を呼び出すのは……!」
慌てて先輩のスマホを奪おうと試みる。
先輩は笑いをこらえながら、真っ暗なスマホ画面をこちらに向けた。
思わず目が点になる。
「今、どんな気持ちになった?
それが、今の君の本当の気持ちだと僕は思う」
「おれの……本当の気持ち……。それに気づかせるためにわざと芝居を……?」
「初めてやったけど、うまくいったみたいだね」
先輩はにやりと笑った。
それを見ておれも笑ってしまう。
今おれは、本気でやめてくれ、と思ったんだ。
ライバルである祐輔には弱みを見せたくない。
いや、祐輔の力を借りてこの問題を解決したくなかったのだ。
そんなことをすれば、今度こそおれは祐輔を越えられなくなってしまう。
おれは先輩のように、一致団結してチーム力を上げようとしていた。
でも、そのやり方にずっと違和感を抱いてもいた。
だからうまくいかなかったし、だれもついては来なかったのだ。
そしてついには仲間の気持ちをもばらばらにさせ、弟に傷まで負わせてしまった。
先輩はおれの心を読んでいたかのように言う。
「君は強情だ。
そして、負けず嫌いだ。
ならどうしてその強みを生かそうとしない?」
「強み……」
「ライバル心をあおってチーム力を高める。
それも立派な戦略じゃないのかな?
君がそうであるように、ライバルの存在は己の能力を高めるのに有効だ。
何より君がそれを証明しているのだから、説得力もある」
「……おれ、強くなってるんでしょうか」
「それについては、ライバルに聞いてみるといい。
もっとも、簡単に追い抜かれてしまうような相手なら、君だってライバルとは思わないだろうさ」
「あっ……」
おれが追うから祐輔は強くなっていくんだと気づく。
差が縮まることはあっても、向こうだっておれに追いつかれまいと力をつけていく。
それもそうか。
あいつは一度、おれに春山とエースの座を奪われかけたことがあるもんな。
それに「今の力のままで十分」などと胡坐をかいていては、春山の気持ちが離れていくことくらいあいつは知っている。
先輩がおれの肩に手を乗せた。
ずしっと、重みを感じる。
「部長って役職は、嫌われる覚悟も必要だと僕は思う。
知ってるだろう?
僕はずっと水沢に『鬼部長』と呼ばれてきたし、みんなからも冷血な人間だと思われていた。
こんな人間についてくる仲間などいるだろうかと自問すらしていた。
なのにみんな、最後には僕を慕ってくれた。力を貸してくれた。
なぜだと思う?」
「それは先輩がいつもおれらを見ていてくれたからです。
アドバイスもくれたし、甲子園に行こうって引っ張ってくれたからついていこうと思えたんです」
「違う。
僕が僕のやり方を貫いたからだ。
わかるかな。僕は誰の真似もしなかった。
それが結果的に『甲子園出場』につながったんだと僕は思ってる」
「そっか……。そういうことか」
ようやく、先輩の言いたいことが分かった気がした。
格好いい先輩のようになりたいって思ってたけど、そうか。
おれは最初から「おれ」のままでよかったんだ。
「……はは、今更過ぎますよね。
弟が傷つけられてようやくやり方を変えようっていうんだから」
おれの自虐的な言葉に先輩は首を振る。
「いいや。
誰だって最初からいいリーダーになれるわけじゃない。
苦しみもがきながら、それにふさわしい人間になっていく。
僕は君ならその苦労を乗り越え、成長できると信じたからこそ部長に任命したんだよ」
「部長……」
「はは……。今の部長は君だろう?
でもね、今回みたいに考えに行き詰まったら、いつでも相談してほしい。
僕はK高野球部が本当に好きだし、必要とされれば喜んで力になるつもりでいるから」
「……ありがとうございます」
永江先輩も、部長としてどうあるべきか苦しみ、自分なりの答えを見つけたんだ。
だからこそ、一言一言に重みがあった。
先輩に相談してよかった。
「おれ、自分のやり方でやってみます。
でも、ひとつだけ、まねさせてください」
「何かな?」
「おれも『鬼部長』になります。
いや、少なくとも部ではその仮面をかぶります。
でないとこの先、みんなを引っ張っていけない気がするんです」
「……君のしたいようにすればいい。
ただし、条件がある」
「条件?」
「君に助言できる人間を一人見つけておくこと。
僕に水沢がいたように」
水沢先輩は元副部長であり、永江先輩の中学時代からの友人だ。
話を聞いて、おれの脳裏に祐輔の顔が浮かんでは消えた。
ライバルだけど、おれにとって、なくてはならない存在。
あいつなら相方になってくれるだろうか。
先輩は続ける。
「できればはっきり意見を言える相手がいい。
君みたいな性格の人間には、そのほうが相性がいいだろうと思うよ」
「わかりました。探してみます」
今日はありがとうございました。
おれはそう言って腕時計に目をやった。
今戻れば数学の授業に間に合うかもしれない。
しかし先輩は「もう少しだけ付き合ってくれないか」と言って、持ってきていたボストンバッグからグローブを取り出し、おれによこした。
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