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SS【終わりと始まりを告げるカレー】


奥さんと娘が実家に帰省した。

すると家の中に清々しいような、ちょっと寂しいような雰囲気が漂う。

当たり前のように続いていた毎日が途切れたのだ。

それは一つの終わり。


奥さんと娘が実家からもどってくる前日。

ぼくは買い出しに行く。

カレーの具材だ。

ルーは甘口。

ぼくは中辛が好きだけど、そこは女性陣の好みに合わせている。

娘が小さいころ、甘口のルーにハチミツや砂糖もプラスして、それはそれは甘いスープになっていた。

実家から帰ってくる日の早朝、ぼくは野菜を洗って切っておく。

切ったら火の通りにくいものと、そうじゃないものを分けてザルに入れる。


おおよその帰宅時間を聞いたら、それより少し早くできあがるように調理を始める。

猫舌なのでアツアツじゃなくても大丈夫だ。

女性陣が帰宅しカレーを食べ始める。

ふたたび家族のそろった生活が始まりを告げた。


娘が問題を起こして学校の処分が決まった日。

なんて軽率な行動をとったのかと、ぼくは感情的になり、よけいに心を閉ざす娘。

油の切れた歯車が不快な音を立てて止まってしまった。

それは一つの終わり。


どうでもいい相手なら感情的にもならない。

大切だからだ。

ただお互いに伝え方が不器用で歯車が噛み合わない。


時間が冷静さをとりもどし、ゆっくりと対話が始まる。

ぼくはカレーを作り始める。

その匂いは二階の部屋に居る娘にとどき、そろそろと階段を降りてくる。


しばらくすると、油を差した歯車は力強い音を立ててゆっくりと回り始める。

歯車は次々と力を伝達し、すべてがふたたび動き出した。


カレーが終わりと始まりを告げる。

ぼくにとっては、神様、仏様、カレー様。









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