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SS【ぼくの名前】


ぼくには実体が無い。

夢の中でのみ存在を認識される。


ぼくは不正アクセスを繰り返すハッカーのように、他人の夢から夢へと渡り歩くうちに、ぐうぜん彼女を見つけた。

人当たりが良く世話好きな所に惹かれたぼくは、彼女に恋をした。

彼女を独占したいと思ったぼくは、彼女に近づく者を次から次にバールで殴りつけた。

彼女の夢の中で逃げまどう者たち。


仲良くなろうと近づくぼくを見て、自分も危害を加えられると誤解した彼女は、悲鳴を上げて逃げ回る。

あと少しで彼女に触れられる所で、彼女は夢の世界から消えてしまった。

いつもぼくの姿を見ると逃げていく。

いっそ彼女の脚を斧で切り落としてしまおうか。

そうすればずっとぼくのそばに置いておける。

でも大丈夫。

彼女は毎日欠かさず夢の世界にやってくる。

誰の夢でも自由に出入りできるぼくには、何度でも彼女と仲良くなるチャンスがある。


今日も夢から夢へネットサーフィンならぬ夢サーフィンをしていると、彼女が夢の世界にログインしてきた。

今日は車で追いかけることにしよう。

車ではねて動けなくしてから一緒にドライブを楽しむのだ。



彼女は最近、ぼくのことをこう呼んでいるらしい。


「悪夢」と。


どうやらそれがぼくの名前らしい。


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