SS【カレンダー】
タケシの行きつけの本屋は今日で閉店する。
十代の頃からあちらこちらの本屋で数えきれないほどの本を買った。
中でもこの店ではよく買った。
常連も常連である。
店の入り口の貼り紙には、手書きで閉店のお知らせと感謝の言葉が書かれていた。
タケシは最後だからとたくさん買うつもりで来たのに、今日が最後かと思うと集中して選ぶことができなかった。
結局、来年の卓上カレンダーを一つ購入して店を後にした。
カレンダーはかなり地味なものを選んだ。
最初から最後まで絵も写真も無く、白と黒以外の色がついている所といえば、日曜と祝日の数字が赤いくらい。
余計な情報が無い分、予定などを書き込めば見やすいかもしれない。
実用性重視とはこのことだとタケシは思った。
しかし、タケシが驚いたのは値段。
値札を見て千円かと思いレジに行くと、見間違いで本当は一万円。
正直千円でも高いと思っていたタケシは一瞬顔が引きつったものの、せんべつだと思って気持ちよく払うことにした。
それからしばらくして新年を迎えた。
タケシは大事にしまってあった卓上カレンダーを机の上に置いて、なんとなくパラパラっと最後までめくってみた。
「あれ?」
タケシは思わず声を上げる。
カレンダーは三月までしか日が印刷されておらず、四月からは数字の部分が白紙になっている。
「おかしい・・・・・・」
タケシは首をかしげた。
買った日に最初から最後までパラパラっとめくって見ていた。
少なくとも白紙の月など無かったはずだ。
謎が解けぬまま月日は過ぎて四月一日を迎えた。
タケシは朝から高速道路に乗り、実家へ向かって走っていた。
その日の高速は空いていて、車はなだらかなカーブをくり返す山の中を走っている。
やっと前方に車が見えたと思った時はもう遅かった。
カーブを抜けたタケシの車に、なんと、前方から逆走車が突っ込んできたのだ。
どれくらい時間が経っただろうか。
気がつくとタケシは若い女の子に手を引かれ、長い列の最後尾に並んでいる。
手を引いていた女の子が話しかけてきた。
「気づいた? この列は事故で訳も分からないうちに亡くなった人が並ぶ列だよ。このまま並んで順番がきたら受付のおじさんに出身国、それと名前をフルネームで言ってね。顔も確認するからおじさんの方を向いててね。じゃあ!」
女の子は一方的にそれだけ言うと、どこかへ走り去っていった。
タケシは事故が起きるまでのことを冷静に一つ一つ振り返ってみた。
それから例の卓上カレンダーのことを思い出して悔やんだ。
「あのカレンダーは危険を教えてくれていたんだ。
一万円どころか、百万円、いや、もっともっと価値があったかもしれない。俺が危険に気づき予定を変えていれば・・・・・・」
タケシは天国の行列の最後尾で後悔のため息をついた。
終
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