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SS【究極の武器】


ぼくはこの先予想される治安の悪化に備え、究極の武器をネットで探している。

今はポイントが10倍付くお買い物チャンス期間だ。


この国のお金の価値は下がる一方で、物価の高騰はとどまる所を知らない。

大きな自然災害や有事が危惧されていることもあり、自分や家族を守るために先手を打って備えておく必要がある。

治安が悪くなってくると、話し合いにもならない輩に遭遇するかもしれない。

そんな輩からの略奪を防ぐために、使えそうなアイテムを検索していた。

正当防衛だとしても、できれば人殺しにはなりたくないし、大ケガもさせたくない。だから難しい。


奥さんは、そんな金があるなら貯めろと言う。

ぼくはため息をついた。

奥さんは何も分かっていない。

お金が紙くず同然になる未来はすぐそこまで来ているのだ。

それならそのお金の一部を、この先の混沌とした未来に備えるアイテムに変えた方がいい。


護身用の武器といっても持ち歩くとなると、基本的に刃物は銃刀法違反になるし、警棒やクボタン、メリケン、タクティカルペン、スティンガー、催涙スプレーなどは軽犯罪法に引っかかってくる可能性がある。身を守るという意味では防犯ブザーが無難なのかもしれない。

小柄できゃしゃな女の子や子どもなら、痴漢対策で武器になるものを持ち歩いていても大丈夫かもしれないが、ぼくの場合はかなり微妙だ。下手をすると犯罪者扱いだ。いや、間違いなく犯罪者扱いだ。

しかしそんなことは気にしていられない。

ぼくだけならまだしも、家族を守らないといけない。


迷いに迷い、護身用の武器を選べぬまま一ヶ月が過ぎた。

そんなある日、工場で一仕事を終え、休憩していたぼくに奥さんから連絡があった。


「強盗が家に入ってきた!!」


ぼくはメッセージを読むと急いで早退した。

家には奥さん一人のはず。

ぼくが大急ぎで家に帰ると、キッチンにガタイのいい男が二人倒れていた。

二人とも顔中ボコボコに殴られて耳には菜箸、頭にはフォークが突き刺さっている。近くにある物を瞬時に武器に変えるプロの手口だ。


ぼくはため息をついた。


「遅かったか・・・・・・」


ぼくは通報した後、買おうか迷いカゴに入れたままになっていた護身用の武器たちを削除した。

よく考えたら家には究極の武器ともいえる奥さんがいるではないか。


意識を取り戻した強盗たちの目の前で、使い古した鉄のフライパンを曲げながら奥さんはこう言った。


「あんたら、こうなりたいの? 寝てないで新しいフライパン買ってきなさいよ!!」


そして強盗たちはまた気を失った。


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