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SS【桃だろう】
「あーーいい天気だ。今日は川の水が綺麗だな、ちょっと一休みしていくか」
お父さんはそう言うと、お買い物袋を持ったまま橋の上で両手を伸ばし背中を反らしました。
心地よい風が吹いているので、今日の買い出しは歩きです。
後ろから歩いてきた親子の声が聞こえます。
「お母さん!! 川に何か流れてるよ!!」
小さな男の子が橋の下の川を指差し、お母さんにうったえています。
私がつられて見ると、ボールのようなものが浮き沈みしながら流れています。
ボールは川べりの水草に引っかかり止まりました。
きっと子どもが川べりでボール遊びしていて落としたのでしょう。
少し寄り道をすることにしました。
私とお父さんは川べりで腰を下ろしました。
水面が光を反射してキラキラと宝石のように輝いています。
水底の石の一つ一つがハッキリと見え、魚の姿も確認できます。
私が透き通る水の流れに癒されていると、上流から何か流れてきました。
ボールのような果物のような、丸く桃色の何かが近づいてきます。
水面に顔を出したり隠れたりしています。
「ねえ、あれなあに?」
私が聞くとお父さんは目をこらしています。
「ああ、さっき橋の上から見えてたやつだろ」
「ボール?」
「さあな、近くまでこれば分かるだろ」
私は数メートル先を流れていくボールらしきものを見て、そのあとお父さんの持っているお買い物袋を見ました。
「ねえ、ちょっと、お買い物袋見せて」
「ん? 何か買い忘れたか?」
なんと、お買い物袋に大きな穴が空いています。
いつもお父さんが重たい飲み物を沢山入れるからです。
私とお父さんは顔を見合わせました。
そうです、先ほどお父さんが橋の上で両手を伸ばした時に落ちたのです。
「ねえ、じゃあ今流れていったのは」
「ああ、桃だろう・・・・・・」
お母さんに頼まれていた少しお高い桃は流されていきました。
家に帰り、そのことをお母さんに告げると、お母さんは眉間にシワを寄せお父さんを睨みつけました。
その形相は鬼のようです。
やはり桃と一緒に水に流すわけにはいかなかったようです。
終
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