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SS【鬼の釣り】
人は死んで五十日経つとあの世へ旅立ちます。
あの世は途方もなく広大な世界が積み重なっており、魂のレベルによって行き先が振り分けられるのです。
無数の層の一番下にある奈落には、沢山の鬼たちが住んでいます。
鬼は人間を喰って生きています。
生で喰うのが好きな鬼もいれば、煮たり焼いたりするのが好きな鬼もいます。
捕まえた人間を川魚のように串刺しにし、火あぶりにするのは奈落ではよく見る光景です。
草むらの向こうから鬼に追われる女の姿が見える。
女といってもまだ子どもだ。
ケガをしたのか足を引きずりながら逃げている。
背後からは身の丈七尺はあろうかという鬼が二匹迫っている。
女はよく見れば中々の美人だ。
何やら背中に荷物をしょっている。
鬼に追われても離さないところをみると、食糧や宝石などの、よほど大切なものかもしれない。
女が背の高い草むらに身を隠すと、女の姿を見失った鬼たちは鼻をクンクンとさせ探している。
長い指の先に生えた猛禽類のように鋭いカギ爪で、草を払いのけながら探し回っている。
しかし見つけることができず、そのうちあきらめて二匹とも去っていった。
少し離れた高台からその様子をうかがっていた三人の男たちがいた。
男たちも鬼に狙われ、ここ二、三日、まともに飯も食えていない。
男たちの居る高台からは女の姿がよく見える。
「おい、あの女、何か持ってるぞ!!」
「鬼に追われても手放さなかったところをみると食糧かもしれないな」
「見ろよ、可愛い顔してるじゃないか。へへ、こりゃあ一石二鳥だな」
男たちは鬼の姿が小さくなると三方から取り囲むように女にゆっくりと近づいた。
去っていく鬼たちは風上なので男たちの匂いに気づいて戻ってくる可能性は低い。
女は鬼を恐れてか、相変わらず草むらの中で身を低くしジッとしている。
男たちの一人が女に声をかけた。
「おい女!! そこで何をしている!! その背中の荷物はなんだ!!」
女は怯えているのか身体を小刻みに震わせている。
すると残りの男たちも口を開いた。
「荷物をよこしな。お前、鬼に喰われなくてよかったな」
「まあ、俺たちに喰われるけどな」
男たちは顔を見合わせて笑った。
男が女の肩をつかんで「おい!!」と言うと、女は男の手首をつかんでゆっくりと立ち上がった。
男は宙に浮いている。
女の指先が男の手首にめりこみミシミシと嫌な音を立てる。
「ぐあ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁーー!!」
草むらに痛みと恐怖に苦しむ男の叫び声が響きわたる。
女の指先は鋭いカギ爪になり、きゃしゃだったはずの身体は、いつの間にか筋骨隆々な鬼へと変貌をとげた。
大型の肉食獣でも恐れをなして逃げ出しそうな恐ろしい顔は、目を合わせただけで引き裂かれて骨までしゃぶられそうな雰囲気を漂わせている。
頭から生えた二本のツノは人間の身体を貫くには十分そうだ。
悲鳴を上げた男の手首がちぎれそうになるのを見て、残りの二人は仲間を見捨てて逃げ出した。
しかし先ほど去っていったはずの鬼たちがいつの間にか戻ってきて、逃げようとする男たちを殴りつけて気絶させてしまった。
ムシャムシャバリバリと音を立てながらちぎれた手首をおいしそうに食べる鬼に、戻ってきた鬼が言った。
「うまく釣れたな。今日は数もちょうどいい」
奈落ではずる賢く逃げ足の速い人間を食べるために、鬼たちも知恵をしぼっているようです。
ちなみに女に化けた鬼の背負っていた荷物の中身は酒。
塩焼きにした人間を頂きながら飲む酒は最高です。
終
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