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SS【星2の防刃マスク】
外を歩けば誰もかれもマスク。
地味な色で個性を感じさせないマスクばかり。
他人への飛沫感染をしっかりと防ぐマスクは、これでもかというほど息苦しい。
部屋でジッとしているならまだしも、暑い中を動き回ろうものなら、取って床に叩きつけたくなるくらいだ。
着けるなら息苦しくなくて、しっかり感染を防げるものがいい。
ぼくは大好きなフェンシングの動画を観ながら、ネットでマスクを探していた。そして変なマスクを見つけた。
その名も防刃マスク。
何やら防御力の上がりそうなマスクだ。
一つ三千円もするが、洗えるし二年は使えるらしい。
コメントは一件しかついておらず、評価は星1つ。
コメントはこう書かれていた。
「息苦しくはないし、ケブラー繊維で作られていて丈夫だ。しかしこの異常なほどの丈夫さは何の役に立つのだろうか? よく考えず購入してしまったことを深く後悔している」
ぼくは声を上げて笑った。
ぼくは今、まっすぐ歩けないくらい酔っ払っている。でもどんなに酔って判断力が鈍っても、これだけは買わないと思った。
そして、防刃マスクの下にあった、よくある不織布マスクを購入した。
数日後、不織布マスクと一緒に防刃マスクも届いた。
間違えて防刃マスクもカゴに入れていて、そのまま見もせずに購入してしまったのだ。
どうしようか迷っていると、近くで娘と二人暮らしの妹から電話がかかってきた。
ストーカーが外から家の中をうかがっているという。
以前から話は聞いていて心配はしていたが、いつもはすぐ居なくなるのに、今日は今にも侵入してきそうな感じだという。
とりあえず通報しろと伝えると、ぼくは妹にもこの変わったマスクを見せてやろうと胸ポケットに押しこみ車を走らせた。
妹の家の前には誰も居ない。
妹が趣味で育てているミニトマトがあるだけだ。
突如、上の方から物音がした。
なんと不審者が屋根の上に上がり、今にも二階の妹の部屋に侵入しそうになっている。
ぼくが「おい!!」と怒鳴ると、不審者は屋根から飛び降りた。
そして逃げるどころかぼくの方へ突進し、鋭利なナイフでぼくの胸を一突きした。
ぼくはあまりの痛みで思わずしゃがみこんだが、ナイフはぼくの胸には刺さっていなかった。防刃マスクが刃物を食い止めたのだ。
ぼくは妹がミニトマトを育てるのに使っている支柱を一本抜き取ると、不審者と向き合った。
ぼくは細い棒を手にすると人が変わる。
「ぼくの間合いだ。少しでも動けば喉を突く」
不審者がぼくの気迫に押されているうちにパトカーがやってきた。
二階の窓から一部始終を見ていた妹は、兄が刺されたと叫んでいるが、ぼくはピンピンしている。
ぼくはミニトマトをつまみ食いしながら携帯を取り出した。
防刃マスクのおかげで命拾いしたので、星五つを付けようかと思ったのだ。
でも、本当は丈夫なマスクじゃなくて防刃ベストでいいはず。
このアイテムは偶然ぼくの命を救ってくれたが、何か間違っている気がする。
だからぼくは心を鬼にして星2をつけた。
終
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