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SS【星五の砂時計】
引っ越ししてきて間もないぼくは、ネットで部屋に飾るオシャレなアイテムを探していた。
引っ越しと言っても転院しただけだ。オシャレなアイテムは病室に飾る。
ぼくはもう長くはない。
不治の病におかされ余命宣告までされている。
目にとまったのは砂時計。
中でもオレンジ色のライトが幻想的なムードを演出する砂時計が気になった。
ただやたら評価が低く、星は一つしか付いていない。しかも他の十倍以上という強気な価格設定だ。
商品説明には書いてないが、コメントを読む限りでは、どうやら最初に触れた人の残された人生をカウントするようだ。
中に入っている砂の量は同じだが、人によって砂の落ちる速度が違うらしい。
一度カウントを始めれば、すべての砂が落ちると同時に息を引き取る。例外は無いようだ。
もし事故で明日死ぬとなれば、砂の落ち方が異常に速くなるという。
誰か一人の寿命をカウントしたら、ただの砂時計に戻ってしまうという。
すでに大雑把な自分の死期を知っているぼくは、おもしろいと思い砂時計を購入した。
妹に持ってきてもらった箱を開けると、ぼくが触る前に妹が砂時計を取り出してしまった。
少し身体を動かしただけでも痛みの走るぼくを気遣った行動である。
砂時計は妹の残された時間をカウントし始めた。
ぼくは目を疑った。
異常なほど砂が速く落ちている。
このままのペースでは、数分で上に残る砂が無くなってしまいそうだ。
ぼくはとっさに砂時計をひっくり返した。
しかし驚くことに砂時計の砂は、まるでこの星に重力など存在しないかのように上へ上へと勢いを落とすことなく流れ続けている。
妹に持病は無いし、調子悪そうにしていた記憶も無い。
おそらく事故だ。
ぼくは妹の危機を回避するためゾーンに入った。
廊下の方で数人の男女が大声を出して騒いでいる。
どうやら精神病棟から抜け出した男性患者が暴れているらしい。
しかも他人の病室から果物ナイフを盗み、勢いよくぼくの病室へ入ってきた。
奇声を上げて妹に突進する男の前に、ぼくは立ちはだかった。
ぼくを刺し、奇声を上げて逃げていく男。
妹をかばうためベッドから勢いよく起き上がった時に、砂時計は床に落ちて壊れていた。
砂はもう動いていない。
立ちすくむ妹の肩をポンと叩き「良かった、無事で」と言ったのが、ぼくのこの世で最後の言葉だった。
ぼくは薄れゆく意識の中で、最後にいい買い物ができたことに満足していた。
ぼくは思った。
「ぼくだったら星を五つ付けるのに」と。
終
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