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SS【魔法学校に潜む妖魔】後編


校長先生はゲートの中央に立ちはだかっています。命にかえても生徒たちを守るつもりのようです。

それに奈落の妖魔たちが地上に出れば、多くの犠牲者が出るでしょう。

三十分以上に及ぶ防衛戦の末、ネニモツ先生を中心とした先生たちの活躍により、妖魔たちを押し返し、無事にゲートを閉めることに成功しました。

あとは二度と開かないように封印するだけです。

先生たちの多くが防衛戦で負傷したことで、残りの授業は中止になりました。

生徒たちは寮へと帰っていきます。


ミキちゃんはしばらく教室に残って自習した後、図書室へ向かいました。

ネニモツ先生にゲートの中から飛び出してきた妖魔たちの話を聞いたミキちゃんは、それらを妖魔図鑑で調べたくなったようです。

図書室に人影はなく、いつもいる司書のおばちゃんも居ません。

星の数ほどある蔵書と、美術品として飾られている見慣れた石像(ガーゴイル)があるだけです。



その頃、校長室では数人の先生たちが集まって話をしていました。

どうやらゲートの封印と補強が済むまでは、先生たちが五人ずつ交代しながら二十四時間体制で見張りを続けるようです。

その時です!! ゲートで見張りをしていた魔法道具を教えるロッド先生から連絡が入りました。

先ほどの防衛戦で、ゲートの外に出てきた妖魔を一匹逃がしたかもしれないというのです。つまり一匹だけ学校内に侵入を許した可能性があるのです。

校長先生は首をかしげて言いました。


「そうかな? 校内に妖気は感じないが。でも念のためみんなで校内を調べてみるか」


それを聞いたネニモツ先生は、何かを思い出したように最初に校長室を出ていきました。



図書室のソファに座って妖魔図鑑を読んでいたミキちゃん。

急な睡魔に襲われ眠ってしましました。


ミキちゃんは夢を見ています。

夢の指輪を着けたまま眠ると、その人が辛い時に一番そばにいてほしい人が現れます。

ミキちゃんにはゲートから次々と飛び出してくる妖魔が見えています。

先生たちが防衛する中、食いしん坊のタケルくんも鉄の槍を手に戦っていました。

タケルくんが何か言っています。


「ミキちゃん、どの妖魔もおいしそうじゃないね。特にあの羽の生えた石像みたいのは、かじったら歯が欠けそうだよ」


命懸けの防衛戦なのに、ぜんぜん緊張感の無いタケルくん。

きっとタケルくんには妖魔たちが骨付き肉に見えているのでしょう。


突如、タケルくんが床を力強く踏み鳴らしました。


「ダァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ーーン!!」という大きな音が辺りに響き渡り、その場にいる者たちが一斉に振り向きました。


ミキちゃんはそこで目を覚まし、辺りを見渡すと何かに気づいた様子です。

すぐに魔法の詠唱を始めました。


「怒りの念は火の如く、浄化の炎よ、我が闘気となって敵を焼き尽くせ!」


ミキちゃんは燃え盛る赤い闘気をまとっています。

そこにネニモツ先生がやってきました。


「こらこら、紙の多い図書室で火属性の魔法はいけませんよ」


そう言うとネニモツ先生は、愛用の風の杖を振り上げ、人一人分くらいの大きさの小さな竜巻を発生させたかと思うと、次の瞬間、竜巻は疾風のごとく駆け抜け、見慣れた石像にぶつかりました。

そうです。見慣れた石像は妖魔のガーゴイルでした。石像と見た目そっくりの妖魔が入れ替わり、気配を消して潜んでいたのです。どちらも石像なのでぜんぜん見分けがつかないのです。

美術品の方の石像は妖魔が隠したに違いありません。


「グギャァ ァ ァ ァ ァ ァ ーー!!」


石像のふりをしていたガーゴイルはネニモツ先生の強力な風魔法ではじき飛ばされ、柱にぶつかると断末魔の叫び声を響かせ割れてしまいました。


ネニモツ先生は言いました。


「石像と見分けのつかない妖魔の存在に気づいたこと、それに勇敢さは認めますよ。誰かさんの影響でしょうかね」


ミキちゃんは図書室で寝てしまうなんて初めてです。きっと急に眠くなったのは妖魔のしわざです。


それから数日後、ネニモツ先生は授業で、奈落から来襲した妖魔に一歩も引かなかった勇気ある一年生の話をミキちゃんの名前を出さずに語りました。

そして最後にこう付け加えました。


「彼女は将来、私を超える魔法使いになると思います。だから卒業するまでは甘い顔は見せません。彼女の成長のためにもね」



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