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SS【ロープ】
ロープに足を絡ませ、しがみついているぼく。
周囲を見渡すと同じロープが無数にぶら下がっていて、みんな必死になってしがみついている。
下を見下ろすと大勢の人たちが見える。
うつむいて座り込む人。
登ろうとする人を引きとめる人。
愚痴を吐いたり冗談を言いながら酒盛りする人たち。
遥か高くまで登った人に意味不明な罵声を浴びせる人。
それに共鳴する人。
中にはロープを揺らして落とそうとする人もいた。
ぼくは罵声を浴びせられたりロープを揺らされたりはしない。
まだ少ししか登っていないからだろう。
ぼくの高さなら下にいる人たちはハッキリと見える。
子供のころは登ることがそれほど苦にならなかった。
身軽だったからだろう。
大人になると荷物が増える。
大抵の人は途中で登ることを放棄してスルスルと自分からロープを下りていく。
それぞれに自分専用のロープがあって、ぼくの選んだロープはぼくにしか登れない。
放棄すればロープは消えるだけ。
ロープの先は厚い雲で覆われ拝むことは叶わない。
ぼくにはもう、登る力は残されていない。
そんな弱音も脳裏をよぎった。
それでもロープを離さなかった。
握る力が無くなってきて、少しずつズルズルと滑り落ちている気すらする。
落ち続けてそろそろ地上かと思って下を見ると、人々の姿が今までで一番小さくなっていた。
遥か下からぼくに罵声を浴びせる人がいる。
空を見上げると丸い穴のあいた天井が見えた。
ぼくのロープはそこへとつづいている。
ぼくはニヤッと笑い呟いた。
よし!! 次のステージだ。
終
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