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SS【甦った記憶】
ぼくには三つ上の生き別れたお姉ちゃんがいたはずなのに、どうしてもハッキリと思い出せない。
ぼくはとにかく物忘れがひどいのだ。
やたらとヘルシーなカップ麺だなと感心していたら、それもそのはず、粉末スープを入れ忘れている。血圧の高いぼくにはちょうどいいのかもしれないが、せめて半分くらい入れたいものだ。
ある時は買い物が済み、店を出ようとすると店員さんが叫びながら走ってきた。何をそんなに慌てているのか、この狭い日本、そんなに急いでどこへ行く? と思っていたら、店員さんが手に持っていたのはぼくの買い物袋。ぼくはお金を払い、買ったものを袋に詰めただけで満足してしまったようだ。
そんな三歩歩けば忘れるぼくは何かとミスが多い。その代償か次々と仕事を首になった。信用も失い、当然お金も貯まらなかった。
それでも嫌なことさえすぐ忘れるぼくは今日もご機嫌だ。
そういえば数年前、ぼくの住む町に巨大な隕石が衝突するなんてニュースがあったことを思い出した。
どうりでみんな引っ越ししていったわけだ。
運命の日、何の準備もしていなかったぼくが今さら慌てても仕方がない。なぜなら衝突予定時刻まで十分を切っている。
しかし隕石だと思われていたものは、見た目が隕石の巨大な宇宙船だった。
地上スレスレで停止すると、中からひょろっとした女性の宇宙人が降りてきてこう言った。
「すいません、おトイレ借りしたいのですけど」
「はい、どうぞこちらです」
宇宙人は用を済ますとお礼にといって、星の砂をくれた。
ぼくはその夜、チャーシュー麺に星の砂をかけて食べた。
すると今まで忘れていた記憶と前世の記憶までもが甦ってきた。
ぼくは宇宙船が消えていった空を見つめて呟いた。
「お姉ちゃん、生きていたんだね。でも、ぼくを連れて帰るのを忘れてるよ・・・・・・」
終
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