あなたがいなくなるときに

ーーすい臓がん。
私の伯父であり、母の兄であり、伯母の夫であり、従兄弟の父である人。
大工で、長男で、貫禄と威厳があって、声が大きくて、怒ると怖い、
「快活」という言葉の似合う人。

私がまだ子供の頃、
兄妹の多い母方の親戚は、毎年新年やお盆に伯父の家に集まっていた。
ピザやお寿司を頼んでくれて、夜はすき焼きで、
大人がビールを飲んでいる間、子供達はゲームをして遊んでいた。
伯父の家の麦茶は少し甘くて好きだった。

10こ以上年上の従兄弟は、たくさんゲームを持っていて、
三姉妹の長女の私にとって、甘えられる兄のような貴重な存在。
よく一緒に遊んでもらった。

伯父は四兄妹の長男。
私の母は、兄、兄、姉、母の末っ子。
伯父の家は私の家から車で15分ほどの距離で、
「彩葉、お母さんと喧嘩して家出するならうち来いや！ははは！」
と冗談で言っていたこともあった。

伯父は抗がん剤を使わない。
その潔い選択は伯父らしいとも思えた。
でも、そんな伯父らしくいられるのは、
7月いっぱいだろうと知っている母は、
緊急で親戚一同の「兄妹会」を開いた。
4月と6月に入籍した、私と妹の"旦那お披露目会"という名目で。

「兄妹会」は親戚ほぼ全員参加で、30人近くになった。
久しぶりに集まった親戚の中には10年ぶりくらいの従兄弟もいる。
母の四兄妹と、私の従兄弟世代と、そのまた子供たちがいるから、
かなり賑やかな会になった。
走り回る従兄弟の子供達を眺めながら、
自分たちが30代、40代ということを不思議に思う。
中身は昔と変わらない気がしているのに。

昔も今も変わらない。
伯父はまだ元気そうに見えたし、ご飯もたくさん食べていた。
白髪は増えたけど、大きい声もそのままだ。
私も、従兄弟たちも、見た目は大人になったけど、
会話のレベルはそんなに変わらない。笑
夜な夜なゲームをしていたことも、昨日のことのように思い出せるのに。
伯父は、あと半年でいなくなってしまうの？
実感がなかった。

写真をたくさん撮った。
伯父とのツーショットも撮った。
実は、昔亡くなった祖父の遺影は、私と撮った時の写真だったのだ。
寝たきりで、滅多に笑わなかった祖父が、
奇跡的に笑顔で写っていたらしい。
伯父はたくさん笑うから大丈夫だろうけど、
そんなことも思い出しながら、伯父を少しでも笑顔にできたらと思って。

伯父と伯母のツーショットも撮った。
大工の妻で、カラッとした性格の伯母は、
カメラを向けると、伯父に体を寄せて、
料理のお皿を持ちながら、変顔を作ったりした。
なんか、若いカップルが撮る時みたいだなと思った。

「兄妹会」は明るく楽しい会だった。
全然しんみりとした空気を感じなかった。
嬉しかった。

でもーー
わかっている。

東京に住んでいる私は、伯父とまともに話すのは最後かもしれないと。
そして、
兄を失うとわかっている母
父を失うとわかっている従兄弟
今までの人生を共にしてきた夫を失うとわかっている伯母ーー

私が親を失うとわかったら
私が妹を失うとわかったら
私が彼を失うとわかったら・・・
どういう気持ちで毎日を過ごせばいいんだろう。

おじちゃん。
たかおじちゃん。
みんなにとって、いろんな形で大事な人だよ。
ごめんね、私はおじちゃんが元気すぎて、まだ信じられなかった。
でも、みんなそれぞれ、たかおじちゃんのことどう思ってるのか考えたら、
私まで涙が止まらないよ。
すい臓って、転移が早いんだってね。
おじちゃんのおかげで勉強したよ。
人は、死を知った時、逃避するんだって聞いたけど、
それを受け入れて、
最後まで自分らしく生き抜こうとする姿勢、
本当にすごい。尊敬します。

伯父は、自分の父親を見送り、まさかの妹を見送り、母親を見送ってきた。
そして次は自分が行くとわかったとき。
その時の伯父の気持ちは、
きっと、私もその時にならないとわからない。
私は、私の”その時”に、
「そうか、わかった」って受け入れられるような人生なら、
思い切り生きたという証なんだろうと思う。
そういう人生でありたい。

今はまだ、伯父は元気。
これから半年が大変になるかもしれない。
わかっていたとはいえ、母も伯母も従兄弟も泣くと思う。
そして、やっぱりいつか、
私も近い人を見送り、
自分も最期の時を迎える日が来る。
悲しい、怖い、寂しい・・・別れなんて考えたくない。
長生きしてほしい。みんな。
でも、限りあるからこそ、私は思い切り生きるし、
大切な父と母と、彼と、周りの人を、
これでもかってほど、たくさん笑顔にするんだ。