自作短編 第三弾 『刹那、火花を散らせ』
以前小説サイトにて書いていた短編を、改めて書き直したものです。はじめて評価が伸びた作品なので、個人的に思い入れのある作品です。ジャンルとしてはSF・恋愛でしょうか? 最後まで読んでいただければとても嬉しいです。
『刹那、火花を散らせ』
「命は目に見えない」
でももしも見えたのなら、きっとそれは花火のような姿に違いない。美しく空を彩り、散る姿さえも愛おしいあの花火のような……。
…
…
…
「パチパチ」
「なんで声に出すんだよ」
「その方が楽しいじゃん」
「はあ? 意味が分からん……」
屋上で彼女と線香花火の最中。これから始まる大きな打ち上げ花火が見えるようにと、屋上にこっそりと侵入した僕と彼女だが、待ちきれなかった彼女は線香花火をまず楽しむことにしたらしい。今はパチパチしている。
「ねえ、少し聞いてくれない?」
「何を」
「私の話を」
「別にいいけど」
「なら話すね……私ね、最近死について考えてるんだけど」
普段から能天気な彼女にしては珍しいと、僕は心の中で驚いた。
本当だよ?本当に結構驚いたんだよ?だって君らしくないんだもの。
「死ってどんな感じだと思う?」
彼女は線香花火を見つめながら、僕にさりげなく話題を振る。困る。
「うーん……難しい質問だなあ。まだ僕は全然若いし、正直あまりそういうことは考えたことがないな」
「ふーん、ポジティブなんだね」
「君に言われたくない」
ふと腕時計を見ると打ち上げ花火まであと10分程度だった。あと少しだ。もう、そんな時間だった。
「私は死ぬのは怖いよ」
「そりゃあ僕だって死ぬのは怖いよ」
「いや、きっと私はもっと怖く感じてると思うよ。より実感的に、よりリアルに」
そう言いながら僕を見つめる彼女の瞳は、ひどく透き通っていて、僕の瞳じゃ反射もできないような、まばゆい光がその瞳には浮かんでいた。綺麗だったが、少し怖くなった。
「どうしてそう思うの?やけに自信満々じゃないか」
「……そろそろ死ぬからだよ」
「えっ」
線香花火は光を削っていく。
「何言って」
「正しくはもう死んでるんだけどね」
普段の表情からは予測もできないほど、真剣な面持ちに、僕は気が気じゃなくなった。
「ど、どういうこと? 冗談でしょ? 何言ってるんだよ……」
「悪いけど、悲しいけど、今日はエイプリルフールじゃないんだ」
風が吹く。屋上は風が強い。お願いだ、光を消さないでくれ。
「神様にお願いしたの。あの世に行く前に一つだけ願いを叶えてくれって」
「だから何を言って」
「それでね、一番大好きな人と花火を見たいって言ったの」
「……」
「でも神様も忙しいからそこまで待てないらしくて、だからわざわざコンビニで線香花火買ってきちゃった」
「……本当か? それ」
風が一瞬止んだ。心も激しく病んだ。
「うん、嘘じゃないよ」
その素敵な笑顔が、僕にもこの現実が真実だと悟らせてくれた。彼女は嘘など言わない、そんなの僕が一番分かっていた。
「大好きだったよ、またね」
打ち上げ花火の音がした。
振り返った。
そこには満面に咲いた花があった。
慌てて、散った花を浮かべた僕は後ろをまた振り向いた。そこには灰となった線香花火の残りはあっても彼女はいなかった。
彼女がそこにいた足跡も、香りも、温もりも、もう僕は何も感じなかった。だけど最後に一言だけ僕は呟いた。
一生分の愛を込めて。
「僕もだよ……またね」
パチパチ
その声がずっと心の中でトンネルのように反響する。だから僕は君に会いにそのトンネルの奥へ進んで行くんだ。いつかきっとまた会えるよ……だから待ってて。なんて思いながら。
これにて『刹那、火花を散らせ』は以上です。ここまで読んでいただきありがとうございます!! これからも精進していきますので、応援してくれると嬉しいです。
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